2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

11月に読んだ本

 先月より千頁ほど減った3816を読んだらしい。いや、優劣傾向いろいろあるから頁なんて数えても何も得られないのだけれど。ただ、今月に限っては本どころではなかった。スワンソングで頭が埋まっていた。

 ホッブズドストエフスキーカミュ、彼らのエッセンスが詰まっているような、そんな夢のような作品だ。混沌からの共同体の成立、組織化に伴う内紛、そこに生まれる罪悪、贖罪。

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 いや、巨匠の名前をだらだらと書き連ねるのは失礼かもしれないな。投げるような言い方をすれば、個人的には僕の大学時代が詰まったような内容だった。こんなにも自分のためにあるような作品だと思ったのはディケンズ以来だろうか。

 ちょっとヴェイユのことを思い出した。原罪についての考え方や奇跡に対してひたすら受動的あるところなんか似ている。読解を担当していた教授が「彼女にとっての神は仰ぎ見る対象、「信仰」ではない。あくまで「信」。仏教に似てもいるが、ただ待ち望むためにある」と言っていたけど、これをホッブズの思想とうまくかみ合わせてある。作中には竜樹という明らかに大乗仏教を意識した人物が登場するのにあくまで西欧的な理屈のなかで発展させようとしているのも面白い。

 あとムンクの群像画もあったな。用法はブリューゲル的で、死を前にした「不安」の「群れ」を表していた。そしてこれが闘争や共同体といった表象を通してホッブズに肉薄する。万人の万人に対する闘争。

 嗚呼、言葉にしたいことがたくさんあるのにもやもやしてできない。書きたいことは山ほどあるはずなのに。そんな感じでスワンソングおすすめ。


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 紙の方も時間をかけてちまちま読んだ。読解力が落ちるので。

 谷崎潤一郎記念館に行くか、みたいな話があったので数冊ほど読み直したけど中止になったな。春琴抄と刺青の二冊は良かった。尊いと言った方が正しいか。

 ただ純愛なので縁はない。というか無垢なものを読むと喉が渇く。悲恋失恋の方がいい。たぶん自分の人生と合致しているからだと思うが養分になる。いやでも「秘密」は悲恋ストーカーものだったな。犯人の側に共感する、という意味であれは面白かった。

 そんな感じ。そういうわけで来年は悲恋失恋を読んでいきたい。

 

2021年11月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:3816ページ
ナイス数:83ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2021/11
■若い兵士のとき (改版) (岩波少年文庫)
ドイツの戦記にしては泥臭い、が、単に汚いのではなくどこまでも日常感が漂っている。死体した兵士のピカピカのブーツを剥ぎ取ろうとするドイツ兵に息も絶え絶えな負傷兵を面倒そうな顔で見下ろす軍医、出征する兵士の親に向って”終わり次第作業に入ってくれ”と圧をかける職長。かといって傍観している主人公が何もしていない、というわけでもなく下士官に任命されたら部下を泥沼に突っ込ませるし撤退の際には民間人を蹴散らして戦車を走らせる。仕事だから、生き残るためだから、いくらでも理由は思いつくがそのどれもが同時代的な問題を孕
読了日:11月28日 著者:ハンス・ペーター・リヒター
https://bookmeter.com/books/497152

■ぼくたちもそこにいた (岩波少年文庫)
国家主義とか洗脳とか特殊なように見えるけれど、結局のところ物事をどんどん単純化していって共同体の方針と摩り替えていいように従わせる方法だということがわかる。校長が朝礼で道徳を云々をだらだらしゃべった挙句にヒトラーを称え、ヒトラーユーゲントを持ち上げるって状況は甲子園に出征していく球児を見送る高校のそれとあまりかわらないし、子どもたちが青春をかけて戦闘訓練に励むというのもシチュエーションとしては高校野球のそれと同じ。
読了日:11月23日 著者:ハンス・ペーター リヒター
https://bookmeter.com/books/61367

■あのころはフリードリヒがいた (岩波少年文庫 520)
窓硝子を割った責任の押し付けとかプールでユダヤ人と同じ水に浸かったことへの嫌悪感とか、そういう肌感覚に関わる部分が印象的だった。もちろん暴力や略奪も描いてはいるのだれど、そういった”わかりやすい”犯罪行為”以前の部分が不安を誘う。昨今のコロナ情勢下では人前でマスクを外すと刺々しい目で見られるけれど、こういう穢れ=排除すべき、という考え方は作中の差別にも通じていて、半世紀前のドイツにいたら自分もやってしまうのではないかと事を考えさせられる。少なくとも止める側に回る事はできないと思う。世論の難しさを思い知ら
読了日:11月23日 著者:ハンス・ペーター・リヒター
https://bookmeter.com/books/449614

■ベルリン1919 赤い水兵(上) (岩波少年文庫)
戦時下を舞台にしておいて革命や共産主義について自由に議論しているって所から無理があるし、真っ当な保守派が一人もいない状況はもう不可能としか言いようがない。WW1の状況説明も噛み砕きすぎて流動食状態になっている。あと「お腹が減った」状態をままにお腹を空かせてたなんて書いてしまう詩情のなさには辟易した。セクト化を警戒するエーベルト支持者とスパルタクス派がにらみ合う場面はまぁまぁだけど、良いところはそれだけ。ピオニール向けの教科書みたい。
読了日:11月19日 著者:クラウス・コルドン
https://bookmeter.com/books/15112063

