2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

10月に読んだ本

 007を観にいったついでにアシェンデンを読んだり、その舞台になったイギリスに関係してホームズとかディケンズに触れたり、まぁ思いつくままに読んだ。

 モームとコナンは娯楽なのであまり考えることもないのだけれど、ディケンズはちょっと辛かった。見放された世界で必死に生きる人々、その世界を辛うじて維持するためのルール、それを守ることで生まれるストレス、流れる涙、絶叫。労働者階級の親を持つ僕にはこれがよくわかる。フェイギンやサイクルの気持ちも。

 オリヴァーツイストという作品はよくできていて、そういった暗黒街を際立たせるために金持ちが登場する。彼らは下々の人間を軽蔑することで自分たちを高め、その無知を土台にして愛を育む。欠乏を知らないからこそ築かれる人間関係、満たされているからこそ育つ人格。オースティンなら精神性などで括ってしまうそれらをディケンズは区別し、構造的に示してくれる。

 彼の作品には何の主張も書かれていない。共産党宣言のように人を昂ぶらせる感情はない。しかし、それ故に生の現実を、社会の構造が持ってしまう悲しさを教えてくれる。

 個人的には二都物語も印象的だった。物語はロンドンを離れて田舎に帰って終るのだけれど、あれは成り上がりの限界を語る手段だったのではないだろうか。上にも下にも仲間のいない人間は一生を境界人として生きるしかない。子を育て、社交界に参加させれば名誉欲は満たされるだろうが、自身はそうはいかない。死ぬまで未熟者であり続けなければならない。会話の流れで、言葉遣いで、食の好みで、服飾で、あらゆる生活感のなかで呪いのように出自はついてまわる。僕自身がなり上がりということもあって、知識や作法、出自を馬鹿にされる苦しみがよくわかる。僕も何者にもなれずにこのまま死ぬのだろう。

 まぁ、そんな感じであった。

 

2021年10月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:5402ページ
ナイス数:67ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly
■大いなる遺産 下巻 (新潮文庫)
オリヴァー、いや、あらゆる教養小説の「その先」。紳士の仲間入りからはじまった物語が破綻していく。娘を男を陥れる道具にする未亡人、女を物のように考える紳士、道具に徹したことで自壊する娘。遺産でさえ主の獄死によって途絶えてしまう。田舎に帰ってみれば相棒と想い人が結婚している。成長も出世もない、階級を越えた物語がここにある。
読了日:10月31日 著者:ディケンズ
https://bookmeter.com/books/15729081

■大いなる遺産 上巻 (新潮文庫)
オリヴァーのその先、貧乏から「逃れ」富を得た少年ピップの成長物語。作法を身につけるにしたがって離れていく相棒、言葉を覚えたことで噛み合わなくなる会話、意思疎通の中断はやがて断絶になっていく。ディケンズ自身が庶民の出ということもあって階級間の文化的齟齬の様子が生々しい。心身の成長を描いた教養小説はたくさんあるが、これほど社会的な作品ははじめて読んだ。
読了日:10月29日 著者:ディケンズ
https://bookmeter.com/books/15729080

■オリヴァー・ツイスト (新潮文庫)
オリヴァーを通した19世紀ロンドン、ホワイトチャペルの素描。生きるために喰らい、盗み、人を貶める貧しき人々と愛情に満ち、他者を尊ぶ金持ち。善悪で言えば愛に囲まれている方が良いに決まっているが、すべての人間がそういった環境に生まれるわけではない。子どもたちにスリを教えるフェイギンも、男への依存をやめられないナンシーも、おそらくサイクスでさえ階級が違えばもっと良い人間になっていただろう。しかし、富が行き渡らないからこそ社会は成立しているのだ。階級を行き来したオリヴァーツイストは自身の境遇をもってその歪みを
読了日:10月27日 著者:チャールズ ディケンズ
https://bookmeter.com/books/11728097

■回想のシャーロック・ホームズ【新訳版】 (創元推理文庫)
何と言ってもマスグレーブ家の儀式書。解読したら文章そのものは清教徒革命の記録で、隠されていた宝はチャールズ二世の王冠という世界史+推理+宝島みたいな発想が兎に角にくい。ギリシャ語通訳や海軍条約事件といった間諜要素もあって冒険よりも深みがある。背の曲がった男のように「いつもの」復讐譚もきっちり収録。楽しかった。
読了日:10月24日 著者:アーサー・コナン・ドイル
https://bookmeter.com/books/604310

シャーロック・ホームズの冒険 (創元推理文庫)
長編の面白おかしい部分を凝縮したような作風でとても密度が高い。アイリーンアドラー(重要)やら謎の組織(赤毛組合)やら謎の組織(KKK)やら蛇やら結婚相談やらやら陰謀臭い作品が多くてとても楽しかった。今ではホームズにステロタイプなイメージがついているけれど、聖典の自由奔放さには驚かされる。個人的には青い柘榴石が好き(青い紅玉のままのほうがよかったな)
読了日:10月22日 著者:アーサー・コナン・ドイル
https://bookmeter.com/books/536022

