2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

はちがつのまとめ

 安部公房を読み直したり中村元を読み直したりいろいろ。大学を卒業してから手にとっていなかったせいか忘れていた事がいろいろあった。中論は面白いとか。

 それと前者の著作から離れていった理由も思い出した。持って回った言い方をしておいて結局は無意識なのだ。脱構築化されたのか、単にメタな視点をもって冷ややかになったせいか、理なのか心なのかいまいちはっきりしないが、この手のやり口が急に嫌になった。そのような領域は実際にあるけれども、それを表現に回してしまっては負けではなかろうか。せめて理性なり認識の枠組みをはっきりさせるくらいの根性はほしい。人によってはそのレトリック自体が魅力的なのだろうけれど、そこまで追ってみようという気にもなれない。

 無意識つながりでは外山の思考の整理学もぱらぱらめくってみたが、何の感慨も沸いてこない。元から梅棹忠夫に文系の思想を付け加えたような本だから情報技術を抜いたらあとに残るのはひたすら荒野。(そういえば安部公房も無意識を捉えるのにカードを使っていた。ただ熟成させる外山とは違って目が醒めたらカードを整理して因果関係をはっきりさせていたはず。確かカードをコルクボードに並べて紐でつなぎあわせる方法で、米のプロファイリングの技術に似ていた。死に急ぐ鯨たちでは(名前は出してないが)チョムスキーっぽいことを発言していたし、言語とか情報に関わる事は収集するようにしていたのかもしれ……って、まぁ、そんなことはここではどうでもいい)

 何なのだろうな、やっぱり歳か?

 まぁそんなこんなで何となく疲れた毎日を送っている。最近は退行してSFと怪奇小説三昧。シェクリィおもしろい。

 

