2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

9月に読んだ本

 8月も終わりか、と感慨にふけっている間にもう10月。単に記憶力が減退して体感している時間経過が増しているだけなのだろうけど、それにしても速すぎる。純粋経験とは何か考えてしまうな。あと前月よりも読書量が900頁ほど増えたからちょっと嬉しい。

 前月のおすすめは何といっても「生まれながらのサイボーグ」。テクノロジー系の書籍にしてはちょっと古い内容なのだけれど、アプローチの仕方が他には見られないものだった。

 脳は道具に合わせて変化するもので、そこに確固たる自我、デカルト的な心身の分裂はない。例えば「腕を挙げる」という動作をするときに私たちが考えていることは「時間」という抽象であって「動作」ではない。時間を知るために関節の一挙一動に集中するなんてことはないはずだ。なら、脳に電極を埋め込んで直接ネットとつながっても人間は対応できるのではないか。

 要約にあたって少し誇張した言葉をつかってはいるけれど、大体はそんな内容。具体例は古いし、スマートホンで実現した内容も多いので最新の研究ではないのだけれど、拡張という考え方を体系的に、時に繰返しながら語っているのは良かった。

 SF作品の種本のような記述がちらほらあるので、そういう意味でもおすすめ。拡張する身体と自我の関係はそのまま攻殻、脳のラベリング機能と塑性は虐殺器官のエージェント機能とその応用のマスキングにつながっている。

 あとは未来のイヴを読んだりフランケンシュタインやわらはロボットを読み直したり、ロボット関係を復習。

 ワーグナーの演奏会があったのでニーベルングの指環を読み直したりもした。金枝篇を髣髴とさせるものがあったので、来月はフレイザーを読んでみたい。

 そんな感じ。

 

 

2021年9月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:5912ページ
ナイス数:87ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly
■ポストマン (ハヤカワ文庫SF)
あらすじどおりに最初の百頁くらいは手紙を受け取ったり届けたりしているが、段々と治安の復旧=野蛮人集団に対するパワーバランスになっていく。安全が確保されないうちは手紙の配達もアメリカの復興もできないわけで、まぁそうなるよな、という感じではあるが案外こういうストレートな作品は少ない。さらに最後の最後でサイボーグがタイマンを張るなんて展開はこれにしかないのではないか。
読了日:09月29日 著者:デイヴィッド ブリン
https://bookmeter.com/books/362633

■生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来 (現代哲学への招待 Great Works)
 人体のサイボーグ化とそれに伴う人間の再定義について具体的な技術の紹介を交えながらまとめた批評本。二十年前の著作というだけあって技術の側が追いついてしまっているが、人間と機械を同列に扱う視点や順々に身体の内側、脳機能まで説明してしまう語り口にはスリルがある。(何とローズ博士のラットからはじまる)
読了日:09月26日 著者:アンディ・クラーク
https://bookmeter.com/books/9767808

■ロボットからの倫理学入門
書名が入門書風なのでロボットをとっかかりにした哲学史のおさらいかな、と思いながら読んでみたらけっこう実践的な内容だった。シンガーの学説にディック的な人間と機械の境界問題と結びつけて功利主義を説明したり、ストローソンの議論から責任の帰属先を検討したりといい感じにポイントを突いてくる。ちょっと変わったところだとロボットが集めた情報の取り扱い、プライバシーのあり方なんてものも分析していて、これも解釈の仕方がディストピアSFのそれに近い。
読了日:09月22日 著者:久木田 水生,神崎 宣次,佐々木 拓
https://bookmeter.com/books/11528680

ワーグナー ニーベルングの指環〈下〉第2日『ジークフリート』・第3日『神々の黄昏』 (オペラ対訳ライブラリー)
なんだかんだで愛の物語。第一夜のジークムントもこの第二夜のジークフリートも愛が物語を廻している。しかし、だからこそ、ハーゲンの媚薬がすべてを裏返してしまう。ジークフリートが薬によって理性と記憶を喪ったことで彼とブリュンヒルデの恋仲は破綻し、怒り狂った彼女によってヴォータンが望んだ神々の繁栄も世界の終末と共に潰える。そもそも神々の奢りとアルベリヒの呪いからはじまった物語ははじまったわけで、両者の破滅は結末ににふさわしい。
読了日:09月21日 著者:高辻 知義
https://bookmeter.com/books/196140

ワーグナー ニーベルングの指環〈上〉序夜『ラインの黄金』・第1日『ヴァルキューレ』 (オペラ対訳ライブラリー)
愛情と憎悪、契約と自由、それぞれを止揚しようとするかのように概念がぶつかり合う。愛を捨て憎悪を指輪に注ぐアルベリヒと妹に愛を見出すジークムント、契約に縛られ神々の黄昏をただ見届けることしかできないヴォータンと彼に反抗し自由意志に則ってジークムントを助けるブリュンヒルデ。二人の追放がやがてジークフリートの自由奔放な性格と運命を生み出すことを思うと、これも止揚の形なのかもしれない。予定調和的なヴォータンの行動といい、それを上書きするようなブリュンヒルデの眠りといい、やはり楽劇には時空を超えた魅力がある。
読了日:09月21日 著者:リヒャルト ワーグナー
https://bookmeter.com/books/372608

