2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

はちがつのまとめ

 安部公房を読み直したり中村元を読み直したりいろいろ。大学を卒業してから手にとっていなかったせいか忘れていた事がいろいろあった。中論は面白いとか。

 それと前者の著作から離れていった理由も思い出した。持って回った言い方をしておいて結局は無意識なのだ。脱構築化されたのか、単にメタな視点をもって冷ややかになったせいか、理なのか心なのかいまいちはっきりしないが、この手のやり口が急に嫌になった。そのような領域は実際にあるけれども、それを表現に回してしまっては負けではなかろうか。せめて理性なり認識の枠組みをはっきりさせるくらいの根性はほしい。人によってはそのレトリック自体が魅力的なのだろうけれど、そこまで追ってみようという気にもなれない。

 無意識つながりでは外山の思考の整理学もぱらぱらめくってみたが、何の感慨も沸いてこない。元から梅棹忠夫に文系の思想を付け加えたような本だから情報技術を抜いたらあとに残るのはひたすら荒野。(そういえば安部公房も無意識を捉えるのにカードを使っていた。ただ熟成させる外山とは違って目が醒めたらカードを整理して因果関係をはっきりさせていたはず。確かカードをコルクボードに並べて紐でつなぎあわせる方法で、米のプロファイリングの技術に似ていた。死に急ぐ鯨たちでは(名前は出してないが)チョムスキーっぽいことを発言していたし、言語とか情報に関わる事は収集するようにしていたのかもしれ……って、まぁ、そんなことはここではどうでもいい)

 何なのだろうな、やっぱり歳か?

 まぁそんなこんなで何となく疲れた毎日を送っている。最近は退行してSFと怪奇小説三昧。シェクリィおもしろい。

 