8月の読書メーター
読んだ本の数:25
読んだページ数:5827
ナイス数:195

笑う月 (新潮文庫)笑う月 (新潮文庫)の感想
発想、創作の作法としてはありふれてるけど、そこに辿りつくまでの分析が面白い。夢を書き出すにしてもいきなり枕元にメモを置くといった助言ではなく、覚醒/睡眠時の意識にまで視点を戻し、意識を量的に捉えて文字として出力するまでの課程を明らかにしている。ハムスターとアムダを聞き間違えた末に人間狩りへと発想を飛躍させているが、これも検証よりも整合性をとっているからこそできている。開き直るのも作家の才能なのだろう。無意識とか不条理といったふわふわとしたものを捕まえて論理的に再構築する手際の良さが安部公房の持ち味だが、そ
読了日:08月01日 著者:安部 公房
カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)の感想
砂の女、燃えつきた地図等々の代表的な長編の習作を収めた短編集。収録作はあくまで原型だから短編としては物足りないが安部公房の文体の変遷、そこに滲み出た問題意識を知る事ができる。特に失踪三部作から方舟さくら丸までの飛び方は顕著でチチンデラ・ヤパナの写実と思索を混ぜたような文体からナンセンスだが不思議にロジカルなユープケッチャへの飛躍は目を見張るものがある。これ程ではないがチチンデラとカーブも自然主義幻想文学程に作風は異なる。安部公房という作家の歴史、作風の広さを知る事のできる一冊。
読了日:08月01日 著者:安部 公房
砂の女 (新潮文庫)砂の女 (新潮文庫)の感想
四方を砂に囲まれた状況がサスペンスを醸成し、そこに埋没していく心理が共感を呼ぶ。が、そのような読み方を安部公房自身はしていなかったのではないか。もちろん、カルトに誘拐され組織への服従を合理化せざるおえない男の心理、認知的不協和のモデルとして読む事は可能だ。娯楽として読めば当然そうなる。しかし、実存主義者としてはサルトルに対抗して本質を掴むことを目指し、フーコーのように狂気のあり方に注視したはずだ。
読了日:08月02日 著者:安部 公房
けものたちは故郷をめざす (新潮文庫)けものたちは故郷をめざす (新潮文庫)の感想
砂の女で覚醒する前の安部公房作品。思弁も象徴も控えめで彼らしくない、のだけれど、それはそれとして娯楽小説としてしっかり読ませてくれる。横転する機関車、船室で明らかになるやくざの陰謀……そういった活劇を展開しつつ、大陸の雪原で自動車運転手や中国の市場を幻視する様は確実に安部公房だったりする。凍傷にかかった相棒の指を容赦なく切り取ってしまうなんても彼らしい。
読了日:08月02日 著者:安部 公房
イエズス会宣教師が見た日本の神々イエズス会宣教師が見た日本の神々の感想
キリスト教的な世界観で日本の神々をデビルと一括りにしている割によく調べてある。古事記に登場する諸々の神々はもちろん、祇園祭(グィオン)がスサノオに向けたものだということや春日大社藤原氏の祖神を祭っていることにも触れている。なお、春日大社の鹿はカスンガという悪魔の使いで触れたら刑罰、殺したら死罪とのこと(現地ではもう忘れ去られているけど)。切支丹が神具に飯を持って食べた事を殊更褒めている記述なんかみると感情がざわつくが、全体的にかなり詳細で「汝の敵を知れ」では片付けることのできない知的好奇心に溢れている。
読了日:08月04日 著者:ゲオルク シュールハンマー
沈黙 (新潮文庫)沈黙 (新潮文庫)の感想
フェレイラやキチジローの弱さがロドリゴの棄教を支える構図は”うまい”のだけれど、キリスト教を題材にこれをやってしまうのは小説的というか危険に思えた。単に殉教に対する沈黙にしてしまえば側はよりらしく見え……るのだろうけれど、それでは私小説にならないのだろうなぁ、やっぱり。難しい。
読了日:08月04日 著者:遠藤 周作
ゴジラの精神史 (フィギュール彩)ゴジラの精神史 (フィギュール彩)の感想
様々な角度のゴジラ評をかき集めて昭和二十年代から三十年代の日本を分析した精神史本。元登戸研究所職員疑惑の芹沢、北京で恐竜の化石を掘っていた山根、SF条約の締結を前にしてゴジラ情報の発表を渋る国会、学問的な分野を飛び越えて情報を結び付けているだけあって、ハイパーリンクを辿っているような疾走感がある。責任の所在をはっきりさせるために全体をまとめるべきなんだろうけど、そこは精神史だからしょうがないか。おそらく俯瞰的な視点をもってしまうと失速してしまう。
読了日:08月07日 著者:小野 俊太郎
ウルトラQの精神史 (フィギュール彩)ウルトラQの精神史 (フィギュール彩)の感想
スタッフの内輪話が中心で精神史を名乗るほどのものではないなぁ、と思ってしまった。ゴジラほど過激ではないし政治性もないから先行する批評そのものがないのだろうけれど、それなら200pを超える作品にする意味もない。著者は英文学に造詣が深いのだからクモ男爵でもうちょっとフェティシズムを発揮して欲しかった。ポーの他にもねじの回転といったゴシックホラーの影響を語ることはできたはず。実際ラモリスの赤い風船からバルンガへに至るまでの想像の発達は面白い。
読了日:08月09日 著者:小野 俊太郎
ブッダの生涯 (岩波現代文庫 〈仏典をよむ〉)ブッダの生涯 (岩波現代文庫 〈仏典をよむ〉)の感想
スッタニパータを解説するにあたって、ブッダのことばではなく生涯と題しているのがポイント。世尊の生涯をマガダ国の王や悪魔の視点を通して描き出すことで初転法輪四諦八正道といった概念を回避している。そういう意味ではやや抽象的な真理のことばとセットと言ってもよい。(それでもかなり優しいし省略もあるのだけれど)。基本の基本なので驚きはなかったが、神々との対話に黄金律らしき概念が呈されていたのは発見だった。平易とはいえスッタニパータ以外の本にも色々と目配せをしているから視野がとても広い。良い本だった。
読了日:08月14日 著者:中村 元
真理のことば (岩波現代文庫〈仏典をよむ 2〉)真理のことば (岩波現代文庫〈仏典をよむ 2〉)の感想
ブッダの生涯に続く本で概念的なことに焦点が定められている。唯識的な疑惑、四苦と四諦、そういった人生の影の部分を脇見しながら涅槃へと読者を誘う。生涯篇に引き続いて用語を用いた議論はないが、仏教が目指しているものが何となくわかるように書かれている。あと本書の白眉はテーラガーターとミリンダ王の問いの抜粋で、これらのおかげで大乗仏教以前の教団のイメージを掴む事ができた。仏教入門といばことばと真理だが、そういった教義以上のものを得ることができる。
読了日:08月14日 著者:中村 元
大乗の教え(上) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 3〉)大乗の教え(上) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 3〉)の感想
前二作よりも理論は少なめで如来にまつわるエピソードや仏による救いの解説が大半を占める。原始仏典以降ということで空論も抜粋してあるが、中村御大でもこの頁数で説明するのは無理があったか。ただ、色即是空といった基本的な概念が登場するので雰囲気はつかめる。あと久遠実成は楽しい。法華宗との組み合わせに癖がありすぎるとか、目的論的だから哲学ではないとか様々な点で扱いに困るけど、理論そのものはカルヴァンハイデガーも引くほどに超越的で浪漫がある。これも言葉語らずである感はあるが、原典への足がかりにはなった。
読了日:08月17日 著者:中村 元
大乗の教え(下) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 4〉)大乗の教え(下) (岩波現代文庫〈仏典をよむ 4〉)の感想
極楽や地獄が阿弥陀仏から逆照射されて形成されていく過程を読んでしまい記号化の果てを見たような気持ちになった。法界縁起も仏のキャラクターありきで縁起説を再解釈しているわけで、その節操のなさというか原始仏典からの距離をどうしても考えてしまう。理論すっぱ抜いているからそう見えるのだけれど、理屈抜きでも仏が魅力的に見えるからこそ信者も増えたんだろう。大学の講義や注釈書にはない、独特な視点の本だった。あと阿頼耶識難い。
読了日:08月17日 著者:中村 元
仏像の本仏像の本の感想
印契や螺髪図像学風に分類、噛み砕いてわかりやすく解説した仏像の本。そのままのが内容だが、あくまで目前の像と真摯に向き合うという意思が貫かれており、巷に溢れる美術書とは違って権威や歴史をどうこうする内容は皆無。これほど仏像と遭遇する機会が溢れていながら、こんな地に足の着いた書がなかったのが不思議なくらい。仏像に興味があるけど装飾や体形が何を意味しているのかわからない、という人にはぴったりの本。
読了日:08月19日 著者:仏像ガール〔本名:廣瀬郁実〕
運慶への招待運慶への招待の感想
慶派の作品は仏像としては過剰な彫りこみ、肉感を重視したつくりだから仏教や美術史を超えた力がある。造詣だけで東大寺盧舎那仏像を超えている。奈良を訪れた際に大仏よりも阿吽像の方が印象に残ったという人もいるのではないか。悪く言えば俗っぽい、大衆紙的なレイアウトで説明できて柄しまうということでもあるのだけれど、それだけ楽しめる仏像ということでもある。他の美術書に比べて攻める構成だからちょっと引いてしまったが、読み応えのある本だった。
読了日:08月19日 著者:
もっと知りたい慶派の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい慶派の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)の感想
巷に溢れる運慶本の次に手に取るべき一冊。ともすれば比較され、運慶を持ち上げる役割をあてがわれる快慶や定朝を相対化し、時代毎の役割や技巧の違いなどを解説している。確かに無着や金剛力士像は激しく、目を見張るものはあるが様式そのものが業界を変えたかといえばそうでもないし、院派や円派が滅んだわけでもない。写実性が後退していったことからもわかるように歴史は慶派とは逆の方向を目指した。運慶の革新性を肯定しつつも美術史上の役割、他の仏師との関係を冷静に見据えた一冊。
読了日:08月21日 著者:根立 研介
もっと知りたい法隆寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい法隆寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)の感想
飛鳥園、入江泰三記念館が協力していることもあって写真が凝っている。半逆光の百済観音像がよかった。中身は法隆寺の大まかな歴史と所蔵している仏像のちょっとした説明でアート・ビギナーズ・コレクションそのもの。
読了日:08月21日 著者:金子 啓明
もっと知りたい興福寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい興福寺の仏たち (アート・ビギナーズ・コレクション)の感想
このシリーズは紙面構成と写真のセレクトがいい。阿修羅像ら西金堂が特に良かった。法隆寺と同じく飛鳥園が写真を担当。十大弟子や四天王を衣文や表情で個別に解釈しており読み物としても面白い。
読了日:08月21日 著者:金子 啓明
海竜めざめる (ハヤカワ文庫 SF 264)海竜めざめる (ハヤカワ文庫 SF 264)の感想
ガジェットやストーリーは所謂B級映画、ウェルズに続くヒストリカルSF小説だけど、芯はきっちりウィンダム。いまやトラファルガー広場は湖に沈みネルソン提督像が水面から顔を覗かせる……とかニューヨークの摩天楼を夜警の松明が照らすといった風景描写がぞわぞわっとさせる。生存者が報道局のビルや別荘に引きこもって事態の終息(収束ではない)を待つのも良い。さすが元祖心地よい終末。ただ、実際は終末の皮を被った侵略SFできちんと人類の反撃がある。その際に「復興」に重点を置いているのも彼らしい。というかトリフィドの主題と同
読了日:08月22日 著者:ジョン・ウィンダム
人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫 SF (643))人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫 SF (643))
読了日:08月23日 著者:ロバート・シェクリイ
猿の惑星 (創元SF文庫) (創元推理文庫 632-1)猿の惑星 (創元SF文庫) (創元推理文庫 632-1)の感想
これほど風刺として読まれて損をしている作品も珍しい。確かに獲物の記念写真を撮る場面は南京を思わせるが、それ以外に”黄禍論”を臭わせる描写はない。むしろ執筆動機としての差別意識よりもあらゆる人外に対する恐怖が全体を覆っている。パブロフ流の条件反射実験、学習性無力感の誘発、脳深部刺激実験……こういった心を壊す作業が猿によって行われることで、人間の無力がより浮き彫りになっていく。
読了日:08月24日 著者:ピエール・ブール
人形つかい (ハヤカワ文庫SF)人形つかい (ハヤカワ文庫SF)の感想
ハインラインの思想というか好悪でかなり損をしている作品。ナメクジ異性体を管理下においた伝染病で殲滅するというアイデア、金星に取り残され宿主となった少女、部下に寄生させて宿主を尋問する上司、等々アイデアとキャラクターは申し分ない。ないのだけれど、そこに辿りつくまでにバタ臭い恋愛激や弱腰の政治家と指導力のある軍人のステロタイプな対比等を乗り越えなければならない。
読了日:08月25日 著者:ロバート・A. ハインライン
八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)の感想
ホラーといっても小泉八雲のような怪談ではなく怪奇あるいは幻想小説。初っ端からポー、サキ、ダンセイニと飛ばした構成でびっくりした。先に進むにつれて娯楽色が濃くなる構成でブラウンやダールといった所謂名手が後半を盛り上げている。むしろこっちを先に読ませるべきでは……とか思ったが、狙いは違うんだろうなぁ……やっぱり。ブラウンなんか何れは読むんだから、まずは幻想小説を読んでもらいたい、そんな編者の意気込みが伝わってくる。消え行く霊との交流を描いたダンセイニの谷の幽霊、湖面に反射と幽霊を視るロビンスンの顔は好き。
読了日:08月27日 著者:
南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)の感想
前作の幻想に対して今回は奇妙な味。ジュブナイル風だった同じダールでもより不気味な作品が収録されている。オーヘンリーもいるから変化球を期待したが何時もの調子で、むしろこの選集から逆算して雰囲気を掴む類の作品だった。これもアンソロの魅力と言うべきか。意外なところではウェルズのマジックショップ。彼の作品で変なお店といえば水晶の卵なのだけれど、あえてこれを選んでいる所に編者の愛を感じる。対象年齢が違うせいかスティーブンスンだけはちょっと難しかった。
読了日:08月28日 著者:
最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)の感想
最初に「青髭」を置くだけあって随分と攻めた短編集だった。これまでの英米系も風変わりではあったが、それとはまた違っている。赤頭巾の変化形である最初の舞踏会、故人の魂が鼠に憑依する復讐の二作は猟奇的で、昨今のホラー小説として発表されても違和感がない。壁抜け男は透明人間と同じアイデアではあるけれど、人物も雰囲気も喜劇調で東宝特撮を彷彿とさせる。福島正実あたりが好きそう。幽霊の髪を梳いたり踊るコーヒー沸かしと幽霊は典型的な館モノ。雰囲気はゴシックなのに軽く流せる文体が魅力的だった。
読了日:08月29日 著者:
小さな手 ホラー短編集4 (岩波少年文庫 627)小さな手 ホラー短編集4 (岩波少年文庫 627)の感想
前々巻に引き続いてハーヴィーを採用したかと思えばカポーティキプリングを収めたりと何だか混沌としている四巻。黄色い手は自然に反した願望成就を戒めるような作品でアンチファンタジーの風格、同じく手を扱ったものでも五本指の獣はアダムスファミリーのハンド君風でちょっと喜劇的。ただ、結末はきっちりホラーだった。月明かりの道は特に興味深い。三部構成で視点を次々と視点を変えながら一つの事件を検証するのだけれど、その手際が殆ど藪の中と同じ。最期の証言者もきちんと幽霊。(藪の中もホラーだったんだね)意外や意外。
読了日:08月29日 著者:佐竹 美保