フランケンシュタイン (新潮文庫)
何度読んでも壮絶な一冊。一つの読み方を許してくれない。ただ、世間ではフランケンシュタインの怪物の本とされてはいるけれど、テーマはフランケンシュタインと怪物だよなーとか思った。人類史に精通するほどの知性を持ち他者の幸せに共感することができる心優しき怪物と彼の醜さ、親友と兄弟、妻を喪ってもなお怪物に対して責任を感じないフランケンシュタイン。考え一つ違えば和解できそうな両者なのだけれど、フランケンシュタインが怪物の容姿とそこに付随する様々な事件を思い出すことで自体は深刻になっていく。
読了日:09月17日 著者:メアリー シェリ
https://bookmeter.com/books/9034372

未来のイヴ (光文社古典新訳文庫)
何がすごいって不気味の谷や精神に対する科学の優越性といったものに十九世紀的な態度で直に踏み込んでいること。時代的な限界もあって、用語の説明はないのだが、ヒューマニズムを信じるが故の苦悩が生の言葉で語られている。男が女に抱く幻想と人造人間に対するそれと何の違いがあるのだろう?そのように振舞えば機械だろうと何だろうといいじゃないか、むしろ知的な女性を望むのなら人形で十分じゃないか、半世紀後にPKディックがはっきりと問題として設定し、未だにあとを引く”機械の人間”の関係の原石のようのものがここにある。
読了日:09月15日 著者:ヴィリエ ド・リラダン
https://bookmeter.com/books/13125503

■ロボット (岩波文庫)
機械が人間の仕事を奪う、仕事を奪われた人間は生きる気力をなくす、という社会問題を設定するまでは良質なSFなのだが、ロボットが意思を持ってからは頓珍漢。そりゃ機械に自我を与えれば人のように振舞うだろうし労働者のように反抗するのも当然だろう。が、それではプロレタリア文学と変わらない。その上で人間と機械の差を分析しても意味はない。根底には神を模倣することや労働を放棄することへの嫌悪があるのだろうけれど、具体的な分析を怠った原理原則には時代的な制約がかかってしまう。ヒューマニズムの限界を見た気がした。
読了日:09月12日 著者:カレル・チャペック
https://bookmeter.com/books/557309

■宇宙の眼 ハヤカワ文庫SF
アニメやゲームのメタ演出前盛みたいな作品で押井や小島といった名のあるクリエーターもディックなしでは生まれなかっただろーと思わせる一冊。もう中盤で傘がふわふわと浮き出して”眼”と遭遇するあたりから怒号の勢いで、各々がつくった並行宇宙を食らい尽くす。車椅子に縛られていたはずの白人至上主義の老人が立ち上がって天使を召還し、女は蜘蛛に変身して人間を食い散らかし、かと思えば中年子持ちの女はあらゆる不快なものー生殖器、工場、森と風、そこに住まう虫、バルトークのレコードを消してしまう。世界と自我のサイズが同じになった
読了日:09月11日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/8297763

■ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)
読み直してみると絵本のような優しいエピソードばかりでびっくりした(内容は易しくない、というか難解)。真心は感情を硬直させることで幸せを恒久的なものに変質させる話だし、ふたりの距離のカップルは(文字通り)合体しながらも相手の闇をあえて覗こうとしない。ひとりっ子も技術的に前進しながらも結局は親子の物語だったりする。サスペンスは殺意に希望を見出してしまう「行動原理」くらいか。イーガンは科学に対して真摯でありながら人間性を否定しない、人の生に対して肯定的であり続ける珍しい作家だと思う。
読了日:09月11日 著者:グレッグ イーガン
https://bookmeter.com/books/479341

■時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)
ラジオのような盗聴器(のような気がする)、偽造されたマリリンモンロー(のような気がする)、レイグルを盗撮する謎の組織...という風に概ねいつものディック。なんだけど、ユービックのようにガジェットやエスパーがあまり出てこないから、素に読むと統合失調そのもの。集団ストーカーに追いかけられている人はこういう気持ちなんだろうか。あとオチが∀ガンダム
読了日:09月05日 著者:フィリップ・K. ディック
https://bookmeter.com/books/7902373

■ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)
読了日:09月04日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/513493

■火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)
読了日:09月04日 著者:フィリップ K.ディック
https://bookmeter.com/books/538186

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
共感の欠けた機械と共感の欠けた人間と共感の欠けた動物の三つ巴。心がないからといって規則に乗っ取って生きるわけでもなく、皆はただただ身勝手に動き回るのみ。地獄のような世界。
読了日:09月02日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/577666

■われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)
時代遅れだろうが何だろうが物語に「原則」を持ち込んだ功績と親しみやすい文体の価値は変わらない。これぞ古典。
読了日:09月01日 著者:アイザック・アシモフ
https://bookmeter.com/books/578036