8月の読書メーター
読んだ本の数:25
読んだページ数:5827
ナイス数:195

笑う月 (新潮文庫)笑う月 (新潮文庫)の感想
発想、創作の作法としてはありふれてるけど、そこに辿りつくまでの分析が面白い。夢を書き出すにしてもいきなり枕元にメモを置くといった助言ではなく、覚醒/睡眠時の意識にまで視点を戻し、意識を量的に捉えて文字として出力するまでの課程を明らかにしている。ハムスターとアムダを聞き間違えた末に人間狩りへと発想を飛躍させているが、これも検証よりも整合性をとっているからこそできている。開き直るのも作家の才能なのだろう。無意識とか不条理といったふわふわとしたものを捕まえて論理的に再構築する手際の良さが安部公房の持ち味だが、そ
読了日:08月01日 著者:安部 公房
カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)の感想
砂の女、燃えつきた地図等々の代表的な長編の習作を収めた短編集。収録作はあくまで原型だから短編としては物足りないが安部公房の文体の変遷、そこに滲み出た問題意識を知る事ができる。特に失踪三部作から方舟さくら丸までの飛び方は顕著でチチンデラ・ヤパナの写実と思索を混ぜたような文体からナンセンスだが不思議にロジカルなユープケッチャへの飛躍は目を見張るものがある。これ程ではないがチチンデラとカーブも自然主義幻想文学程に作風は異なる。安部公房という作家の歴史、作風の広さを知る事のできる一冊。
読了日:08月01日 著者:安部 公房
砂の女 (新潮文庫)砂の女 (新潮文庫)の感想
四方を砂に囲まれた状況がサスペンスを醸成し、そこに埋没していく心理が共感を呼ぶ。が、そのような読み方を安部公房自身はしていなかったのではないか。もちろん、カルトに誘拐され組織への服従を合理化せざるおえない男の心理、認知的不協和のモデルとして読む事は可能だ。娯楽として読めば当然そうなる。しかし、実存主義者としてはサルトルに対抗して本質を掴むことを目指し、フーコーのように狂気のあり方に注視したはずだ。
読了日:08月02日 著者:安部 公房
けものたちは故郷をめざす (新潮文庫)けものたちは故郷をめざす (新潮文庫)の感想
砂の女で覚醒する前の安部公房作品。思弁も象徴も控えめで彼らしくない、のだけれど、それはそれとして娯楽小説としてしっかり読ませてくれる。横転する機関車、船室で明らかになるやくざの陰謀……そういった活劇を展開しつつ、大陸の雪原で自動車運転手や中国の市場を幻視する様は確実に安部公房だったりする。凍傷にかかった相棒の指を容赦なく切り取ってしまうなんても彼らしい。
読了日:08月02日 著者:安部 公房
イエズス会宣教師が見た日本の神々イエズス会宣教師が見た日本の神々の感想
キリスト教的な世界観で日本の神々をデビルと一括りにしている割によく調べてある。古事記に登場する諸々の神々はもちろん、祇園祭(グィオン)がスサノオに向けたものだということや春日大社藤原氏の祖神を祭っていることにも触れている。なお、春日大社の鹿はカスンガという悪魔の使いで触れたら刑罰、殺したら死罪とのこと(現地ではもう忘れ去られているけど)。切支丹が神具に飯を持って食べた事を殊更褒めている記述なんかみると感情がざわつくが、全体的にかなり詳細で「汝の敵を知れ」では片付けることのできない知的好奇心に溢れている。
読了日:08月04日 著者:ゲオルク シュールハンマー
沈黙 (新潮文庫)沈黙 (新潮文庫)の感想
フェレイラやキチジローの弱さがロドリゴの棄教を支える構図は”うまい”のだけれど、キリスト教を題材にこれをやってしまうのは小説的というか危険に思えた。単に殉教に対する沈黙にしてしまえば側はよりらしく見え……るのだろうけれど、それでは私小説にならないのだろうなぁ、やっぱり。難しい。
読了日:08月04日 著者:遠藤 周作
ゴジラの精神史 (フィギュール彩)ゴジラの精神史 (フィギュール彩)の感想
様々な角度のゴジラ評をかき集めて昭和二十年代から三十年代の日本を分析した精神史本。元登戸研究所職員疑惑の芹沢、北京で恐竜の化石を掘っていた山根、SF条約の締結を前にしてゴジラ情報の発表を渋る国会、学問的な分野を飛び越えて情報を結び付けているだけあって、ハイパーリンクを辿っているような疾走感がある。責任の所在をはっきりさせるために全体をまとめるべきなんだろうけど、そこは精神史だからしょうがないか。おそらく俯瞰的な視点をもってしまうと失速してしまう。
読了日:08月07日 著者:小野 俊太郎
ウルトラQの精神史 (フィギュール彩)ウルトラQの精神史 (フィギュール彩)の感想
スタッフの内輪話が中心で精神史を名乗るほどのものではないなぁ、と思ってしまった。ゴジラほど過激ではないし政治性もないから先行する批評そのものがないのだろうけれど、それなら200pを超える作品にする意味もない。著者は英文学に造詣が深いのだからクモ男爵でもうちょっとフェティシズムを発揮して欲しかった。ポーの他にもねじの回転といったゴシックホラーの影響を語ることはできたはず。実際ラモリスの赤い風船からバルンガへに至るまでの想像の発達は面白い。
読了日:08月09日 著者:小野 俊太郎
ブッダの生涯 (岩波現代文庫 〈仏典をよむ〉)ブッダの生涯 (岩波現代文庫 〈仏典をよむ〉)の感想
スッタニパータを解説するにあたって、ブッダのことばではなく生涯と題しているのがポイント。世尊の生涯をマガダ国の王や悪魔の視点を通して描き出すことで初転法輪四諦八正道といった概念を回避している。そういう意味ではやや抽象的な真理のことばとセットと言ってもよい。(それでもかなり優しいし省略もあるのだけれど)。基本の基本なので驚きはなかったが、神々との対話に黄金律らしき概念が呈されていたのは発見だった。平易とはいえスッタニパータ以外の本にも色々と目配せをしているから視野がとても広い。良い本だった。