読書メーター

しちがつのまとめ

 念願の雑兵たちの戦場や刀狩を読んだ。サムライ映画には武士道武士道忠義忠義が当然のように出てくるけれど、太平洋戦争を見ればわかるように実際の戦争にはそんな余裕はない。兵も農もお腹をすかせて餓死寸前で軍隊の維持さえままらない。そんな状況で一対一などというフェアルールを守るはずがなく、実際の戦場は掠奪に次ぐ掠奪の連続だった。二毛作が発明される前は掠奪も季節の風物詩みたいなもので、冬の到来を前に出稼ぎ感覚で隣国の田畑を荒らしまわったらしい。それをあの上杉謙信が実施していたというのも衝撃。まぁ、衝撃というのは外野だから受けられるもので、組織のトップとしては合理的というか当たり前なのかもしれない……経済や治安を差し置いて道徳と戦争を抱き合わせて考えてしまう現代人の怠慢を考えてしまった。

 あと朝霧の巫女柳田國男とか折口信夫とか太平記とか記紀とか熊沢天皇のごった煮。個人的に南北朝の概念を歴史から神話にまで広げているのが良かった。いろんな概念が詰まりすぎて説明ができないけど、とにかく面白かった。今の時代に国学をまじめに踏襲しているってのもすごいね。

 

 



 

2022年7月の読書メーター
読んだ本の数:36冊
読んだページ数:9120ページ
ナイス数:245ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2022/7
■古典文学全集 (17)
信長の奇行を憂いた平手政秀の自害、桶狭間合戦を前にした信長が人間五十年、と自分をなぞらえた事等の有名どころは一通り押さえてある。長篠、桶狭間も基がドラマティックなので引き込まれた。父親の棺桶を前にした狼藉や延暦寺への焼討といった鬼畜な所業も収録していて、伝記としては美化と史実半々といったところ。ただ毛利とぶつかってからはどこを攻めた落としたの羅列で読み物としてはいまいち。まあ戦国そのものがそのような時代なので太平記のような官軍と逆賊のドラマを求めてもしょうがないのかもしれ
読了日:07月02日 著者:那須 辰造
https://bookmeter.com/books/310563

太閤記 (古典文学全集)
信長記と差別化するためか司馬遼太郎風を目指したのか、どちらかは不明だが武功よりも人格、特に実業家としての秀吉を強調していている。訳者の言うとおり本来の太閤記はキャラクターチックなのかもしれないけれど、清洲城の三日普請や薪奉行を強調しても、それはそれでビジネス書風になってしまうのだから如何なものか、と思ってしまった。あと逸話が貧乏臭い。文学が仏教説話や朝廷の権威から解放されたからこその物語なのだろうけれど、それが単なるビジネスマンの立身出世モドキというのはちょっと悲しい。
読了日:07月02日 著者:
https://bookmeter.com/books/310545

■戦場の精神史 ~武士道という幻影 (NHK出版)
軍記物語の武士、朱子学上の武士道を追った批評本。考えてみれば鵯越の逆落としは奇襲の代名詞みたいなものだし、義経の戦い方がそもそも武士らしくない。盛俊のやり口にしたって卑怯といっていい。なのに、何故、武士道は一対一の戦いを好み卑怯な戦術を恥じるのか……というのが本書の主題。著者は外的が存在しない社会を安定させるための思想、即ち(著作内では儒学とされているが)朱子学が武士のあり方を求めた結果として形成されたのだとする。
読了日:07月05日 著者:佐伯 真一
https://bookmeter.com/books/79067

■【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))
傭兵、奴隷とセンセーショナルなタイトルだが論考は社会学がベースで理路整然としている。傭兵も百姓も人間で命は惜しい、が、その前に食わねばならぬ。飢えた土地(北陸)で何千何万もの命が喪われるくらいなら肥えた隣国(甲斐)を襲えばいい、ついでに人を捕らえたなら売りさばけばいい。これをやっていたのが上杉謙信というのだから、ちょっとした驚きではあるが、生地では二毛作ができないから閑散期は山を下りて乞食になる他なかった、という事情以上のものではない。掠奪の方が稼ぎになるという世界があったのだ。
読了日:07月06日 著者:藤木 久志
https://bookmeter.com/books/431494

■刀狩り: 武器を封印した民衆 (岩波新書 新赤版 965)
藤木氏には朝日選書の三部作があるので正確には違う、のだけれど雑兵たち戦場の続き。天下統一が成し遂げられたあと、彼らの武器はどこへ行ったのか、刀狩ですべて消えてしまったのか、残っていたとして、どのように運営されたのか、というのがこの本の趣旨。結論から言ってしまえば武器はあった、百姓もノンビリしていたわけではなかった。普通は締めがわかってしまえば八割読んだようなものだが本書はそれからが本番。武器はあった、ということを証明するために武器管理の御触書が次々に呈される。
読了日:07月06日 著者:藤木 久志
https://bookmeter.com/books/382682

■藪の中 (講談社文庫)
大手二社が文庫化しているのに今更「藪の中」、と訝しくも思うかもしれないが侮るなかれ。兎に角ラインナップが濃い。それもサイコスリラーに振り切れている。殺し殺され犯された当人が各々自分勝手な言い訳を重ねる「藪の中」、老婆が死体の毛を抜く様を見て、野党に成り下がるか迷っていた男が”決心”する「羅生門」、最愛の娘が生きたまま焼かれる姿を画に写し取る「地獄変」、「蜘蛛の糸」については、もはやあらすじを説明する必要もないだろう。極限状態におかれた”近代”人は何を思うのか、ただひたすらエゴイスティックな一冊。
読了日:07月08日 著者:芥川 龍之介
https://bookmeter.com/books/528736

■怪談・奇談 (角川文庫)
やっぱり耳なし芳一が飛びぬけて面白い。基が琵琶秘曲なのである程度物語としては完成しているのだろうけれど、古典なのに近代的な質感がある。見えないからこそ「耳で」わかってしまう武士の気配、壇ノ浦を耳にした平家一門の嘆息。
今昔を底本に地獄変を書いた芥川と同じで、翻案でも才能のある人が書けば別物になる好例だろう。今昔からとった安芸乃助の夢、幻想文学風の衝立の乙女、輪廻転生を題にした蝿、雉のはなしもよかった。引用元は宇治拾遺あたりの仏教説話だが受け入れる側の気分を強調したことでより視覚的になっている
読了日:07月08日 著者:ラフカディオ・ハーン
https://bookmeter.com/books/539219

■怪談 (光文社古典新訳文庫)
視聴覚を揺さぶるが所々に仕組まれている。”盲目”の芳一を囲む平家一門の”声”、安芸之助が”視た”胡蝶の夢。怪談は不気味でなくてはならないけれど、百物語のような筋立てで怖がらせるのではなく、読者の五感を利用しようとしているのが中々面白い。ただ、最後の最後に社会進化論を引いてきてげんなりしてしまった。安芸之助の夢の源を明らかにしたいという姿勢は理解できるが、スペンサーの思想が二十世紀の民族迫害諸々の原因になっていることを考えると収録すべきではなかったと思う。
読了日:07月08日 著者:ラフカディオ ハーン
https://bookmeter.com/books/13001581