読書メーター
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マーラー聞いてきた

 このご時勢に県境を越えて音楽を聴きに行くとは何事か、と怒る人もいるかもしれないが、会場は田舎だし歓声どころかブラボーも禁止ということで許してもらいたい。会場内は演奏前後の拍手を除いて殆ど無音だったので、デパートやスーパーに行くよりは安全だろう。

 まぁ、そんな道徳的な話はおいといて、演奏はかなりよかった。堅実で早くも遅くもない、音楽の骨格が見えるような演奏。休止の入れ方が絶妙で次節までのゆとりというか用意をさせてくれる。四楽章の再現部でぞわっとしたのは久々だった。

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 ホルンもきちんと(?)総立ちになって吹いてくれたので大満足。アバドは「マーラーの時代じゃあるまいし立たなくてもよい」と就任したてのベルリンフィルで言ったそうだけれども、やっぱり演出効果というのは馬鹿にできない。コロナで演奏の機会が喪われている時代であってはなおのことだろう。六番のハンマーだってなんだかんだで続いているわけだし、マーラーの人を食ったようをみんな愛しているではなかろか。(そういったことすべてを天国のマーラーはそれみたことか、と笑ってそうではある)


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 あとリトルスカーレットのジャムを買った。カフェに寄る時間もないしせめて豪華な夜食を、と思いながら四条の成城石井に向ったら偶然発見。ここ一年くらいずっっっと探していたので、こんないい加減なタイミングで見つかるなよ、という思いも少々。

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 グラニュー糖のもやもやがあまりない味で、甘いのに渋みと酸味があとを追ってくるから気にならない。果実の量が多いのだろうか。芯の部分は大昔に軽井沢で食べたブルーベリーのジャムの味に似ている。良くも悪くも濃厚なので茶会とかでちょっと食べるくらいがいいかな。

 なお探していたのはクリームティーをしたいからとかではなく、単にジェームズボンドが愛用しているからという理由。(といっても映画には登場しないのだろうけど。有名な割りにコネリーもムーアもダルトンもレーゼンビーも朝食で”ジャムを食べているショット”はない)

 そうそう、亡くなった彼女の墓の前を通った。もう異性には縁はねーと思っているので敷地にははいらなかったのだけれど。もう二十年近くになるのか。時の流れは速いね。

  思いつくままにそんな感じ。

8月に読んだ本

 なんとか図書館で借りた分だけは読みきった。アレクシエービッチのセカンドハンドの時代が500頁を越える大作で、これだけで今月は終りそう……と思っていたが何とか消化。

 この人の本は内容が際どいのに加えて一国のイデオロギー的な多様性、個人の事情といったものを包み込むような内容なのでかなり体力をつかう。大祖国戦争強制収容所スターリン主義ゴルバチョフによるペレストロイカ、こういったものを構成する人も否定する人も、忘れたいと思っている人もみんな載っている。例えばスターリン主義がなければドイツには勝てなかった、と言っている軍人と家族ごと収容所に送られ極貧のなかで青春を送った女性のインタビューが並列されていたりする。全体主義が良かったとか悪かったとか、戦争の是非とか、そういったものを判断することの”安易さ”を思い知らされた。

 経験は思想化によって純化される。世間が反戦を唱えれば戦前に国家主義を叫んだ人々は消え去る。逆も然りで、国が戦争に傾けば反戦は道徳的に嫌らしいものとされる。日本では大日本帝国→日本国への移行や太平洋戦争=大東亜戦争がそうだったわけだけれども、そのことを念頭に置いてアレクシェーヴィチの著作を読めば、その真摯な態度と作品の巨大さに圧倒されるだろう。

 そんなわけでセカンドハンドの時代、おすすめです。世間では戦争は女の顔をしていないが変に有名になっているけれど、インタビューとしての完成度はこの一冊が突き抜けていると思う。いや、ユートピアシリーズの完結編なのだからどれを一番とか言ってもしょうがないのだけれど。できれば五冊すべてが有名になってほしい。自分としてはアフガニスタン帰還兵へのインタビューをまだ読んでいないので復刊してほしい。昨今の中東の情勢を考えるとその意義は十分にある。

 あとソ連といえば卵をめぐる祖父の戦争が酷かった。ソ連ステロタイプをハリウッドに落としこんだような時代遅れ本ってまだあったんだね。この前のスターリンの葬送狂騒曲といい、ソ連の扱いがだんだんと戦後に形成されたナチス像に似通ってきている気がする。わかりやすさのための純化、大衆受けするための強調。一方的に悪いとは思わないけれど、もうちと自覚的になってみてはどうだろう。とか思った。

 そういえば、これでユートピア五部作のうち四冊読んだことになるんだな。十年くらいかかったけど読めるもんだね。いまはPKディック読んでます。

 

2021年8月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:5156ページ
ナイス数:46ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly
■変数人間 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:08月30日 著者:フィリップ・K. ディック
https://bookmeter.com/books/7684846

■変種第二号 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-24)
やっぱりディックは脳に良い。くまのぬいぐるみを持った少年にご用心。
読了日:08月26日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/8009412

