2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

にがつのまとめ

 引越しでバタバタしていたこともあってあまり冊数は読んでいない。

 読む本読む本あまりピンとこなかったから頭にも残ってない。特に期待していたNSAがよくなかった。ディストピアものとして読んだのが悪かったようだけれど、NSAとナチの組み合わせで売り出すなら、もうちょっとナチの特殊性を炙り出すような方にいってほしかった。あれではナチを面白がるか現代をナチ的だと揶揄するくらいに読みようがない。まぁ、いい。そんなわけで二月後半はNSAにはじまりファーザーランド(これは傑作)、ホロコースト関係の本を何冊か読んだ。

 前半は森見特集。彼の作品に最初に触れたのは失恋した二回か三回の頃だったと思う。「クリスマスファシズム」という言葉が魅力的かつ実戦的(実践ではない)で、クリスマスが来る度バレンタインがくる度友達が二人で海水浴に行く度文化祭に行く度に影響されていろんなアジを飛ばしたものだ。(ああ恥ずかしい)

 話が逸れた。読み直したのは単に京都から引っ越すことにしたからであって、自分に春がきたからではない。(詳細は先月に書き散らしたブログの記事を読んでもらえばわかる)。そういうわけで夜は短しから四畳半神話体系、有頂天家族へと読み進めた。四畳半神話体系は何度も読んだこともあって、さすがに読み進めるのが辛かった。三十路にはいって共感できる部分が少ないというのも大きい。(幸せ家族を憎むくらいの力はあるのだけれど)。むしろ、というかどういうわけか有頂天家族の血縁の強さに惹かれた。心理学的には社会性あっての人間なので、無意識的に間柄に憧れるのは当然なんだろうけれど、信念と剥離したような感動が沸き起こって不安半分、不思議半分な読後感を覚えた。よくわからんがそんな感じで楽しかった。森見作品は面白いから読め、と他人に薦めにくいのだけれど、今回も同じだったな。


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 最初に前後にわけて書いていたから忘れていたけれど、ついに魔術師スカンクを読み終えた。期待を裏切らない、いや期待以上でかつこれからの人生が歪みそうな作品だった。江波光則の作品はストレンジボイスから好きで、ストイックな作風に引きつつも魅了されていた。面白いけれど実際に目の当たりにしたくない、体験どうこう以前にこういう心理状態にすらなりたくない、彼の作品にはそんなえぐみがある。スカンクの内容はストレンジボイスを二倍、三倍濃縮したような作品で、読み終えたときには引きつりを通り越して笑ってしまった。まだネットの方にも残っているようなので興味がある人は是非読んでほしい。

ストーンコールド | 最前線 - フィクション・コミック・Webエンターテイメント

 総合的には江波光則、森見登美彦、ファーザーランドの順に面白かった。

 そんな感じ。

 

2022年2月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:4532ページ
ナイス数:142ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2022/2
■夜と霧 新版
時間を経て読み直してみるとヴェイユと交差していたりショーペンハウアーのアレンジみたいなことも書いてあって、思っていたよりも西欧思想寄りの哲学書だった。著者自身は心理学者でそれなりの考察もある。前半の殴られ追い立てられ、衣食住すべてを奪われ食欲だけに縋りついて「生ける屍」になる、そして鉄条網越しの自由が無価値なものに見えはじめる、といったあたりは如何にも認知的不協和だ。ただ、生き残るための戦術については状況分析よりも内面に重点を置いているため全体としては心理学というよりは哲学寄りの分析になっている。
読了日:02月26日 著者:ヴィクトール・E・フランクル
https://bookmeter.com/books/253543

■私はガス室の「特殊任務」をしていた
チクロンB投入の補助(石蓋を引き上げる役)や射殺作業の際に囚人を押さえつけた(もちろん命令)等々の記述があり、アイシュヴィッツIとの役割の違いに唖然とさせられる。囚人というより殺人の手伝いをさせられているような印象だった。そもそも作業以前にガス室の光景が異常でフィクションをじみたお遊びが一切ない。肌は赤や青に変色、中には眼窩が飛び出して血まみれになっているようなものもあったらしい。何から何まで強烈な、教養として読んでおくべき一冊。
読了日:02月26日 著者:シュロモ ヴェネツィア
https://bookmeter.com/books/94507

■ビルケナウからの生還―ナチス強制収容所の証言
飢餓と暴力が支配する収容所の記録、思いきやビルケナウだけではなくアウシュヴィッツ、フランスのピティヴィエ等々収容所を歩き回ったつわものだった。働いていた職場も様々で、整地作業から石切り、炭鉱、看護室、そしてカナダや特殊任務班まで回っている。(さすがにゾンダーコマンドにはなっていない)。基礎体力はもちろん、各々の職場への適応力、コミュニケーションもかなり高い。
読了日:02月23日 著者:モシェ ガルバーズ,エリ ガルバーズ
https://bookmeter.com/books/636685

ホロコーストナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)
網羅的で記述も均一、他の領域との連関もしっかりしてる。ホロコーストを「学ぶ」には量が足りないけど、入門や知識の整理には適切の本だと思う。名著。
読了日:02月21日 著者:芝 健介
https://bookmeter.com/books/479033

■ファーザーランド (文春文庫)
アメリカ外交を軸に独ソ両国の全体主義を相対化しようとしてみたけど……だめだったというのがいいよね。ソビエトも相当あくどい国ではあったけれど、ドイツの計画性とこしらえて数字、ひとつの民族に対する執着は他に類を見ない。そもそも国家の体制とは何ら関わりのない事柄であれほどの執着を見せたことが異常なんだけど、そういった全体主義の外部を見せてくれる。批評性のある良質な作品だった。
読了日:02月20日 著者:ロバート ハリス
https://bookmeter.com/books/547826

NSA 下 (ハヤカワ文庫SF)
統計処理にはじまったナチスの物語が新兵器新技術の海に着地するとなれば、それだけでビジュアルとしては完成したと言える。原爆、顔認証システム、外科手術による思想等背...ハイテクでグロテスクなところが実に良い。ただ、いささか思慮に欠ける。ナチスで「この画をやりたい」以上のものがない。最後の最後で二重思考を唱えるくらいの知性が欲しかったがそれもない。(大げさな手術をしておいて直情的な反応するならロボトミーと大差ないじゃん)。ただ、前巻よりもノリと勢いはあるので、相対的には面白かった。チャラいSFだなぁ
読了日:02月18日 著者:アンドレアス・エシュバッハ
https://bookmeter.com/books/19034430

NSA 上 (ハヤカワ文庫SF)
ユダヤ人迫害とネットを通した民族差別(ネトウヨに例える人とかいそう)のあわせ技とか個人情報を盗んでの恐喝とか色々と現代的な要素を盛り込んではいるけれど、それが濃くなれななるほどナチ的ではなくなる、というジレンマ。むしろ特定の国家を架空の設定を根拠に「ナチ的」だと思わせる分、悪質かもしれない。1984のように架空の国を舞台にした方がSFとしてもIFとしても筋の通った話になったのではないか
読了日:02月17日 著者:アンドレアス・エシュバッハ
https://bookmeter.com/books/19034429

■スーサイドクラッチ 魔術師スカンクシリーズ 3 (星海社FICTIONS)
ストーンコールドが損得勘定の先に殺意を視るサイコでスピットファイアが勘定があっていても気が乗らなければ人を殺さないサイコで、これは計算もしないし気だるいから何もしないけど、やるとなったら細胞の一片まで使って殺して殺して殺しまくるモンスター。今作ではついに人間をやめてしまった。ジャンルとしては全ての作品が着地点を間違えてるんだけど、それを面白い、そういう手もあったかと思わせてしまう凄みがある。人によっては迷作と言う人もいるだろうけど、俺は傑作だと思う。三部作全て。
読了日:02月06日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6883934

スピットファイア 魔術師スカンクシリーズ 2 (星海社FICTIONS)
社会のクズに鉄槌を下すとか金がほしいとかならまだわかるけどバラしたい、相手の臓器を見たいってのが本音だからたまらない。作風は俺たちに明日はない、もといアメリカンニューシネマのようで、前作のカイジと同じくパロディになっている。といってもヒロインとのつながりは殺意とそれに対応した承認欲求だし、正義云々も社会派映画を飛び越えて腸カッ捌きたい!!とひたすら宣うサイコサスペンスに着地しているのだけれど。ジャンル越境上等の作風は相変わらずだった。
読了日:02月06日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6721149

ストーンコールド 魔術師スカンクシリーズ 1 (星海社FICTIONS)
守銭奴から見た学校社会、スクルージが損得勘定の外で動く人間を軽蔑するという内容でクリスマスキャロルの序盤をひたす引き伸ばしたような作品だった。そのせいで主人公は目を潰されるまでいじめられるわけだけど、この銭ゲバ的態度と同調圧力が拮抗すり様がとにかく辛い。世間の論理とはいえ、その武器で殴り合うのはルール違反だろう、と思えてしまう。ただ見方を変えれば愚痴をグダグダ並べているだけだから、作品単体では評価が難しい。「この学校をコロンバイン高校にしてやろう」は宣言通りに実行したから、本命はこれからなんだろうな。
読了日:02月04日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6275909

■ストレンジボイス (ガガガ文庫)
読了日:02月02日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/309484

有頂天家族 二代目の帰朝
森見で続き物というのがいまいち想定できなかったけどこれはいい。呉一郎はあの人で二代目は癇癪玉で破門された理由は弁天で……と一作目から情報量がほとんど変わっていない。それでも読めてしまうのは巧妙な物語展開と彼の文体のおかげだろう。よくできた作品の続編は一作目より落ち目というのはよくあることだが、これは読んでよかった。素晴らしい。
読了日:02月02日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/9395743


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