古事記物語 (古典文学全集)
登場人物(神)の数をほどほどに抑えてあるから読みやすい。筋を押さえるだけならこれでいいかも。波邇夜須あたりのネタを収録していないのはご愛嬌ということで
読了日:07月09日 著者:
https://bookmeter.com/books/415824

八百万の神々―日本の神霊たちのプロフィール (Truth In Fantasy)
八百万といっても農業を主体とした生活を送っている以上は自然と豊作を願う類の神が生成されるわけで、その辺は欧州の神とあまり変わらない。むしろデジャブ感がちょっと楽しかった。記紀等で神の見分けがつかなくなった際などに辞書的に利用すると良いかも。ただ、それぞれの神格にそれほど違いがないから読み通すのは難しい。(だからプロフィールなのだろうけれど)
読了日:07月10日 著者:戸部 民夫
https://bookmeter.com/books/399835

■天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞 (角川ソフィア文庫)
山人は天狗の下働きもするから忙しい!とあって遠野物語もとい柳田國男との温度差を感じた。土竜を斬ってみたら血の固まりだったが、これは人の穢れを流したものが凝固したものではないか等々の平田流解釈も面白い。が、彼に合わせて少年も語っているのか全体的に国学調で、やれ天狗が仏の姿を借りて皆を誑かしているだの龍が仏典を噛み砕いていただの仏教は邪教だからーとどう読んでも仏教に反発して編み出したような物語と解釈がいくつも収録されているからいい加減げんなりしてしまう。説話集としては稲生物怪録より劣る。
読了日:07月11日 著者:平田 篤胤
https://bookmeter.com/books/13152517

有頂天家族
読了日:07月14日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/574152

有頂天家族 二代目の帰朝
読了日:07月14日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/9395743

■きつねのはなし (新潮文庫)
幻想文学としてよくできてはいるけど、モチーフが具体的なせいでバランスが崩れている。憑依や視点の交錯も魅力的なんだけど、トリガーになっている取引や嘘が人間臭いから不思議というより不快な感情が残ってしまう。どうせなら常世が読みたかったなぁ……。
読了日:07月17日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/576128

桜の森の満開の下 (立東舎 乙女の本棚)
程よく抽象、程よく具体的。桜をモチーフにしているだけあって色彩や花びらの質感がいい具合に絵に落とし込んである。読者層を考慮してか首遊びは控えめな表現だけど、簡素な表現が逆に首実検を思わせる雰囲気になっていて不気味だ。紙の手触りや頁ごとの色合いもこだわってる。空欄の多用や人物の選定が想像力を働かせる効果を生んでいる。が、ややヒロインの絵が多すぎるような気もする。正体が明かされる終盤は好き嫌いがわかれるのでは。
読了日:07月17日 著者:坂口 安吾
https://bookmeter.com/books/14674265

■春泥歌
ショートショート風の構成だけど雰囲気は赤江瀑そのもの。殺意渦巻く東北、諦念を運ぶ御遍路、未練がましい平家、隠された罪や哀しい記憶が土地や夢を通して明らかになっていく。明語彙の選定も的確で次代設定の違和感を消しつつすらすらと読ませる。ちょっと恒川光太郎にも似てるかもしれない。
読了日:07月17日 著者:赤江 瀑
https://bookmeter.com/books/2545908

夢十夜 (立東舎 乙女の本棚)
顔に”運”と書いただけの運慶(第六夜)や第八夜の割烹着に花顔の店員が夢らしい雰囲気を醸し出している。場面に合わせた色の変更、改行も洒落ている。挿絵の使命としては矛盾しているようだけれど、このシリーズはキャラクターが匿名的であるほど作品と波長があっていると思う。原作に癖があるから絵が個性的すぎれば互いに殺し合ってしまうし、かといって無個性すぎれば文章に食われてしまう。桜の森のもそうだったが、今作も顔の欠落が作品を引き立てている。良書。
読了日:07月18日 著者:夏目 漱石,しきみ
https://bookmeter.com/books/13212974

■月夜とめがね (立東舎 乙女の本棚)
表紙が素敵にアクロバティックなので小川未明にそんな話あったっけ??ってなりながら読んでみたら、中身はしっとりとした彼らしい噺だった。蝶の浮遊感と香水の挿絵が洒落ている。乙女の本棚シリーズらしい個性はないのだけれど、絵本としては楽しい。この作風で赤い蝋燭と人魚を描いてほしい。
読了日:07月18日 著者:小川 未明
https://bookmeter.com/books/14384403

■夢を走る (中公文庫)
騒音と屋上に集う烏、喧騒と包帯で耳を塞ぐ少女、雑踏で人を翻弄する都市と意識を吸い出す球体、と主題を挙げれば都市論のようではあるのだけれど、それを追う意識はどこまでも感情的で粗野。近代的な対象を描いてはいるのだが、そこには常に”私”がいる。孤独な、厭世的な、はみだし者の”私”。良く出来た作品ではあるのだけれど、あまりに情緒すぎる。そこまで主観にこだわるなら都市で主題を統一する意味はないと思う。物自体は認識の枠組みの内にある、と言ってしまうことはできるだろうが、安部公房くらい鋭利な方が私は好きだ。
読了日:07月18日 著者:日野 啓三
https://bookmeter.com/books/484765

■燃えつきた地図 (新潮文庫)
不条理とか砂漠とか迷宮とか分裂症とか、すべてを包括的に定義してしまえばいくらでも分類しなおせる作品ではある。のだけれど、基本構造は藪の中なので傾向さえ認めてしまえばわかりやすい。みんな身勝手な人間ばかりだ。依頼人依頼人の弟も大燃商事も燃料屋も皆嘘つきで自分都合で情報を小出しにする。探偵は真実を探るが、誠実になればなるほど入れ子上の情報=都市に圧倒され認識を、自我を喪失する。近代都市は嘘で塗り固めないと生きてはゆけない無間地獄……ならば、むしろ、己を背景化してしまえばいいではないか。
読了日:07月19日 著者:安部 公房
https://bookmeter.com/books/557423

■きつねのはなし (新潮文庫)
読了日:07月22日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/576128

■夜市 (角川ホラー文庫)
外面は柳田國男折口信夫に続くような幻想性の高い小説なのに仕掛けは推理小説。かなり構築性が高いし物語性に対して手厳しい。夜市は兄の自己犠牲……に見せかけて業者の規則違反に対する断罪が主題。風の古道も蘇生者の運命からイザナミを髣髴とさせながら実は境界の機構と住人の自警が道の悪用を正す様に焦点が定められている。神隠し、山人、そういった神話的なモチーフを扱いながらも超自然的な許しを拒絶して、時計仕掛けの神も振り払っている。ひたすら切り詰めて贅肉をそぎ落としたような作品だった。
読了日:07月22日 著者:恒川 光太郎
https://bookmeter.com/books/576898

稲生物怪録 (角川ソフィア文庫)
たった一ヶ月の出来事なのに妖怪たちのアクションの豊かなこと。巨人に小人、ヒキガエルあたりまでは有りふれた化物だが、それらが煌々と目を光らせ頭部から這い出してくる。何をするにしても、ただ襲い掛かるのではなく驚かせるために一癖も二癖もある悪戯を仕掛けているのが面白い。行灯から立ち上がった炎が天井まで燃え上がったかと思えば、次の日には畳からは水が湧き出、いつのまにか石臼は無人でぐるぐると何かを引きはじめる始末。他にも刀の鞘や瓢箪が空中を舞うなど、空間を使った演出さえある。
読了日:07月23日 著者:
https://bookmeter.com/books/14052719

遠野物語・山の人生 (岩波文庫)
何をおいても柳田國男の美しい文章と史料に向き合う誠実な態度。民俗学の史料としては色々と批判されているので評価はし辛いのだが、彼が生み出した文語体がこの作品に独特の価値を与えている。特に遠野物語に登場する神隠しや山人、郷里の信仰を記録している部分が顕著で、その今の時代とはかけ離れた雰囲気、使われなくなった文体がエピソードに怪奇小説的な風味を加味することになった。
読了日:07月23日 著者:柳田 国男
https://bookmeter.com/books/536935