■ヨーロッパがわかる――起源から統合への道のり (岩波ジュニア新書)
書いてあることの大半は高校世界史を勉強した人にとってはわかりきったことだし、用語説明がないから欧州の歴史や地理にはじめて触れる人には抽象的な記述の羅列になるだろうし、かといって独自な問題設定があるか……というとそうでもない。なんだかなぁ、という感じ。ざっくりヨーロッパ史を振り返るには便利かも。-で振り返るシリーズにも言える事だけど、岩波ジュニア新書は主題がぼやけて教科書の要約に成り果てている本が増えている気がする。
読了日:08月21日 著者:明石 和康
https://bookmeter.com/books/7830705

チェルノブイリの祈り―未来の物語
チェルノブイリというと政府による事故の隠蔽、疎開、汚染地域の「洗浄」等々、良くも悪くも定型的な報告が多いが、これはそのどれとも異なる。放射能の存在を「目に見えない」から信じないで廃墟に住み続ける老婆、タジキスタンから移住してきた女性、こういった表現の仕方によっては誤解を招きそうな証言がちらほら挟まれている。
読了日:08月20日 著者:スベトラーナ・アレクシエービッチ
https://bookmeter.com/books/75513

■セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと
ただひたすら圧倒的なソビエト社会主義連邦共和国の証言。ペレストロイカを経てロシアとなった自国を改めて振り返る、という体だが内容はゴルバチョフエリツィンへの賛否に留まらない。自分たちの特権を棚に上げてソ連の偉大さを語る女性がいれば配給の列がなくなったことを喜ぶ人もいる。資本主義万歳、贅沢は素敵だと語る女性だっている。90年代だけでも立場は三者三様なのに、もう一つ世代を遡ればアフガン、さらに遡れば大祖国戦争を経験した世代が語りだす。
読了日:08月19日 著者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
https://bookmeter.com/books/11164423

■卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)
歴史の教科書的なエピソードとアメリカ人好みの汚いジョークの羅列で辟易した。読後感は米国版の映画スターリングラードに似ていて、西側から見た独ソ戦ってこんな感じだよなーくらいの印象しか残らない。レニングラードの飢餓やアインザッツグルッペンとか”怖い話”は出てくるのに、主人公はどこまでも第三者的で戦闘前夜にセックスしたいセックスしたいと肉欲と戦う始末。シモヘイヘのスコアに対抗心を燃やす余裕があるなら、もっと独軍の「移住政策」を恐れるべきでは。そも継続戦争中のソ連人がシモヘイヘを意識する意味がわからないが……。
読了日:08月15日 著者:デイヴィッド ベニオフ
https://bookmeter.com/books/4515624

■イワンのばか (岩波少年文庫)
イワンのバカは原子共産主義的なユートピアで人は何で生きるか、と愛のあるところにーは貧民が隣人愛に目覚め恩恵を受ける話。金銭や土地への執着を断って隣人愛に目覚めるあたりが如何にもキリスト教的で落としどころはクリスマスキャロルと同じなんだけど、誰も彼もが善人なのでいまいち緊張感に欠けている。ディケンズと違って人を信じているのはわかるけど、良くも悪くもそれがトルストイという作家の限界だよなぁ、とか思ってしまった。
読了日:08月13日 著者:レフ・ニコラーエヴィッチ トルストイ
https://bookmeter.com/books/21072

■カレワラ物語―フィンランドの神々 (岩波少年文庫 587)
シベリウスを聴くならいつかは読まねば、ということで手にとってみたが難しい。サンボがどういうものなのか最後までわからなかった。ただ、情念の在り方は神話らしくて、身分違いの女性を射止め、勇壮果敢(?)に敵の宴会を荒らしまわるレンミンカイネンや老いながらも権威を盾に若娘と結婚しようとして自死に追い込んでしまうワイナミョイネンのどうしようもなさが微笑ましい。こういう暴れっぷりはアジアもヨーロッパもかわらないのだなぁ。天地創造が人の身体の模倣からはじまるのも古事記っぽくて親近感がわいた。
読了日:08月11日 著者:
https://bookmeter.com/books/492816

■猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)
読了日:08月11日 著者:ジャンニ ロダーリ
https://bookmeter.com/books/18914

■神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)
読了日:08月10日 著者:ディーノ ブッツァーティ
https://bookmeter.com/books/31926

■火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)
自閉症は世界の認識、時間感覚の異常発達から生じる病でそれはタイムスリップをも可能にするーという筋だけど、そういう設定以上にディックの精神病に対する優しさが溢れた作品。(単に自分も”そう”だと思っていたのかもしれないけれど)。ふんぞり返っている資本家とこき使われる労働者、社会から弾き飛ばされた障碍者ステロタイプな人物像ではあるけれど、どの人間も訳ありで、生き方が不器用で、どうも憎むことができない。
読了日:08月09日 著者:フィリップ K.ディック
https://bookmeter.com/books/538186

■流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)
ガジェットはSFだけど、内容は安部公房っぽい不条理文学。主人公ダヴァナーが社会証明や共感性を失っているのがポイントで、彼が証明書を”買った”り、他人と対立することで逆説的に関係性が浮かび上がってくる。待ち人の死を拒絶し、帰還を夢見ながら証明書を偽造して毎日を生き抜くキャシィ、ベッドを共にした男と別れることで絆を最小限に留めつ愛を持続させるルース、物欲に溺れるアリスと彼女の死を、それを発端に引き起こされた陰謀に心を痛め涙するバックマン本部長。ダヴァナーに共感を求めながらも他者への恐怖から愛を断念せざる
読了日:08月08日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/528229