羅生門/杜子春 (岩波少年文庫 509)
蜘蛛の糸なんかは文字通りにそうだけど、最後にフッと緊張の糸が切れる感じがいい。魔術も杜子春も強欲が祟ってひっくり返る御話。仙人と羅生門は逆に欲を煮詰める型だけど、これはこれで重みがあって楽しかった。
読了日:11月18日 著者:芥川 龍之介
https://bookmeter.com/books/220081

山椒魚 しびれ池のカモ (岩波少年文庫)
しびれ池の鴨はままに政治風刺なのだろうけれど、人形ものとしても面白い。馬鹿だの生意気だのと罵られていた「剥製の鴨」が鴨の大将となり人間を翻弄する楽しさ、最後には人間に釣らせた鮒によって動力を得る滑稽な感じがこそばゆい。山椒魚とサワンも囚われることの窮屈さが出ていて良かった。
読了日:11月18日 著者:井伏 鱒二
https://bookmeter.com/books/153786

走れメロス 富嶽百景 (岩波少年文庫 (553))
やっぱり富嶽百景が際立っている。ものを書き写すのではなく紙に、心に投影することで富士は無限の存在になっていく。メロスも疑心暗鬼になった王を友情ひとつで浄化してあいまうのがいい。浦島とかちかち山はいつもの太宰という感じ。一言余計なんだよ。
読了日:11月17日 著者:太宰 治
https://bookmeter.com/books/419923

■女生徒 (角川文庫)
父の不在や自分の意志とは無関係に成長する身体といった思春期の不安、拡散していくアイデンティティプルースト風に描写していて面白かった。が、その短編自体が某女生徒の日記からの流用というのが悲しい。今まで読んだ太宰作品でいちばん好きかもしれない、とか思った途端にこれだよ。計算ずくなのかもしれないが、太宰はいつも人をイライラさせて振り回すね。
読了日:11月17日 著者:太宰 治
https://bookmeter.com/books/563487

人間失格 (角川文庫)
出版社の女のもとに転がり込んだり女に空の財布を笑われて一緒に海に飛び込んだり窓一枚隔て寝取られの現場を目撃したり、概ね太宰治という人間の自伝。そういうフィクションか?と思わせるくらいに女のことしか書いてない。太宰に深遠な思想なんてものを期待してもしょうがないけど、この題名でこれを世に出す勇気というか傲慢にはちょっと感心した。
読了日:11月15日 著者:太宰 治
https://bookmeter.com/books/569511

■刺青・少年・秘密 (角川文庫)
エロ(刺青)ありサイコホラー(悪魔)ありコメディ(幇間)ありミステリー(秘密)ありのジャンル総なめの短編集。主題も表現も越境的で、サドマゾに括られがちな谷崎が如何に複雑な作家だったかを思い知らせてくれる。今でいうストーカーを不気味に、得体のしれない化物として描いた「悪魔」と洋館ホラーとサドマゾを合わせた「少年」が好き。
読了日:11月14日 著者:谷崎 潤一郎
https://bookmeter.com/books/17331317

春琴抄 (角川文庫)
ひたすらツンが続くツンデレ。デレの方はほとんど書かれてはいないのだけれど、不思議と伝わってくる。冷え性の春琴を身体で暖める場面や妊娠をひた隠しにする等はもちろん「エロ」いのだけれど、春琴を襲った不幸や佐助の決断の比重が多い。むしろ純愛として読まれるべき作品だと思う。(文字通り)盲目の恋愛小説。
読了日:11月11日 著者:谷崎 潤一郎
https://bookmeter.com/books/11001128

■暗い部屋 特典小冊子
野球部に入ろうからあなたには資格がありません、までの飛躍とそのあとの只管傷つけるための罵詈雑言がすごい、傷口にめっちゃ染みる。
読了日:11月04日 著者:唐辺葉介
https://bookmeter.com/books/10341875

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)
どこまでも曖昧で都合のいい小説だけど、それがそっくりそのまま仕掛けになっているすごさ。藍子が飲まなかった紅茶も、姉の亡霊への嫌悪も夢に合わせて脳をチューニングした結果として生まれた現象で、そういったメタ認知が虚構の骨格を再帰的に補強している。蝶を飲んでイマジナリーファミリーを生み出すあたりの発想もすごい。まさか例え話が幻覚として実体化するとは荘子も思わなかったろう。
読了日:11月04日 著者:唐辺 葉介
https://bookmeter.com/books/571466

■死体泥棒 (星海社FICTIONS)
死体を盗んでどうこうではなく真っ当なモラトリアムなラブストーリー。劇中はピエロに師事したりホームレスに殴られたり詐欺師っぽい学友に振り回されたり、と碌なことがないのだけれど、だからこそ死体との同棲生活が輝いている。臓器移植の傷痕を愛でる場面と火葬場で骨を拾う最後が悪趣味なほど詳細なのだが、それが同時に彼女との距離感を教えてくれる。骨まで愛する、というのはこういうことを言うのだな。
読了日:11月03日 著者:唐辺 葉介
https://bookmeter.com/books/4490911

ドッペルゲンガーの恋人 (星海社FICTIONS)
なんでこれが早川JAではないのか不思議なほど純度の高い医療SF。同世代のあなたのための物語よりすごい。復刊してくれ。与えられた記憶と移植した触感の記憶の齟齬、移植した記憶にない鉛筆削り、実家に、恋人に残してきた思い出。そういったオリジナルにだけ許された身分証明がクローン体のアイデンティティをずたずたに引き裂いていく。パニックに陥る検体を”ただ見ている”だけの冒頭といい最期のクローンたちの結婚と共同体の形成といい、マッドサイエンティストレベルも非常に高い。
読了日:11月03日 著者:唐辺 葉介
https://bookmeter.com/books/4017092


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