妖の寄る家 (ヤングキングコミックス)
昭和霊異記1は妖怪談義で3は山の人生、漫画としてのうまさももちろんあるけど、芯がぶれないが故に引き付ける魅力がある。にしても柳田國男好きなんだな。
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/568381

朝霧の巫女 1 (ヤングキングコミックス)
忠尋が山に魅入られる際の視点移動(コマ割)が印象的。街の雑踏(買物)から歩道(帰り道)、霧のかかった山という具合に情報量、画風をコントロールしている。境界を意識した画風の変化は後半で顕著だけど、一巻の頃から異化はうまい。稲生物怪録も巻物の抽象度をそのまま持ってきているのも確信犯的。エヴァと比較される事が多いが、モチーフも作風もまるで違う。脚本くらいではなかろか。
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/550704

朝霧の巫女 2 (ヤングキングコミックス)
偽亮大夫の自作自演の翻案がうまい。うますぎて朝霧の巫女オリジナルのエピソードに見える。吊瓢箪や頭から這い出す一つ目の小人も古典を経由しているのに現代(平成)の物語として読めてしまう。こういう日常を感じさせるのが稲生物怪録の良い所だし、それを落とし込む作者もすごいよな。あと楠木が吉野に行ってるのもポイントが高い。
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/550706

朝霧の巫女 3 (ヤングキングコミックス)
全自動石臼
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/568384

朝霧の巫女 4 (ヤングキングコミックス)
山の描き方や視線の誘導の凄み。重要なモチーフだから強調しているのは当然だけど、ここまで背景に意味を持たせる力量には感心する。あと対立軸を考えるのが楽しい。そりゃ天照/北朝/平田勢からすれば素盞雄/南朝/楠木/熊沢は朝敵だし、逆から見れば偽王なんだよな。天津も無関係だと言いたくなる理由もわかる。
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/550708

朝霧の巫女 5 (ヤングキングコミックス)
「妣が国へ、妣が国へ罷らん」から「素戔嗚と号すなり」までの密度と勢いがすごい。冷静に考えれば近親血縁怨念云々で黄泉に憧れるのは、かなり性的であれなのだが画で倫理が保たれている。そもそも記紀がそんな話ではあるが、その辺のモチーフの選択/置換(蟲)がうまい。あと須佐之男ではなく素戔嗚なんだね。
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/550710

朝霧の巫女 6 (ヤングキングコミックス)
学園物を間にはさみながらも、そこで演じられた物語をきっちり伝奇に落とし込んでいる。素戔嗚と対抗するために天津彦根を宿したはいいけれど、そのおかげで成った柚子との仲が菊理の離反を生み、素戔嗚/楠木の再興を成してしまう。勢力図は変わっていないけれど、人間関係の程度ではしっかりゆり戻しが起こっている。折口信夫的妣国に囚われた忠尋に巫女が柳田國男的唱和で呼びかけかけているのも熱い。「かやせ!」
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/559837

朝霧の巫女 7 (ヤングキングコミックス)
七生報国の本義は仁義ではなく素戔嗚との契約だった、と解釈する慧眼というか勇気。山人を通して意思疎通をしているのも楠公ならありうる。正季も何百年も立って女体化された上に依り代にされるとは思わなかったろう。
読了日:07月24日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/1730206

朝霧の巫女 8 (ヤングキングコミックス)
怪奇の象徴だったコマが死ぬのにあわせて日瑠子陛下は2.5次元化。楠木正成の部下として義経やら忠正やら源平を超えて朝敵(?)が集まる。もちろん新田義貞も。節操の無さというかリアリティラインがぐちゃぐちゃになる光景がサイケデリック。あとラストの花於ちゃん。黄泉醜女を画にしているだけでもありがたいんだけど、それに因縁が付くとなお面白い。
読了日:07月25日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/4780108

朝霧の巫女 9 (ヤングキングコミックス)
原始霧へと還元された世界は審神者/巫女の突き立てた天沼矛によって再現され、日瑠子陛下は素戔嗚と共に流される。日瑠子陛下はもちろん蛭子命、原始霧も山を覆う朝霧と重ね合わせになって柚子=朝霧の巫女に着地している。これまで単に神話的なモチーフだったものがきちんと記紀や山の人生に収束しているのが嬉しい。マンガとしては素戔嗚その他諸々が流されていることに疑問を持つべきなんだろうけど、うまく話がまとまっているからいい……のか?
読了日:07月25日 著者:宇河 弘樹
https://bookmeter.com/books/6086290

■ヒト夜の永い夢 (ハヤカワ文庫JA)
孫文が設計した回路基盤に南方熊楠が育て宮沢賢治が磨け挙げた粘菌演算処理装置を積んだ西村真琴設計の少女人形と学則天二号が北一輝と対決する冒険活劇。捻りに捻りを重ねて要約してしまうと何が何だかわからないが、兎に角面白かった。当時の文理越境的な研究者や胡散臭い軍人たち、そういった時代の空気がサイバーパンクで結びついているのが特徴で、歴史改変でありながらきちんとSFとしても充実している。天皇との謁見も一ひねりした解釈がされているのもすごい。これが北一輝に結びつくというだけでも一つの浪漫だものな。
読了日:07月29日 著者:柴田 勝家
https://bookmeter.com/books/13603826

アメリカン・ブッダ (ハヤカワ文庫JA)
雲南省スー族よかった。生老病死すべてをVRを通して体験する、というシチュエーションそのものはありがちだけど、それを学会向けの報告書風にすることで珍しいスタイルを獲ている。使用例というのがポイントで単に通過儀礼や風俗を報告するのではなく、参与観察を間に挟む事でリアリティを会得している。検疫官も職業倫理と葛藤したうえでガジェット(物語)と向き合っているのが面白い。アメリカンブッダネイティブアメリカンの立場から四諦八正道を解釈する、という視点は面白いけどMアメリカがややイデオロギーチックでいまいちノリきれなか
読了日:07月29日 著者:柴田 勝家
https://bookmeter.com/books/16152601


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みるの感想文

 物語で人を善い方向に導く、という考え方は理屈が通っているようで矛盾がある。なぜなら、そういった価値観はそれを発言した主体の好悪と結びつくからだ。

 なるほど共同体への忠誠は善、反社会的行為は悪かもしれない。人が共同体と社会契約に縛られている以上は嫌でも認めなければならないだろう。ベンタム風に言えば最大多数の最大幸福。全体の幸福量を増大させるために共同体には従わなければならない。

 しかし、だからといって、多数派の道理に従う義理などない。国家の宣伝だからといって常に戦争を支持するべきだろうか?仮に妊娠中絶を求めたから、反同性愛を訴えたからといってそれを支持すべきだろうか?

 現代の国家がそのような間違いを起こすはずがない、という反論があるかもしれない。しかし、共同体への忠誠そのものを正しい事だとするなら、その共同体の間違いも背負わなければならないだろう。価値判断を自分意外の誰かに依存した時点で、”間違いを起こすはずがない”と発言する権利はないのだ。それは考えなかった自分への報いでもある

 そもそも物語を善悪で語ることなどできるのだろうか。それは自分の好き嫌いとどうちがうのだろうか。孤独を好む人間、共同体からの脱出を望む人間がいたとする。彼にとっては共同体への加入は余計なおせっかいだと思うはずだ。あなたが感じた悪は他人にとっても悪とは限らない。それは好悪であって善悪ではない。

 確かに子どもに暴力的、性的なコンテンツを必要以上に与える必要はないだろう。しかし、それにしたって悪影響が確認されてから規制すべきであって、善導を目的にするべきではない。純粋であるために何かを排除しようという思想は好悪によるものであって、そこに善悪など存在しない。他人の為にお節介を焼く理由が”自分の好みに合わないから”などという理由でいいわけがない。

 我々は他者に容赦がない。性善説を支持している人間でさえ他人を矯正しようとする。私は間違っているあなたを導かなければならない、という台詞が矛盾に満ちていることに自分で気付く事はできない。誰もが正しいなら導く必要などない。