グリム童話集 下 (岩波少年文庫)
捻っているつもりはないんだろうけど、癖のあるお話が多い。親切な靴職人の妖精は恩返しに着飾った途端に家を出て行くし、詐欺師は巨人との力比べでチーズを握りつぶして怪力に見せるし、善行を働けば帰ってくる、といった類のものは皆無。一発で五つの卵を撃ち抜く兄とそれを元通りに縫い合わせる弟の名人四人兄弟はいまの能力バトルものっぽい。金のガチョウに村中の人がひっついて白にかけこむ一羽もギャグアニメでありそう。ファンタジーの原型としてではなく、普通に物語として面白かった。
読了日:08月05日 著者:グリム
https://bookmeter.com/books/375102

■Metro2033 下
上巻がセクトで下巻はカルト。ポスアカ世界でハルマゲドンを説く宗教団体が出てくる小説ははじめて読んだ。エリオット(ウェイストランド)のいない世界ではこういうことも起こるのか……。他にもクレムリンの赤い星がサルマンの目よろしく人の精神を操ったり大蛇教が人肉を食ったりカルトとタブーのオンパレード。ソ連首脳部が庶民とは別に地下鉄(メトロ2)を建設して人類として新たな進化を遂げたってやつが好き。ただ旅行記風の文体、構成は相変わらずで物語としては微妙。ゲームの原作小説なのにゲームの設定史料として面白かった。
読了日:08月02日 著者:ドミトリー グルホフスキー
https://bookmeter.com/books/587531


読書メーター
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7月の読書

 先月は体調どん底、精神ボロボロ、だったのだけれどけっこう読んだ。臥せっているしかできないと本を読むくらいしかできないので自然と冊数は増える。ただ、戦争や殺人といった内容が重いものは身体に影響を与えることもあって手にとっていない。何でだろうね。無意識下でストレスになっているんだろうか。HBOのチェルノブイリを観終えたところだから本当はチェルノブイリの祈りとセカンドハンドの時代に目を通しておきたかったのだけれど、ただただ無念だ。

 あとリヴァイアサンと市民政府論を続けて読んだ。流石は古典新訳文庫。かなり読みやすい。この二つの大著を一挙に読み飛ばすなんてことは岩波文庫や世界の名著ではできなかった。(精読しないなら読むな、なんてことを言われるかもしれないけど、そういう楽しみ方もたまにはありだと思う。思想史の概略で読んだ気になるよりはまともだと思いたい。

2021年7月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:5490ページ
ナイス数:75ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly
マクルーハン理論 (平凡社ライブラリー)
活版印刷から情報が多人数で共有される時代がはじまって、新聞の誕生によって閲覧の同時性が限界を向かえて……これからはテレビの時代だ!となるあたりのメディア論の夜明けを感じさせる。眩しい、あまりにも眩しい。マスコミの権威は失墜し、SNSでは不確かな情報が蠢き人々の不信を膨らませている現在ことを考えると、希望に燃える姿が羨ましくもある。発想自体は面白くて、テレビの節操のなさ(線=構成の欠如)を禅的で西洋的な理性を越えるものとして歓迎してたり媒体の進化が如何に情報の伝達速度を支えていた
読了日:07月02日 著者:マーシャル マクルーハン,エドマンド カーペンター
https://bookmeter.com/books/104632

ニーチェ・セレクション (平凡社ライブラリー)
厭世主義や永劫回帰の箇所はよく出来ていて、世間の価値や他者への配慮のあり方を根底から揺るがす力がある。読み継がれる理由もわかる……のだが、自己中心や主客を超越した言い回しが異様に多い。後にも先にもこんな哲学はないのだけれど、世間的にはこれが哲学のイメージなんだろうなぁ……と多少複雑な心境で読み終えた。あと力への意思からの引用が大体わかりにくい。抜粋だからなのかもしれないが、素直に道徳の系譜といった完成した本を読んだ方がわかりやすいと思う。
読了日:07月05日 著者:フリードリヒ・ヴィルヘルム ニーチェ
https://bookmeter.com/books/22152

モンテ・クリスト伯 上 (岩波少年文庫 503)
復讐譚として翻案されがちな作品だが、時代設定からフランスらしさが凝縮されている。ワーテルロー前夜、エルバ島へ密書を運ぶ船長、その罪をなすりつけて逮捕させる友人、ボナパルト党の父を庇って冤罪を見逃してしまう検事。百日天下直前というタイミングといい、船長の突然死といい、どれだけ運が悪いんだ、とも思うが、こういった世界史的な大状況を巧みに取り込む手腕はさすがデュマ。ダンテスが手にした財宝がかのチェーザレボルジアの遺産というのも気が利いている。ユグノー戦争を舞台にしたダルタニャンよりもスリルがあってページを捲る手
読了日:07月06日 著者:アレクサンドル・デュマ
https://bookmeter.com/books/410852

