2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

9月に読んだ本

 8月も終わりか、と感慨にふけっている間にもう10月。単に記憶力が減退して体感している時間経過が増しているだけなのだろうけど、それにしても速すぎる。純粋経験とは何か考えてしまうな。あと前月よりも読書量が900頁ほど増えたからちょっと嬉しい。

 前月のおすすめは何といっても「生まれながらのサイボーグ」。テクノロジー系の書籍にしてはちょっと古い内容なのだけれど、アプローチの仕方が他には見られないものだった。

 脳は道具に合わせて変化するもので、そこに確固たる自我、デカルト的な心身の分裂はない。例えば「腕を挙げる」という動作をするときに私たちが考えていることは「時間」という抽象であって「動作」ではない。時間を知るために関節の一挙一動に集中するなんてことはないはずだ。なら、脳に電極を埋め込んで直接ネットとつながっても人間は対応できるのではないか。

 要約にあたって少し誇張した言葉をつかってはいるけれど、大体はそんな内容。具体例は古いし、スマートホンで実現した内容も多いので最新の研究ではないのだけれど、拡張という考え方を体系的に、時に繰返しながら語っているのは良かった。

 SF作品の種本のような記述がちらほらあるので、そういう意味でもおすすめ。拡張する身体と自我の関係はそのまま攻殻、脳のラベリング機能と塑性は虐殺器官のエージェント機能とその応用のマスキングにつながっている。

 あとは未来のイヴを読んだりフランケンシュタインやわらはロボットを読み直したり、ロボット関係を復習。

 ワーグナーの演奏会があったのでニーベルングの指環を読み直したりもした。金枝篇を髣髴とさせるものがあったので、来月はフレイザーを読んでみたい。

 そんな感じ。

 

 

2021年9月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:5912ページ
ナイス数:87ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly
■ポストマン (ハヤカワ文庫SF)
あらすじどおりに最初の百頁くらいは手紙を受け取ったり届けたりしているが、段々と治安の復旧=野蛮人集団に対するパワーバランスになっていく。安全が確保されないうちは手紙の配達もアメリカの復興もできないわけで、まぁそうなるよな、という感じではあるが案外こういうストレートな作品は少ない。さらに最後の最後でサイボーグがタイマンを張るなんて展開はこれにしかないのではないか。
読了日:09月29日 著者:デイヴィッド ブリン
https://bookmeter.com/books/362633

■生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来 (現代哲学への招待 Great Works)
 人体のサイボーグ化とそれに伴う人間の再定義について具体的な技術の紹介を交えながらまとめた批評本。二十年前の著作というだけあって技術の側が追いついてしまっているが、人間と機械を同列に扱う視点や順々に身体の内側、脳機能まで説明してしまう語り口にはスリルがある。(何とローズ博士のラットからはじまる)
読了日:09月26日 著者:アンディ・クラーク
https://bookmeter.com/books/9767808

■ロボットからの倫理学入門
書名が入門書風なのでロボットをとっかかりにした哲学史のおさらいかな、と思いながら読んでみたらけっこう実践的な内容だった。シンガーの学説にディック的な人間と機械の境界問題と結びつけて功利主義を説明したり、ストローソンの議論から責任の帰属先を検討したりといい感じにポイントを突いてくる。ちょっと変わったところだとロボットが集めた情報の取り扱い、プライバシーのあり方なんてものも分析していて、これも解釈の仕方がディストピアSFのそれに近い。
読了日:09月22日 著者:久木田 水生,神崎 宣次,佐々木 拓
https://bookmeter.com/books/11528680

ワーグナー ニーベルングの指環〈下〉第2日『ジークフリート』・第3日『神々の黄昏』 (オペラ対訳ライブラリー)
なんだかんだで愛の物語。第一夜のジークムントもこの第二夜のジークフリートも愛が物語を廻している。しかし、だからこそ、ハーゲンの媚薬がすべてを裏返してしまう。ジークフリートが薬によって理性と記憶を喪ったことで彼とブリュンヒルデの恋仲は破綻し、怒り狂った彼女によってヴォータンが望んだ神々の繁栄も世界の終末と共に潰える。そもそも神々の奢りとアルベリヒの呪いからはじまった物語ははじまったわけで、両者の破滅は結末ににふさわしい。
読了日:09月21日 著者:高辻 知義
https://bookmeter.com/books/196140

ワーグナー ニーベルングの指環〈上〉序夜『ラインの黄金』・第1日『ヴァルキューレ』 (オペラ対訳ライブラリー)
愛情と憎悪、契約と自由、それぞれを止揚しようとするかのように概念がぶつかり合う。愛を捨て憎悪を指輪に注ぐアルベリヒと妹に愛を見出すジークムント、契約に縛られ神々の黄昏をただ見届けることしかできないヴォータンと彼に反抗し自由意志に則ってジークムントを助けるブリュンヒルデ。二人の追放がやがてジークフリートの自由奔放な性格と運命を生み出すことを思うと、これも止揚の形なのかもしれない。予定調和的なヴォータンの行動といい、それを上書きするようなブリュンヒルデの眠りといい、やはり楽劇には時空を超えた魅力がある。
読了日:09月21日 著者:リヒャルト ワーグナー
https://bookmeter.com/books/372608