 他人に危害を加えない限りにおいて人は自由にすべきではないだろうか。自分が間違っている可能性が少しでもあるなら、他人に余計なお節介を出すのは控えるべきなのではないだろうか。

 

ろくがつのまとめ

 週一で通っている本屋の目の前で殺人事件がおこった。現場は西大寺駅と奈良ファミリーの間。あの歩道を渡りきれば近鉄百貨店だ、と想像できるくらいに通いなれた場所。高校生の頃はあの辺でビラ配りをしたこともあった。事件の前日には史料の買出しのために同じ時間帯に建物にいて、同じ交差点を渡った。展望台に行った事がないから上ってみたけど、暑さに辟易してすぐに建物に引き返したことも覚えている。まさかあんなことになるとは思わなかったけれど、同時に”もしかしたら”をどうしても考えてしまう。何もしなくてもこういう事は起こりうるのだ。政治については語らないことにしているからこれ以上深くは触れないが、戒めを込めてメモしておく。

 

 というわけで六月に読んだ本。平家物語と批評を漁っていた。琵琶法師の口承とそれに伴う物語生成が面白かったのでその周辺の評に当たり、あと琵琶法師といえばこれも、ということで小泉八雲の怪談(耳なし芳一)や今昔物語や雨月物語を読んだ。

 雨月物語には保元の乱で敗れた崇徳天皇の恨み言が孟子を楯にしてつらつら恨み言を語る小噺も収録されているが、平家から続けて手に取る事で同時代的な読み方が可能になる。アベンジャーズではないが、シェアワールドのような続け読みもたまには楽しい。

 雨月、宇治拾遺ときたので次は稲生物怪録遠野物語を読む予定。そのあとは朝霧の巫女かなぁ。記紀の大筋が頭の中に残っているうち読んでおきたい。

 そんな感じ。

2022年6月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3879ページ
ナイス数:91ナイス

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吉村昭平家物語 (講談社文庫)
読了日:06月01日 著者:吉村 昭
https://bookmeter.com/books/397709

平家物語を読む: 古典文学の世界 (岩波ジュニア新書)
登場人物十人を通して平家物語を概観する、というありがちな本だが構成が秀逸でその辺の縮訳やキャラクターブックよりも理解が進む。特に忠盛の殿上闇討からはじめて壇ノ浦の知盛で終える構成が利いていて、この大著の見通しを良くしている。本来なら清盛や重盛からはじめるべきなのだろうが、中途で退場してしまう人間に焦点を当てすぎれば一の谷以後はどうしても尻すぼみになってしまうし、この二人を全体のまとめやくにしているのは優れた判断だろう。
読了日:06月01日 著者:永積 安明
https://bookmeter.com/books/447472

平家物語―「語り」のテクスト (ちくま新書)
相手が平家物語なのでもちろん文献学がアプローチの基本だけど、発信者の欲望/受信者の反応といったメディア論的なところまで突っ込んでいて刺激的だった。滅んでいく平家を題材にとっているのだから源平交替史観に依ったイデオロギー的な偏りは避けられない。これはもう現代語訳でもわかるようなことなのだが、著者は編纂課程で編みこまれた様々な声が源平交替史観を超える価値を作品に与えていると語る。例えば棟梁でありながら最期まで家族の安否を気遣う父親として語られる宗盛、維盛、東大寺を焼きながら穢れを流すような役割を引き受ける重衡
読了日:06月02日 著者:兵藤 裕己
https://bookmeter.com/books/373229

■保元・平治物語 (古典文学全集)
平家物語の前日譚なのにまったく世に出回っていない保元・平治物語の現代語訳。児童書だと見縊るなかれ、語り口の軽さに応じて物語の筋も勢力もこれ以上ないくらいにわかりやすい。何より平家物語の時系列、人間関係を物語を通して膨らませることができる。(歴史の教科書を読めばわかることではあるけれど)。良書。
読了日:06月04日 著者:
https://bookmeter.com/books/60667

義経記 (古典文学全集)
義経、弁慶の落ちぶれ振りといい静御前への仕打ちといい、ここまで陰鬱だと平家物語に匹敵する悲劇だと思う。
読了日:06月08日 著者:
https://bookmeter.com/books/415827

■古典文学全集 (12)
太平記大日本帝国及び皇国史観の起源ここにあり、という風格がある。後醍醐天皇七生報国切腹、令和からすれば”違和感”であり、真に受けるのは恥ずかしいとされる記述がてんこ盛りなのだけれど、そういう隔世感も今となっては貴重だろう。本書は児童向けに書かれていて原本とは異なるが、その語り口が皮肉にも尋常小学校の教科書ようなスタイルを伴う結果になっている。楠木正成らの武勇がかつてどのように読まれていたか、半世紀前にタイムスリップしたかのような読書感を与えてくれる一冊。
読了日:06月11日 著者:
https://bookmeter.com/books/310557

■古典文学全集 (3) 竹取・落窪物語
中世恋物語集。もう定番中の定番とされている二編だから今更レビューなど書きようがない、というわけではなく今読んでも面白い。竹取物語は竹や月のSFであるまえに女に付きまとい手紙攻めをする男の物語であるし、落窪物語にはかぼちゃの馬車の代わりに結婚による出世と継母への報復が登場する。いつの時代もしつこく女に迫る男の気持ちの悪さやいじめへの恨みつらみというものは変わらない。欧州の古典、特にグリム童話などは因果応報で片付けてしまうからこのような物語のつくりは珍しい。本書は児童向けだが、むしろカンタベリー物語に近いので
読了日:06月17日 著者:
https://bookmeter.com/books/415825

■古典文学全集 (20) 雨月・春雨物語
「怪談」といえば江戸の小泉八雲だが、大阪には上田秋成がいる。というわけで雨月物語孟子易姓革命に則り源平への恨みつらみを語るあの世の崇徳天皇にはじまり、出張中から帰った夫を幽霊屋敷で出迎える女の幽霊、愛する稚児を亡くし、その苦しみから食人の道に入った坊主、蛇に見初められ変化した女の姿でどこまでも追いかけられる伊達男……といった様々な幽霊が語られる。19世紀の怪談を待つまでもなく近代幽霊のモチーフ、物語構成はここで出来上がっているとい言っていい。
読了日:06月17日 著者:
https://bookmeter.com/books/463640

■今昔物語 (昭和41年) (古典文学全集〈8〉)
姉妹編宇治拾遺との差別化のためか、よりオカルトじみた逸話を多く収録している。巨大なむかでと戦う大蛇に地すべりを預言者の婆、迷い込んだ山林で馬に変えられてしまう男たち、例えるなら特撮の連続活劇みたいなもので古典なのにほっこりしてしまった。同じ時期に書かれたデカメロンカンタベリーも猥褻と幻想によって成り立っていたわけで、人の想像力は洋の東西を超えるのだなぁ、と感心した。
読了日:06月20日 著者:武部 本一郎
https://bookmeter.com/books/981874

宇治拾遺物語 (古典文学全集)
仏教説話集だが逸話の中核ははオカルトなのでモチーフのすごさは今昔とあまり変わらない。猟師に不殺生戒を説くために”鹿”に姿を変えて討たれようとする坊主に女が唱えた念仏の恩恵を受けた蛇が恩を返そうと家に忍び寄る”蛇”。今の価値観で読めば説教臭いし古臭いのだが、幻想的な逸話の数々は押し付けがましい価値観を超えてエンターテイメントを提供してくれる。私は仏絵師良秀が好きだった。自分の家が燃える様子を観察し、慌てふためく群集を尻目に次の絵の参考にする、と言い切る様はまるで怪奇大
読了日:06月20日 著者:
https://bookmeter.com/books/310532

■桜 ――文豪怪談ライバルズ! (ちくま文庫)
梶尾、坂口、この二人には桜とくれば両者がいなくてははじまらない、という風格すらある。赤江も同じ幻想文学路線の作品で味わいがあった。石川淳とか中川健次にはそうきたか、という驚きはあるのだけれど自分としてはあまり好みではなかったかな。酸いも甘いもあって全体でバランスをとっているフルコースのようなアンソロ。
読了日:06月23日 著者:
https://bookmeter.com/books/19109662