モンテ・クリスト伯 中 (岩波少年文庫 (504))
序盤の勢いを失うどころか、どんどんと複雑かつ重厚になっていく。かつての住処でヴィルホールを襲う棄児のデジャブ、罠にはめられ資産を削られるダングラール、着々と計画を進める中でモンテクリスト伯を襲うメルセデスの視線……怨念の中にふと思い出したかのように現れる女の直感が物語りに華を添えている。彼らに背を向け、独自に愛を育むヴァランチーヌとマクシリアンが帰って親世代の闘争によって結びつけるラストもにくい。(ノワルチエ宛の密書こそがダンテスにとっては致命的な一打だったろうに)
読了日:07月07日 著者:アレクサンドル・デュマ
https://bookmeter.com/books/410853

モンテ・クリスト伯 下 (岩波少年文庫 (505))
あらゆる出来事があるべき場所に嵌っていく。カドルスは死に、殺した男は検事の息子として裁かれ、その検事ヴィルホールは息子と妻の謀殺を咎めた末に発狂。彼の娘は子爵モルセールの代わりにモレルと結ばれ、一方の子爵は父の過去を暴き、弾劾し、自殺に追い込んでしまう。パズルのようだがその精密さ、規模の大きさ、そういった形容がすべてモンテクリスト伯の怒りの大きさを表しているようだ。
読了日:07月08日 著者:アレクサンドル・デュマ
https://bookmeter.com/books/410854

■自由論 (光文社古典新訳文庫)
当たり前のことを当たり前に、しかし着実に積み重ねることで自由は如何に実現するかを示す。人の話を聞け、変な意見でも益になるかもしれない。自分の主張に執着するな、変な反対論でも益になるかもしれない。そして何より互いに領域を侵犯するな。簡素なので何をわかりきったことをーなどと思ってしまうが、原理原則というのはそういうもので、見えているものを組み立てることで全体像を表すものだろう。まだ危害原理という言葉もなかった頃に私的領域や社会にとっての個性の有用性を原理から説明する様はただただ圧倒的。
読了日:07月10日 著者:ミル
https://bookmeter.com/books/105185

リヴァイアサン1 (古典新訳文庫)
確かに人間と権力欲は切り離せない、猜疑心に囚われた人間は容易に武器を手に取る、というようなことを書いてはいるけれど、一度自然状態を脱すれば自分勝手に振舞うな(自然権を行使するな)、平等な対応を心がけ、仲裁者を信頼せよ等々と割と常識的なことが書かれていて腰砕けになった。主権論に入っていないので早合点かもしれないが、この時点ではロックも自然権に対して似たような見方をしているし、ホッブズが(教科書的な)強権の人、「万人の万人に対する闘争」だけの人ではないのは意外だった。
読了日:07月18日 著者:ホッブズ
https://bookmeter.com/books/9043721

リヴァイアサン2 (光文社古典新訳文庫)
前巻に引き続いて教科書的なイメージから剥離している一冊。主権者は公民法に従う必要はない、権力を疑う言説は封殺すべき等々の記述はいまから見れば全体主義を思わせる。が、そういった強権論の背後には常に内戦、無秩序への恐れが感じられる。主権者の継承権を維持すること、逆に民衆による統治形態の変更を否定するのも、クロムウェルのような「人」による自然法の行使を否定するため。恐怖で統治することを認めながらも主権者に権力の起源を説明するよう求めてもいるあたり、統治の先に平和を希求していたことが
読了日:07月20日 著者:トマス ホッブズ
https://bookmeter.com/books/12666087

■市民政府論 (光文社古典新訳文庫)
ホッブズに比べると近代的で、それ故かずいぶんと読みやすい。立法権と執行権の分離と平衡化、それらによる所有権の保全、それが守られなかった場合の主権者の追放……戦争が起こっても、その賠償は加担したものに限定しているしリヴァイアサンより随分と人間的だ。自然権を聖書から導き出しているあたりはちょっと「古い」が、その分を体制のデザインで補っているのも面白い。人間のコミュニケーションを当てにしている部分は賛否あるだろうが、それを含めて印象的な一冊。
読了日:07月20日 著者:ジョン ロック
https://bookmeter.com/books/4045906

フランス革命―歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書)
フランス革命の通史的な解説ではなく、ブルジョア革命とは何ぞ、という本。貴族、ブルジョア、民衆の相関関係の中で革命が何を起こし、また何を破壊したのかを所有権や生存権、デモクラシーといった概念を用いながら解説してくれる。国民議会と国民公会の違いって何?、ジロンドとジャコバンの関係がわからない、という人にぴったり。岩波ジュニア新書ということだけあって公民の教科書通りに権利概念や語句を使ってくれるので非常に読みやすい。新しい発見はなかったが、あまりにもわかりやすいから高校生の時に読んでおけばよかったーってなった。
読了日:07月21日 著者:遅塚 忠躬
https://bookmeter.com/books/522719

