2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

8月に読んだ本

 なんとか図書館で借りた分だけは読みきった。アレクシエービッチのセカンドハンドの時代が500頁を越える大作で、これだけで今月は終りそう……と思っていたが何とか消化。

 この人の本は内容が際どいのに加えて一国のイデオロギー的な多様性、個人の事情といったものを包み込むような内容なのでかなり体力をつかう。大祖国戦争強制収容所スターリン主義ゴルバチョフによるペレストロイカ、こういったものを構成する人も否定する人も、忘れたいと思っている人もみんな載っている。例えばスターリン主義がなければドイツには勝てなかった、と言っている軍人と家族ごと収容所に送られ極貧のなかで青春を送った女性のインタビューが並列されていたりする。全体主義が良かったとか悪かったとか、戦争の是非とか、そういったものを判断することの”安易さ”を思い知らされた。

 経験は思想化によって純化される。世間が反戦を唱えれば戦前に国家主義を叫んだ人々は消え去る。逆も然りで、国が戦争に傾けば反戦は道徳的に嫌らしいものとされる。日本では大日本帝国→日本国への移行や太平洋戦争=大東亜戦争がそうだったわけだけれども、そのことを念頭に置いてアレクシェーヴィチの著作を読めば、その真摯な態度と作品の巨大さに圧倒されるだろう。

 そんなわけでセカンドハンドの時代、おすすめです。世間では戦争は女の顔をしていないが変に有名になっているけれど、インタビューとしての完成度はこの一冊が突き抜けていると思う。いや、ユートピアシリーズの完結編なのだからどれを一番とか言ってもしょうがないのだけれど。できれば五冊すべてが有名になってほしい。自分としてはアフガニスタン帰還兵へのインタビューをまだ読んでいないので復刊してほしい。昨今の中東の情勢を考えるとその意義は十分にある。

 あとソ連といえば卵をめぐる祖父の戦争が酷かった。ソ連ステロタイプをハリウッドに落としこんだような時代遅れ本ってまだあったんだね。この前のスターリンの葬送狂騒曲といい、ソ連の扱いがだんだんと戦後に形成されたナチス像に似通ってきている気がする。わかりやすさのための純化、大衆受けするための強調。一方的に悪いとは思わないけれど、もうちと自覚的になってみてはどうだろう。とか思った。

 そういえば、これでユートピア五部作のうち四冊読んだことになるんだな。十年くらいかかったけど読めるもんだね。いまはPKディック読んでます。

 

2021年8月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:5156ページ
ナイス数:46ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly
■変数人間 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:08月30日 著者:フィリップ・K. ディック
https://bookmeter.com/books/7684846

■変種第二号 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-24)
やっぱりディックは脳に良い。くまのぬいぐるみを持った少年にご用心。
読了日:08月26日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/8009412

■ヨーロッパがわかる――起源から統合への道のり (岩波ジュニア新書)
書いてあることの大半は高校世界史を勉強した人にとってはわかりきったことだし、用語説明がないから欧州の歴史や地理にはじめて触れる人には抽象的な記述の羅列になるだろうし、かといって独自な問題設定があるか……というとそうでもない。なんだかなぁ、という感じ。ざっくりヨーロッパ史を振り返るには便利かも。-で振り返るシリーズにも言える事だけど、岩波ジュニア新書は主題がぼやけて教科書の要約に成り果てている本が増えている気がする。
読了日:08月21日 著者:明石 和康
https://bookmeter.com/books/7830705

チェルノブイリの祈り―未来の物語
チェルノブイリというと政府による事故の隠蔽、疎開、汚染地域の「洗浄」等々、良くも悪くも定型的な報告が多いが、これはそのどれとも異なる。放射能の存在を「目に見えない」から信じないで廃墟に住み続ける老婆、タジキスタンから移住してきた女性、こういった表現の仕方によっては誤解を招きそうな証言がちらほら挟まれている。
読了日:08月20日 著者:スベトラーナ・アレクシエービッチ
https://bookmeter.com/books/75513

■セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと
ただひたすら圧倒的なソビエト社会主義連邦共和国の証言。ペレストロイカを経てロシアとなった自国を改めて振り返る、という体だが内容はゴルバチョフエリツィンへの賛否に留まらない。自分たちの特権を棚に上げてソ連の偉大さを語る女性がいれば配給の列がなくなったことを喜ぶ人もいる。資本主義万歳、贅沢は素敵だと語る女性だっている。90年代だけでも立場は三者三様なのに、もう一つ世代を遡ればアフガン、さらに遡れば大祖国戦争を経験した世代が語りだす。
読了日:08月19日 著者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
https://bookmeter.com/books/11164423

■卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)
歴史の教科書的なエピソードとアメリカ人好みの汚いジョークの羅列で辟易した。読後感は米国版の映画スターリングラードに似ていて、西側から見た独ソ戦ってこんな感じだよなーくらいの印象しか残らない。レニングラードの飢餓やアインザッツグルッペンとか”怖い話”は出てくるのに、主人公はどこまでも第三者的で戦闘前夜にセックスしたいセックスしたいと肉欲と戦う始末。シモヘイヘのスコアに対抗心を燃やす余裕があるなら、もっと独軍の「移住政策」を恐れるべきでは。そも継続戦争中のソ連人がシモヘイヘを意識する意味がわからないが……。
読了日:08月15日 著者:デイヴィッド ベニオフ
https://bookmeter.com/books/4515624

■イワンのばか (岩波少年文庫)
イワンのバカは原子共産主義的なユートピアで人は何で生きるか、と愛のあるところにーは貧民が隣人愛に目覚め恩恵を受ける話。金銭や土地への執着を断って隣人愛に目覚めるあたりが如何にもキリスト教的で落としどころはクリスマスキャロルと同じなんだけど、誰も彼もが善人なのでいまいち緊張感に欠けている。ディケンズと違って人を信じているのはわかるけど、良くも悪くもそれがトルストイという作家の限界だよなぁ、とか思ってしまった。
読了日:08月13日 著者:レフ・ニコラーエヴィッチ トルストイ
https://bookmeter.com/books/21072

■カレワラ物語―フィンランドの神々 (岩波少年文庫 587)
シベリウスを聴くならいつかは読まねば、ということで手にとってみたが難しい。サンボがどういうものなのか最後までわからなかった。ただ、情念の在り方は神話らしくて、身分違いの女性を射止め、勇壮果敢(?)に敵の宴会を荒らしまわるレンミンカイネンや老いながらも権威を盾に若娘と結婚しようとして自死に追い込んでしまうワイナミョイネンのどうしようもなさが微笑ましい。こういう暴れっぷりはアジアもヨーロッパもかわらないのだなぁ。天地創造が人の身体の模倣からはじまるのも古事記っぽくて親近感がわいた。
読了日:08月11日 著者:
https://bookmeter.com/books/492816

■猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)
読了日:08月11日 著者:ジャンニ ロダーリ
https://bookmeter.com/books/18914

■神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)
読了日:08月10日 著者:ディーノ ブッツァーティ
https://bookmeter.com/books/31926

■火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)
自閉症は世界の認識、時間感覚の異常発達から生じる病でそれはタイムスリップをも可能にするーという筋だけど、そういう設定以上にディックの精神病に対する優しさが溢れた作品。(単に自分も”そう”だと思っていたのかもしれないけれど)。ふんぞり返っている資本家とこき使われる労働者、社会から弾き飛ばされた障碍者ステロタイプな人物像ではあるけれど、どの人間も訳ありで、生き方が不器用で、どうも憎むことができない。
読了日:08月09日 著者:フィリップ K.ディック
https://bookmeter.com/books/538186

■流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)
ガジェットはSFだけど、内容は安部公房っぽい不条理文学。主人公ダヴァナーが社会証明や共感性を失っているのがポイントで、彼が証明書を”買った”り、他人と対立することで逆説的に関係性が浮かび上がってくる。待ち人の死を拒絶し、帰還を夢見ながら証明書を偽造して毎日を生き抜くキャシィ、ベッドを共にした男と別れることで絆を最小限に留めつ愛を持続させるルース、物欲に溺れるアリスと彼女の死を、それを発端に引き起こされた陰謀に心を痛め涙するバックマン本部長。ダヴァナーに共感を求めながらも他者への恐怖から愛を断念せざる
読了日:08月08日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/528229

グリム童話集 下 (岩波少年文庫)
捻っているつもりはないんだろうけど、癖のあるお話が多い。親切な靴職人の妖精は恩返しに着飾った途端に家を出て行くし、詐欺師は巨人との力比べでチーズを握りつぶして怪力に見せるし、善行を働けば帰ってくる、といった類のものは皆無。一発で五つの卵を撃ち抜く兄とそれを元通りに縫い合わせる弟の名人四人兄弟はいまの能力バトルものっぽい。金のガチョウに村中の人がひっついて白にかけこむ一羽もギャグアニメでありそう。ファンタジーの原型としてではなく、普通に物語として面白かった。
読了日:08月05日 著者:グリム
https://bookmeter.com/books/375102

■Metro2033 下
上巻がセクトで下巻はカルト。ポスアカ世界でハルマゲドンを説く宗教団体が出てくる小説ははじめて読んだ。エリオット(ウェイストランド)のいない世界ではこういうことも起こるのか……。他にもクレムリンの赤い星がサルマンの目よろしく人の精神を操ったり大蛇教が人肉を食ったりカルトとタブーのオンパレード。ソ連首脳部が庶民とは別に地下鉄(メトロ2)を建設して人類として新たな進化を遂げたってやつが好き。ただ旅行記風の文体、構成は相変わらずで物語としては微妙。ゲームの原作小説なのにゲームの設定史料として面白かった。
読了日:08月02日 著者:ドミトリー グルホフスキー
https://bookmeter.com/books/587531


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