■刀 ――文豪怪談ライバルズ! (ちくま文庫)
妖刀という言葉がすでにあることもあって、今回は特にモチーフとの相性が良い。女が憑いた女切り、刀鍛冶が憑いたにっかり、同じく鍛冶の因縁でも騒ぐ刀はキャラクターチックで同じ憑き物でも作家による作風の違いを楽しむ事ができる。(個人的にはにっかりの方が好き)。妖刀記も鍛冶が主題だが、こちらは昭和が舞台で物語もサイコサスペンス風に書かれている。刀というモチーフが作家に与えてきた想像力、その幅の広さが印象に残る作品集だった。あと今回の泉鏡花はかなり歯ごたえがある。
読了日:06月26日 著者:
https://bookmeter.com/books/18268174

■鬼 ――文豪怪談ライバルズ! (ちくま文庫)
円地による今昔物語現代語訳と京極の鬼情を並置したおかげで青頭巾に対して妙な角度で理解が深まってしまった。他にも今昔物語をベースにした短編が数作収録されていて、読替として一本筋が通っている。こういう作為のある構成ができるのはアンソロならではだろう。鬼の末裔は中世日本に迷い込んだスペイン人を鬼に見立てた作品で、幻想文学の中にひとつだけ歴史物が迷い込んだようでおかしかった。
読了日:06月26日 著者:
https://bookmeter.com/books/18598611


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ごがつのまとめ

 サイバーパンクというゲームで遊んだのでサイバーでパンクな本ばかりを読んだ。

 学生時代から苦手な分野だったけど、相変わらず難しい。それもサイバーではなく「パンク」が。元もと既存の物語形式や作家の勢力争いからの離脱を目的に醸成されたジャンルだからしょうがないのだけれど、文体も形式もふわふわしていて読みづらい。バローズやハクスリーのような離人的な視点で世界を巡る羽目になる。僕はサイバネティックスを読みたいだけなのに……と言いたいところではあるけど、それでは単にガジェット好きの人になってしまうので、そこは耐えた。とりあえず長年の課題だったニューロマンサーをクリアしたので満足。

 まぁあとギブスンの好きなニホンモドキ文学を三冊。中でもユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンは良かった。封建制でガチガチに体制を固めた日帝が世界中で蛮行を働く……というとナショナルな感情が揺らいでしまうが、そこはフィクションの力で何とかした。思い入れのあるモチーフでも創作だと割り切ってしまえば楽しい。遅れた価値観を持った最強の軍隊、最先端の技術、それを駆使した全体主義……というくらーい設定を盛り込んだ作品が面白くないわけがない。

 あと、世界観がこれなんだよね。


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 そんな感じ。いまは記紀神話をモチーフにした。朝霧の巫女を読み直している。日本ver.2ばかり当たってるな。

 

2022年5月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:6169ページ
ナイス数:142ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2022/5
■我もまたアルカディアにあり (ハヤカワ文庫JA)
出演者全員がブレーキの踏み方をわかってないんだけど、それがニューロマンサーのノリと勢いと人体改造をままに引きついている。肉体を限界まで酷使したい→手足脊髄全部取っ払って機械に置き換えよう、将来は作家になりたい→下半身を切除して残りのりリソースを全て上半身に、働きたくない→軟禁して生活保護で暮らせ、子孫も行動制限な、外に出たい→放射能の嵐のなかで窒息しろ。普通は権力による資源の収奪や行動の制限を悪役に見立てるものだけれど、そういうものが一切ない。悪癖に見えるようなものまでぜーんぶ自己責任の範疇でやってしまう
読了日:05月01日 著者:江波光則
https://bookmeter.com/books/9761935

スノウ・クラッシュ〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫 SF ス 12-11)
仮想現実黎明期らしい発想や言葉を伝染病に見立てた文明論は面白い、のだけれどそれぞれのアイデアにつながりがない。ストーリーとの関わりも希薄で、その場その場で思いついたことをひたすら聞かされているような気分になった。キャラクターは個性的……だが、これもインテリタイプではなく物語のなかでひたすら浮いている。どのページも羅列的で小説というよりメタバースの概説本という印象を受けた。
読了日:05月01日 著者:ニール・スティーヴンスン
https://bookmeter.com/books/19034425

スノウ・クラッシュ〔新版〕 下 (ハヤカワ文庫SF)
文体がすごい。人種や宗教への偏見がにじみ出ている。本人はギブスン風の(重力井戸を昇って悪徳都市を出た、みたいな)文章にしたいんだろうけど、捻りのない隠喩でぎゃーぎゃー喚くだけだから品がない。ちょっとした世界史の知識に派手な理屈を乗っけてふんぞり返るあたりはジャレッドダイヤモンドのなんちゃって人類学に似ている。ワイアードが好きな層、先進的でさえあれば精度は問わない人間には受けるだろうけど、それでいいのか?
読了日:05月02日 著者:ニール・スティーヴンスン
https://bookmeter.com/books/19034426

■ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
なるほどイナゴ(USA)はゲバラのゲリラ戦術のような教本だから隠されたのか。ディックならこんな結論を出さないだろうけど、高い城の男を基にここまでの間諜小説に辿りつくのはなかなかのことだろう。創氏改名や防疫給水部隊をベースにした設定は元ネタになった国の人間としては考えてしまうところもあるが、ここまで極端に走れば娯楽として一級。人体改造の限りを尽くし、余生を肉人形に囲まれて過ごす退役軍人や(レジスタンスが開発したことになってるけど)軍隊蟻も敵(創作日帝)に相応しい。とてもよく出来たディックの、日本文化の外延的
読了日:05月07日 著者:ピーター トライアス
https://bookmeter.com/books/11182001

■メカ・サムライ・エンパイア (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
前作はディックで今回はハインライン、宇宙の戦士、あるいは終わりなき戦い。運動も勉強もできないギークが戦士になる、というのが今風で米国の筋肉質な戦争小説との違いでもある。ゲームを軸に戦術や訓練も組まれているから軍隊生活も殺伐としていない。(筋トレも訓練メニューにはいっているからその辺の苦労話もあるのだけれど)。ロボの殴り合いも派手で面白い。ただ命名規則サブカル風で日帝らしくないのが残念。当て字でもいいから漢字表記にしてほしかった。十二使途もなぁ……作品の情報量からし古事記くらいは読んでると思うんだが…。
読了日:05月07日 著者:ピーター トライアス
https://bookmeter.com/books/12733318

■サイバー・ショーグン・レボリューション (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
日帝IF、ロボビルドゥングロマンときて最期はロボアニメ。作風を変えながら三部作を形成する、という試みは成功しているから作家主義的には満足した。ただ、ジャパンとサムライの西欧文学のスタイルが好きだったのでこの巻だけはあまり評価できない。トライアス自身は押井や小島が好きらしいけど、この作風は富野だと思う。ナチ撤退後の廃墟に残った人体実験の痕跡(肉片)や遺伝子改造熊のコロシアムは如何にもステロタイプで尖っていたのだが
読了日:05月09日 著者:ピーター トライアス
https://bookmeter.com/books/16357980

サイバーパンクアメリカ (KEISO BOOKS)
80年代末に書かれたサイバーパンク総括、なのだけれどスターリングはヒッピー文化の関係を匂わせるばかりで定義などそ知らぬ顔だし、ギブスンはサイバーパンク作家と呼ぶなと断言しているからこのジャンルが”何”なのかは最期までわからない。そもそもエリスンやネヴィラ賞の審査員、それを取り巻くあらゆるSF環境への対抗文化として生まれたジャンルだから”何か”である必要はないのだろう。とにかく皆がレッテル張りに敏感で他人との違いを協調している。
読了日:05月11日 著者:巽 孝之
https://bookmeter.com/books/34627