ロシア革命 (「知の再発見」双書)
ぐっだぐだ。二月革命が下からの突き上げではじまったのはいいけど、それを終らせるための内紛が延々と続く。チェレノフ、ケレンスキートロツキーレーニンでさえも十月革命の直前までは脇役。二月革命の勢いを党大会に持ち込めなかったのか、とも思うがそれはそれでフランスのようなブルジョア革命に留まってしまうらだろうし、歴史というのは難しい。知の再発見らしく視覚史料が豊富で、党大会で群集がわちゃわちゃしていたり、プラカードやくわをもってデモ隊が進む様は熱気に満ちている。このクオリティでフランス革命をつくってもらえないだ
読了日:07月22日 著者:ニコラ ヴェルト
https://bookmeter.com/books/14946

レ・ミゼラブル 上 (岩波少年文庫)
冤罪と正義、犯罪と良心、法律を一旦地に下ろして人間の心を対応させるところがビゼーというかフランスらしい。法を絶対視しながらも誤認逮捕してしまうジャベールと冤罪を許すことができずに自首するマドレーヌ、空腹に耐えかねてパンを盗んだ男と銀食器の盗難に目をつぶる司教。革命後の仏国が舞台の作品ではあるけれど、作品にはその精神が息づいている。
読了日:07月23日 著者:ヴィクトル ユーゴー
https://bookmeter.com/books/402924

レ・ミゼラブル〈下〉 (岩波少年文庫)
ミリエル司教の施しに心動かされ良心に従い続けたジャンバルジャン、その彼の善行に圧倒され法と道徳の狭間で自ら命を絶つジャベール。善行だけで社会が成り立たないことはわかっている。しかし、ジャンとジャベールの葛藤は何故心を打つのだろう。良心の可能性と限界を示した偉大な作品。
読了日:07月24日 著者:ヴィクトル ユーゴー
https://bookmeter.com/books/402925

■少年の魔法のつのぶえ―ドイツのわらべうた (岩波少年文庫 49)
聖人は魚に説教し鐘はりんらんと鳴り響く。恋人に会うために鳥になりたいと願う女の子がいれば、界面を隔て引き裂かれた男女がいる。人生の虚無を歌ったものもあるのでドイツのマザーグースと言われるのも分かるが、聖書や動物がモチーフになっているのは、やはりロマン主義の国。絶望はあってもその先に神や天使が待っいて、その辺もイギリスとの違いを感じさせる。グリム童話とあわせて読んでおきたい一冊。
読了日:07月24日 著者:
https://bookmeter.com/books/35231

グリム童話集 上 (岩波少年文庫)
冒険譚に立身出世、女官による陰謀から姫様より与えられた試練まで何でもあり。宮廷から庶民まで登場人物は様々だが結婚や出世に焦点を合わせていて、そのあたりはペローよりも大衆的だと感じた。ガチョウ番の娘の陰謀が好き。
読了日:07月25日 著者:グリム
https://bookmeter.com/books/379750

■ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
向こうにはコンタクトする気はない、重要な役割を果たしているゾーンでさえ、題名通り「ピクニック」の途中で落としていったものでしかない、というあたりソラリスと共通している。卑小な人間と未知で広大な宇宙という対比は東欧ではよくある設定なのだろうか。廃品となった異物を業者が拾いに行くあたりもソ連という感じでよかった。アメリカなら科学者が「観測」するんだろうけど、そういう職種的なものさえ特権なんだろうな。
読了日:07月26日 著者:アルカジイ ストルガツキー,ボリス ストルガツキー
https://bookmeter.com/books/1390

■Metro2033 上
ロシア製ポスアカ。西部劇を土台にした欧米の終末ものとは違い、世界が終ってもセクトを形成しているあたりロシアっぽい。WWIIみたく人種選別と浄化を行うファシストの駅、モスクワを目指して”侵攻”を繰返すコミュニストの駅。そこまでイデオロギーを持っていかんでも……と若干引く一方でエリオットを経由せずに世界の終わりを描くとこうなるのか、という発見もあった。あとキノコを煎じたお茶や歌と踊りが娯楽になっているところも風土を感じさせてよかった。
読了日:07月30日 著者:ドミトリー グルホフスキー
https://bookmeter.com/books/328435


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七月二週目、てーたいむとか

 友達からもらったマーマレードジャムをクラッカーに載せて、白山陶器のデミタスカップと共に。砂糖が少ないせいか酸味がきつめのジャムだった。クラッカーの塩味と合わせるとうまい。

 カップ白山陶器のデミタス。身体が小さいせいか少量の茶葉と小さめのカップだけで十分酔えてしまう。こういう時だけは得なんだよな。

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 あと大学を卒業して以来、久しぶりにミルの自由論を読んでいる。 

 

 人の話を聞こう、どんなに偏った意見であっても無視するよりは益があるはず、どんな思想も研磨されることで磨きがかかる、そして何より人に干渉しすぎないでおこう。人の自由を拘束するのはもっての他だし、何より人に嫌われる。あと、酒は呑み過ぎないように。人に迷惑をかけると逮捕されるよ。(人に嫌われる、と本当に書いてある)