■恐怖の谷【新訳版】 (創元推理文庫)
バスカヴィルのゴシックホラーに続いて今回はノワール。といっても推理小説的な犯罪ではなく、暴力団が舞台。酒場で子分に酒を振舞う首領に秘密の入会儀式、焼印に秘められた誓い。犯罪を暴こうとする”新聞記者”がリンチに合う等々、禁酒法時代を思わせる犯罪が次々と登場する。緋色の研究からアメリカ、インド、イギリスの田舎と巡ってきたけど、どれもヴィクトリア朝末期の薄暗い雰囲気が楽しかった。推理と人物造詣を重視した短編もいいけど、長編には独特な味わいがある。
読了日:10月20日 著者:アーサー・コナン・ドイル
https://bookmeter.com/books/9819521

■バスカヴィル家の犬 (創元推理文庫)
緋色、署名と冒険が続いて今度は怪奇小説。平原に聳え立つモノリス、底なし沼に木霊する遠吠えに火を吹く巨大な魔犬と奇奇怪怪な現象や化物が盛りだくさん。推理云々よりもおどろおどろしい雰囲気の方が盛り上がるあたり失われた世界の作者だなとか思った。
読了日:10月19日 著者:アーサー・コナン・ドイル
https://bookmeter.com/books/6277794

■四人の署名【新訳版】 (創元推理文庫)
緋色の研究とおなじく活劇要素が濃い。一作目のアメリカに対してインド、モルモン教の代わりの原住民トンガ、その背後には義足の元インド駐屯兵に彼と盟約を交わしたシク教徒がいる。ホームズ自身も変装するし警察官を先導して快速船オーロラ号を追跡劇を展開するなど映像的な見せ場も多い。推理小説としてはあれだろうけど、読み物としては非常に面白かった。
読了日:10月19日 著者:アーサー・コナン・ドイル
https://bookmeter.com/books/3359926

■緋色の研究【新訳版】 (創元推理文庫)
地味だとあまり評価されてない作品だけど実は西部劇ありカルト集団ありの何でも小説。推理だけではなく冒険、恋愛にかなりの頁がさかれていて、むしろ「冒険」にはない面白さがある。捜査は地べたから机椅子、最期に死体へと段階的に見る方法で後年の作品群と一緒で、屋敷につくなり足跡と轍からはじめるあたり変わらないなーと微笑ましく思った。
読了日:10月17日 著者:アーサー・コナン・ドイル
https://bookmeter.com/books/663889

■寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)
読了日:10月17日 著者:ジョン・ル・カレ
https://bookmeter.com/books/504304

■英国諜報員アシェンデン (新潮文庫)
モームがスパイものを書いていることがまず驚きなのだけれど、人物造詣から落とし方まで彼らしい書き方で腑に落ちるものがあった。メキシコの伊達男にお喋りなロシア人、反乱軍の英雄とイタリア人の大恋愛と裏切り。登場人物は個性豊か、というかキャラクターチック。真面目な話にしても死に様にどことなく詩情がある。洗濯物に固執して逃げ遅れてしまったハリントンなどは代表的だろう。ボンドほど派手ではないがルカレほど厳しくない、モーム印のスパイ小説。(それ以外に形容のしようがない)
読了日:10月14日 著者:サマセット モーム
https://bookmeter.com/books/11985209

■寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)
いくらなんでも寒すぎる。
読了日:10月12日 著者:ジョン・ル・カレ
https://bookmeter.com/books/504304

■スパイのためのハンドブック (ハヤカワ文庫 NF 79)
思っていたよりも派手だった。色仕掛けに気をつけろ、政府高官や金持ちを相手にするなら派手に振舞え賄賂を渡せ、相手に気付かれずに追跡しろ、偽称するならなり切れ。確かに地味ではあるのだけれど、仕事は役者と詐欺師とストーカーを合わせたような内容でフィクションじみている。スパイ映画ではない、というだけで犯罪小説には類似点が多いのだろう。地味といえば給与は出来高制で、それも経理が渋った上で渡すというのが意外だった。仕事量は膨大だろうし才能があるなら詐欺師を選んだ方が儲けは多そう。いや、それを理解した上でのスパイなのだ
読了日:10月06日 著者:ウォルフガング・ロッツ
https://bookmeter.com/books/574560

■地獄のハイウェイ (ハヤカワ文庫 SF 64)
終末ものにしては飢えてないし車で走ってるし……と思うところはいろいろとあるけれど、そも書かれていることはヘルスエンジェルス(元?)の精神性や母国の荒廃を前にした男の改心なので、つっこむのも野暮だろう。竜巻荒れ狂う砂漠を行き、襲いくる蜘蛛や蝙蝠の群れを火炎放射で焼き尽くし……最期は自分の銅像に落書きをして去っていく。叙述がかなり映像的な文章なので、そのまま映像化しても面白そう。個人的には最期にハーレーに載って欲しかったかな。やっぱり”ヘル”の象徴なので。
読了日:10月02日 著者:ロジャー・ゼラズニイ
https://bookmeter.com/books/522510


読書メーター
https://bookmeter.com/