フランケンシュタイン (新潮文庫)
何度読んでも壮絶な一冊。一つの読み方を許してくれない。ただ、世間ではフランケンシュタインの怪物の本とされてはいるけれど、テーマはフランケンシュタインと怪物だよなーとか思った。人類史に精通するほどの知性を持ち他者の幸せに共感することができる心優しき怪物と彼の醜さ、親友と兄弟、妻を喪ってもなお怪物に対して責任を感じないフランケンシュタイン。考え一つ違えば和解できそうな両者なのだけれど、フランケンシュタインが怪物の容姿とそこに付随する様々な事件を思い出すことで自体は深刻になっていく。
読了日:09月17日 著者:メアリー シェリ
https://bookmeter.com/books/9034372

未来のイヴ (光文社古典新訳文庫)
何がすごいって不気味の谷や精神に対する科学の優越性といったものに十九世紀的な態度で直に踏み込んでいること。時代的な限界もあって、用語の説明はないのだが、ヒューマニズムを信じるが故の苦悩が生の言葉で語られている。男が女に抱く幻想と人造人間に対するそれと何の違いがあるのだろう?そのように振舞えば機械だろうと何だろうといいじゃないか、むしろ知的な女性を望むのなら人形で十分じゃないか、半世紀後にPKディックがはっきりと問題として設定し、未だにあとを引く”機械の人間”の関係の原石のようのものがここにある。
読了日:09月15日 著者:ヴィリエ ド・リラダン
https://bookmeter.com/books/13125503

■ロボット (岩波文庫)
機械が人間の仕事を奪う、仕事を奪われた人間は生きる気力をなくす、という社会問題を設定するまでは良質なSFなのだが、ロボットが意思を持ってからは頓珍漢。そりゃ機械に自我を与えれば人のように振舞うだろうし労働者のように反抗するのも当然だろう。が、それではプロレタリア文学と変わらない。その上で人間と機械の差を分析しても意味はない。根底には神を模倣することや労働を放棄することへの嫌悪があるのだろうけれど、具体的な分析を怠った原理原則には時代的な制約がかかってしまう。ヒューマニズムの限界を見た気がした。
読了日:09月12日 著者:カレル・チャペック
https://bookmeter.com/books/557309

■宇宙の眼 ハヤカワ文庫SF
アニメやゲームのメタ演出前盛みたいな作品で押井や小島といった名のあるクリエーターもディックなしでは生まれなかっただろーと思わせる一冊。もう中盤で傘がふわふわと浮き出して”眼”と遭遇するあたりから怒号の勢いで、各々がつくった並行宇宙を食らい尽くす。車椅子に縛られていたはずの白人至上主義の老人が立ち上がって天使を召還し、女は蜘蛛に変身して人間を食い散らかし、かと思えば中年子持ちの女はあらゆる不快なものー生殖器、工場、森と風、そこに住まう虫、バルトークのレコードを消してしまう。世界と自我のサイズが同じになった
読了日:09月11日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/8297763

■ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)
読み直してみると絵本のような優しいエピソードばかりでびっくりした(内容は易しくない、というか難解)。真心は感情を硬直させることで幸せを恒久的なものに変質させる話だし、ふたりの距離のカップルは(文字通り)合体しながらも相手の闇をあえて覗こうとしない。ひとりっ子も技術的に前進しながらも結局は親子の物語だったりする。サスペンスは殺意に希望を見出してしまう「行動原理」くらいか。イーガンは科学に対して真摯でありながら人間性を否定しない、人の生に対して肯定的であり続ける珍しい作家だと思う。
読了日:09月11日 著者:グレッグ イーガン
https://bookmeter.com/books/479341

■時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)
ラジオのような盗聴器(のような気がする)、偽造されたマリリンモンロー(のような気がする)、レイグルを盗撮する謎の組織...という風に概ねいつものディック。なんだけど、ユービックのようにガジェットやエスパーがあまり出てこないから、素に読むと統合失調そのもの。集団ストーカーに追いかけられている人はこういう気持ちなんだろうか。あとオチが∀ガンダム
読了日:09月05日 著者:フィリップ・K. ディック
https://bookmeter.com/books/7902373

■ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)
読了日:09月04日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/513493

■火星のタイム・スリップ (ハヤカワ文庫 SF 396)
読了日:09月04日 著者:フィリップ K.ディック
https://bookmeter.com/books/538186

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
共感の欠けた機械と共感の欠けた人間と共感の欠けた動物の三つ巴。心がないからといって規則に乗っ取って生きるわけでもなく、皆はただただ身勝手に動き回るのみ。地獄のような世界。
読了日:09月02日 著者:フィリップ・K・ディック
https://bookmeter.com/books/577666

■われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)
時代遅れだろうが何だろうが物語に「原則」を持ち込んだ功績と親しみやすい文体の価値は変わらない。これぞ古典。
読了日:09月01日 著者:アイザック・アシモフ
https://bookmeter.com/books/578036


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