読了日:08月14日 著者:中村 元
真理のことば (岩波現代文庫〈仏典をよむ 2〉)真理のことば (岩波現代文庫〈仏典をよむ 2〉)の感想
ブッダの生涯に続く本で概念的なことに焦点が定められている。唯識的な疑惑、四苦と四諦、そういった人生の影の部分を脇見しながら涅槃へと読者を誘う。生涯篇に引き続いて用語を用いた議論はないが、仏教が目指しているものが何となくわかるように書かれている。あと本書の白眉はテーラガーターとミリンダ王の問いの抜粋で、これらのおかげで大乗仏教以前の教団のイメージを掴む事ができた。仏教入門といばことばと真理だが、そういった教義以上のものを得ることができる。
読了日:08月14日 著者:中村 元
大乗の教え(上) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 3〉)大乗の教え(上) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 3〉)の感想
前二作よりも理論は少なめで如来にまつわるエピソードや仏による救いの解説が大半を占める。原始仏典以降ということで空論も抜粋してあるが、中村御大でもこの頁数で説明するのは無理があったか。ただ、色即是空といった基本的な概念が登場するので雰囲気はつかめる。あと久遠実成は楽しい。法華宗との組み合わせに癖がありすぎるとか、目的論的だから哲学ではないとか様々な点で扱いに困るけど、理論そのものはカルヴァンハイデガーも引くほどに超越的で浪漫がある。これも言葉語らずである感はあるが、原典への足がかりにはなった。
読了日:08月17日 著者:中村 元
大乗の教え(下) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 4〉)大乗の教え(下) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 4〉)の感想
極楽や地獄が阿弥陀仏から逆照射されて形成されていく過程を読んでしまい記号化の果てを見たような気持ちになった。法界縁起も仏のキャラクターありきで縁起説を再解釈しているわけで、その節操のなさというか原始仏典からの距離をどうしても考えてしまう。理論すっぱ抜いているからそう見えるのだけれど、理屈抜きでも仏が魅力的に見えるからこそ信者も増えたんだろう。大学の講義や注釈書にはない、独特な視点の本だった。あと阿頼耶識難い。
読了日:08月17日 著者:中村 元
仏像の本仏像の本の感想
印契や螺髪図像学風に分類、噛み砕いてわかりやすく解説した仏像の本。そのままのが内容だが、あくまで目前の像と真摯に向き合うという意思が貫かれており、巷に溢れる美術書とは違って権威や歴史をどうこうする内容は皆無。これほど仏像と遭遇する機会が溢れていながら、こんな地に足の着いた書がなかったのが不思議なくらい。仏像に興味があるけど装飾や体形が何を意味しているのかわからない、という人にはぴったりの本。
読了日:08月19日 著者:仏像ガール〔本名:廣瀬郁実〕
運慶への招待運慶への招待の感想
慶派の作品は仏像としては過剰な彫りこみ、肉感を重視したつくりだから仏教や美術史を超えた力がある。造詣だけで東大寺盧舎那仏像を超えている。奈良を訪れた際に大仏よりも阿吽像の方が印象に残ったという人もいるのではないか。悪く言えば俗っぽい、大衆紙的なレイアウトで説明できて柄しまうということでもあるのだけれど、それだけ楽しめる仏像ということでもある。他の美術書に比べて攻める構成だからちょっと引いてしまったが、読み応えのある本だった。
読了日:08月19日 著者:
もっと知りたい慶派の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい慶派の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)の感想
巷に溢れる運慶本の次に手に取るべき一冊。ともすれば比較され、運慶を持ち上げる役割をあてがわれる快慶や定朝を相対化し、時代毎の役割や技巧の違いなどを解説している。確かに無着や金剛力士像は激しく、目を見張るものはあるが様式そのものが業界を変えたかといえばそうでもないし、院派や円派が滅んだわけでもない。写実性が後退していったことからもわかるように歴史は慶派とは逆の方向を目指した。運慶の革新性を肯定しつつも美術史上の役割、他の仏師との関係を冷静に見据えた一冊。
読了日:08月21日 著者:根立 研介
もっと知りたい法隆寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい法隆寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)の感想
飛鳥園、入江泰三記念館が協力していることもあって写真が凝っている。半逆光の百済観音像がよかった。中身は法隆寺の大まかな歴史と所蔵している仏像のちょっとした説明でアート・ビギナーズ・コレクションそのもの。
読了日:08月21日 著者:金子 啓明
もっと知りたい興福寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい興福寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)の感想