ウィリアム・ギブスン (現代作家ガイド)
ギブスンはアメリカ南部の虚空に生まれて香港的千葉市的空間に至ったみたいなことが書いてあって、彼がやたらと日本を讃えるのはそういうことか、と腑に落ちた。向こうから見たらこの国はサイバネティックスとダーティリアリズムが混ざった場所(混成主体)に見えるやね……ブレードランナーオリエンタリズム攻殻の香港的空間の原型がわかってよかった。まぁデュシャンとか赤瀬川の名前も出てくるから源泉はジャンクアートなんだろうけど、これをSFに持ち込んだ功績は大きい。
読了日:05月11日 著者:巽 孝之,新島 進,ラリイ マキャフリイ,浅倉 久志,ひろき 真冬,カール・タロー グリーンフェルド,ピーター シュウェンジャー,白石 朗
https://bookmeter.com/books/11037

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
サイバーパンクなのにパンクよりもピュア寄りでびっくりした。エリスンら古典を説き伏せるような論理に欠けている。説明がない、と読者は怒るだろうけれど語ってしまえばいずれ(クラークは既に、アシモフはもうすぐ追いつかれてしまう)時代的な制約に掬われてしまう。そういう意味ではギブスン自身も度々口にしているバロウズの影響は濃厚だし、その戦術は成功している。マトリックスだの攻殻だのと元ネタ(ガジェット)を見つけることができても、文体が我々を魅了しかつ翻弄し続けているのはその証左だろう。
読了日:05月13日 著者:
https://bookmeter.com/books/504754

ファイト・クラブ〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)
久々に読んだらドストエフスキー流の私小説で色々と考えてしまった。病人への共感を拒絶し死を超克するためにファイトクラブを立ち上げ物質文明に反旗を翻す……ところまではいかにもヤッピーらしい考え方で、流儀も21世紀だけど着地点にいるマーラはソーニャで19世紀だよなぁ……堕ちているからこそ”ぼく”を受け入れてくれるわけで、結末はそこでいいのか?と思ってしまった。もちろん物質文明への反抗も金貸しのアリョーナ、ラスコーリニコフの殺意はファイトクラブへと通じている。
読了日:05月15日 著者:チャック・パラニューク
https://bookmeter.com/books/9689452

■サバイバー〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)
ファイトクラブからタイラーとマーラをそぎ落として鍛えた悪夢みたいな作品。カルトに育てられマナーを教わり、悲劇の主人公として流れ着いたカルトで祭り上げられたかと思えばエージェントの操り人形に……ハイジャックでさえ女の占いに振り回された結果で、最期まで自分で何かを成し遂げることはない。自分で何かを決定する、自己決定、それらはすべて流されてしまう。
読了日:05月17日 著者:チャック・パラニューク
https://bookmeter.com/books/19034532

ストーンコールド 魔術師スカンクシリーズ 1 (星海社FICTIONS)
表紙はエレファントなのに中身はクリスマスキャロル。スクルージが堕ちる先は地獄でも家族でもなく、女と血の池地獄。ただ、最期まで回心はしないし金銭感覚は維持しているからその辺はドストエフスキーっぽい。(罪と罰風の)結末からして共苦の必要性を訴えている、ようにも読めるけど杓子定規で世界を測る癖は抜けていないしコロンバインは起こしてしまっているわけで、その辺の歪みをそぎ落として読むよりも、他者と交わることのできなかった異邦人として読んだ方が良い。割り切り方からしラスコーリニコフというよりムルソーっぽいんだよね
読了日:05月19日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6275909

スピットファイア 魔術師スカンクシリーズ 2 (星海社FICTIONS)
読了日:05月24日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6721149

■スーサイドクラッチ 魔術師スカンクシリーズ 3 (星海社FICTIONS)
読了日:05月24日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6883934

ファイト・クラブ
僕の嘆きもタイラーのバイタリティも90年代の安定した環境があったからこそあり得たんだろうな……今となってはただただ羨ましい。もう物質文明への逆張り生老病死からの隔離を嘆くなんてこともできない世の中になってしまった。たぶん、今を生きる人にはブランドへの嫌悪と資本主義への怒りが両立することも、理解できない。(これがDQN小説に見えるのはそういうことなんだよね)
読了日:05月25日 著者:チャック パラニューク
https://bookmeter.com/books/521684

時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)
モラリストの神経逆なで全部盛りみたいな小説でかなり面白い。バッハやベートーベンといった古典派を嗜む若者が人を殴り人を殺し、更正したかと思えばまた音楽によって回心してしまう。それだけではない。全体主義的な”転向”を支える道具としてもベートーベンは活躍してしまう。情念と理性の統合である音楽が規範を逸脱するような事態に人間はどう対処すればいいのか。音楽に効果がないなら、もしかしたら文学にも、いやもしかしたら人間には良識などというものは存在しないのかもしれない。アレックスの人生は知識人の不安を表しているように見え
読了日:05月25日 著者:アントニイ・バージェス
https://bookmeter.com/books/573801

アントニイ・バージェス選集2(時計じかけのオレンジ
読了日:05月28日 著者:アントニイ・バージェス
https://bookmeter.com/books/7822874


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平家2

 また今度

 祗王とびわの「握手」と「また今度」。ショットと台詞は互いに強化し合い、二人の関係性を強化する。赤の他人から友達へと距離は縮まり再開の予感は高まる。

 しかし、ショットは物語の進行に伴い逆走する。祗王は出家し徳子はそれを言葉で伝えるが、二人の友情などというものは存在しない。そこではむしろ握手が切断の表象、二人だけではなく祗王の人生の崩壊を表すものとして機能している。(1)

 事態を知り屋敷を飛び出すびわと徳子の握手でさえもそうだ。徳子の手はびわへの忠告というよりも祗王との別離を彼女に託すためにつながる。(2)

 山田尚子の演出している回は構図に目新しいものはないのだけれど、身体を利用した表現が素晴らしい。身振り手振り、目線が他人と交わり、ほどほどに、ふれるように感情を揺さぶってくる。かといって表現に固執するというわけではなく、プロット上の感情の起伏に連動しており構築性もある。(この”ほどほど”が日常系に誤読させてしまう原因ではあるのだけれど)

 ただ、ふわっとしているということは次に何が起こるかわからない、ということもあるわけで、まぁ、つかれる……。

平家12

 視て、語る。

 後白河法皇や清盛をはじめ、目については執拗なほど表現の多いアニメだけど、マッチカットははじめてだと思う。(10話で維盛が涙から血にイメージを流してはいる)

 空間的共時性、イメージの蓄積、転化、まぁこの使い所の多いレトリックだが、このショットでは目撃者(武士)から語り部びわ)への移動を表していた。びわという存在が語ることしかできない主体であり、作品の主題ということを考慮すればこれ以上適切な運用はなかなか思いつかない。そこから「祇園精舎の鐘の声」。語り継ぐという意思の表明ではなく、各々がそこにいたという存在の表明。像から声へ。(蓮実が怒りそうだね)


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 本編に組み込んだショットではないから言及するのはあれだけど、第二段PVの目を強調した編集も印象的だった。清盛、後白河法皇、それぞれの憎悪と悔恨を込めて剥き、涙を流す”目”が蓄積されて複合的なイメージを形成している。

 

 に、しても相変わらずメタメタなアニメだ。見せ場をあえて避けているから主筋を知っておかないとこんがらがる。そもそも真正面から事実を見ようとしないびわという語り部が世界観に合っていない。矛盾している。ただ、びわが外部に立てばアニメとしての同時代的な意義が増していくのも事実で、この逆説がこのアニメの本質なのだろう。

 未来を見ることのできる人間が目前の状況に絶望し、ならば、と平家”物語”を語り継ごうとする。そこには歴史を真正面から見据えようという歴史学的な誠実も映像表現の欲望もない。外部に立つことで本質を明らかにする、語り部としての責任だけが残る。

 彼女が平家の人間であったなら、あるいは源氏の誰かであったなら、そこには利害が発生しこれほど中性的な作品にはならなかっただろう。一度発生した想いは増幅し、推しを生んでしまう。諸法無我のない場所に諸行無常はない。

 とはいえ目指しているものはポストモダンなあれとも似ているし、あれと同じような落とし穴に嵌りそうな雰囲気もある。たぶん、びわに焦点を定めて現代劇として読んでしまえば皆が同じ罠に嵌って物語の自律性を見逃してしまう。文脈を指定しないからこそ安定している作品でもあるからだ。かといってエンターテイメントではないからと否定するのもなんだかなぁ、という思いも個人的にはあるわけで……むずいね。