 まぁ、こんな内容で要約すると「常識の羅列じゃん……。」とも思うのだが、これを守るのが以外に難しい。「人の話を聞く」ことはできても、「『嫌いな人』の話を聞く」ことができないのが人間というものだ。「聞く価値のない話」だって、それはレッテルを貼った上でのことで、別な人から見れば異なる。「価値」とはあくまで自分や一つの分野が定めるものであって、分野が違えば基準も変わる。分類したり空間として捉えるだけでまるで領域が変わってしまう。ソクラテスではないが無知の知に近いものがあるのだ。ただ、確かに「もうすでに知っている程度の低い話」もあるわけで、その境界線をどこに引くべきか、という問題もある。いつまでも解釈の多様性にかまけていては問題は解決しない。価値判断は確かに必要ではある。(いやまぁ、自由論はそういう話ではないのだけれど、意見が多いだけ多い方が良い、とは確かに書いている。どんなに異端であっても今の時点で通用している意見と比べて論拠を疑え、とも)

 あとすごいのは、この多様性の問題を私的領域と結びつけて自由の問題に話を移しているところ。人の意見を尊重し、きちんと耳を傾けよ。意見が中傷でない限り、それを尊重せよ。これは「酒を呑むこと自体に問題はないが、他人を傷つけることは論外」とあまり変わらない。私的な領域では他者に危害を加えない限りは何をしてもいい。公的領域の人間も公共に害のない限りは手を出してはならない。(啓蒙するのはあり、とは言っている)。

 危害原理という言葉もない時代にこれだけ明確に、しかも横道にそれず簡素に理屈を積み上げていく様には圧倒される。ベンタムの流れを汲んでいるとはいえ、どうやればこうも見事に骨格だけを抜き取ることができたのだろう。ダイヤの原石のような、そんなすごみがある。(方法序説もそんなところがありますよね) 


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 そうそう、先週の演奏会がきっかけで協奏曲にはまっただった。いつもCDを買いながら「協奏曲のカップリングなんて聴かないしなー」とあんまりいい思いはしていなかったのだけれど、これがそのまま宝物になった。シューマンプロコフィエフもラフマニコフもグリークもシベリウスも伊福部も早坂もみんないい。(ブラームスとチャイコは苦手だけど……あの拍子で二十分以上はきつい)

 思いつくままに書いたら思いつくままになったな。最近はそんな感じ。

Kホール行ってお茶して帰った。

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 今日は夜公演。演目はエグモント、ショパンの協奏曲とドヴォルザーク交響曲第九番。協奏曲を聞くのはたぶん二年越しのことで、ほんとうに久々。協奏曲は自分から聴こうと思わないからなのだけれど、遠ざけていたからなのか余計に染み入るものがあったのだと思う。帰ってすぐにリヒテルの盤を購入。


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 帰りは例のロシア料理店でお茶。ジャムと紅茶を交互に飲むロシアンティースタイル。はじめての経験テーブルに並んだ当初は面食らったけど、口にしているうちに慣れる。というか親しみすら沸いた。理由は二点。   

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 まず味。お酒に例えると日本酒と塩辛、渋みと塩味のような組み合わせで、紅茶の渋みと酸味が互いに補強しあう。イギリスのスコーンやケーキのようは紅茶の味を際立たせるために淡く仕上げるものだけれど、目指している方向がそもそも違う。茶請けよりつまみ、酒の肴のような趣がある。

 あと見た目。ジャムをそのまま皿にのっている姿はイギリスのアフタヌーンティーと比較すれば品はないのだけれど、その分飲んでいる側は気張らなくてよい。

 イギリスもといアフタヌーンティーは優雅に飲むものだが、それとは対極にある。いちいちスコーンにクリーム塗ってバター載せて……なんてことはしない。スプーンでジャムを口にダイレクトに運ぶ。そして紅茶を飲む。また食べる!飲む!!の繰り返し。学生時代にウォッカを飲んでいた頃に黒パンとウォッカを交互に口にして無限に飲む……というようなことをしていたけどあれに似ている。東欧の食文化ってみんなこんな感じなのだろうか?(吐血してやめた)

 調べてみると、ロシアンティーはモスクワ周辺にあるものでサンクトペテルブルクにはないらしい。これは推測だが、サンクトペテルブルグになかったのは貴族が受け付けなかったからではないだろうか。これを帝政時代の王侯貴族が好んだとは思えない。この飲み方が似合うのはどちらかというとコルホーズだと思う。僕は労働者階級の出身なのでこの飲み方が気に入った。明日からジャムを用意しよう。

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 話が飛んでしまった。実はティーセットにはプラムのタルトが一緒についてくる。甘酸っぱいプラムに生クリームの組み合わせで、これが紅茶に合う。ジャムだけでも十分飲めるけど、甘いものは別腹なので……。

 まぁそんな一日だった。

最果て日記2-?-1

 懺悔も兼ねて記録に残しておく。最果てのイマの「イマ」について。ずっと勘違いしていたのだけれど、これは記憶を回想している現在のこと、あるいは回想している主体イマという少女のことを指している。決して過去と対応する現在を指しているわけではない。読めばわかることなのに、何で勘違いしていたんだろう。

 

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