このシリーズは紙面構成と写真のセレクトがいい。阿修羅像ら西金堂が特に良かった。法隆寺と同じく飛鳥園が写真を担当。十大弟子や四天王を衣文や表情で個別に解釈しており読み物としても面白い。
読了日:08月21日 著者:金子 啓明
海竜めざめる (ハヤカワ文庫 SF 264)海竜めざめる (ハヤカワ文庫 SF 264)の感想
ガジェットやストーリーは所謂B級映画、ウェルズに続くヒストリカルSF小説だけど、芯はきっちりウィンダム。いまやトラファルガー広場は湖に沈みネルソン提督像が水面から顔を覗かせる……とかニューヨークの摩天楼を夜警の松明が照らすといった風景描写がぞわぞわっとさせる。生存者が報道局のビルや別荘に引きこもって事態の終息(収束ではない)を待つのも良い。さすが元祖心地よい終末。ただ、実際は終末の皮を被った侵略SFできちんと人類の反撃がある。その際に「復興」に重点を置いているのも彼らしい。というかトリフィドの主題と同
読了日:08月22日 著者:ジョン・ウィンダム
人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫 SF (643))人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫 SF (643))
読了日:08月23日 著者:ロバート・シェクリイ
猿の惑星 (創元SF文庫) (創元推理文庫 632-1)猿の惑星 (創元SF文庫) (創元推理文庫 632-1)の感想
これほど風刺として読まれて損をしている作品も珍しい。確かに獲物の記念写真を撮る場面は南京を思わせるが、それ以外に”黄禍論”を臭わせる描写はない。むしろ執筆動機としての差別意識よりもあらゆる人外に対する恐怖が全体を覆っている。パブロフ流の条件反射実験、学習性無力感の誘発、脳深部刺激実験……こういった心を壊す作業が猿によって行われることで、人間の無力がより浮き彫りになっていく。
読了日:08月24日 著者:ピエール・ブール
人形つかい (ハヤカワ文庫SF)人形つかい (ハヤカワ文庫SF)の感想
ハインラインの思想というか好悪でかなり損をしている作品。ナメクジ異性体を管理下においた伝染病で殲滅するというアイデア、金星に取り残され宿主となった少女、部下に寄生させて宿主を尋問する上司、等々アイデアとキャラクターは申し分ない。ないのだけれど、そこに辿りつくまでにバタ臭い恋愛激や弱腰の政治家と指導力のある軍人のステロタイプな対比等を乗り越えなければならない。
読了日:08月25日 著者:ロバート・A. ハインライン
八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)の感想
ホラーといっても小泉八雲のような怪談ではなく怪奇あるいは幻想小説。初っ端からポー、サキ、ダンセイニと飛ばした構成でびっくりした。先に進むにつれて娯楽色が濃くなる構成でブラウンやダールといった所謂名手が後半を盛り上げている。むしろこっちを先に読ませるべきでは……とか思ったが、狙いは違うんだろうなぁ……やっぱり。ブラウンなんか何れは読むんだから、まずは幻想小説を読んでもらいたい、そんな編者の意気込みが伝わってくる。消え行く霊との交流を描いたダンセイニの谷の幽霊、湖面に反射と幽霊を視るロビンスンの顔は好き。
読了日:08月27日 著者:
南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)の感想
前作の幻想に対して今回は奇妙な味。ジュブナイル風だった同じダールでもより不気味な作品が収録されている。オーヘンリーもいるから変化球を期待したが何時もの調子で、むしろこの選集から逆算して雰囲気を掴む類の作品だった。これもアンソロの魅力と言うべきか。意外なところではウェルズのマジックショップ。彼の作品で変なお店といえば水晶の卵なのだけれど、あえてこれを選んでいる所に編者の愛を感じる。対象年齢が違うせいかスティーブンスンだけはちょっと難しかった。
読了日:08月28日 著者:
最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)の感想
最初に「青髭」を置くだけあって随分と攻めた短編集だった。これまでの英米系も風変わりではあったが、それとはまた違っている。赤頭巾の変化形である最初の舞踏会、故人の魂が鼠に憑依する復讐の二作は猟奇的で、昨今のホラー小説として発表されても違和感がない。壁抜け男は透明人間と同じアイデアではあるけれど、人物も雰囲気も喜劇調で東宝特撮を彷彿とさせる。福島正実あたりが好きそう。幽霊の髪を梳いたり踊るコーヒー沸かしと幽霊は典型的な館モノ。雰囲気はゴシックなのに軽く流せる文体が魅力的だった。
読了日:08月29日 著者:
小さな手 ホラー短編集4 (岩波少年文庫 627)小さな手 ホラー短編集4 (岩波少年文庫 627)の感想
前々巻に引き続いてハーヴィーを採用したかと思えばカポーティキプリングを収めたりと何だか混沌としている四巻。黄色い手は自然に反した願望成就を戒めるような作品でアンチファンタジーの風格、同じく手を扱ったものでも五本指の獣はアダムスファミリーのハンド君風でちょっと喜劇的。ただ、結末はきっちりホラーだった。月明かりの道は特に興味深い。三部構成で視点を次々と視点を変えながら一つの事件を検証するのだけれど、その手際が殆ど藪の中と同じ。最期の証言者もきちんと幽霊。(藪の中もホラーだったんだね)意外や意外。
読了日:08月29日 著者:佐竹 美保

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