2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

ろくがつのまとめ

 週一で通っている本屋の目の前で殺人事件がおこった。現場は西大寺駅と奈良ファミリーの間。あの歩道を渡りきれば近鉄百貨店だ、と想像できるくらいに通いなれた場所。高校生の頃はあの辺でビラ配りをしたこともあった。事件の前日には史料の買出しのために同じ時間帯に建物にいて、同じ交差点を渡った。展望台に行った事がないから上ってみたけど、暑さに辟易してすぐに建物に引き返したことも覚えている。まさかあんなことになるとは思わなかったけれど、同時に”もしかしたら”をどうしても考えてしまう。何もしなくてもこういう事は起こりうるのだ。政治については語らないことにしているからこれ以上深くは触れないが、戒めを込めてメモしておく。

 

 というわけで六月に読んだ本。平家物語と批評を漁っていた。琵琶法師の口承とそれに伴う物語生成が面白かったのでその周辺の評に当たり、あと琵琶法師といえばこれも、ということで小泉八雲の怪談(耳なし芳一)や今昔物語や雨月物語を読んだ。

 雨月物語には保元の乱で敗れた崇徳天皇の恨み言が孟子を楯にしてつらつら恨み言を語る小噺も収録されているが、平家から続けて手に取る事で同時代的な読み方が可能になる。アベンジャーズではないが、シェアワールドのような続け読みもたまには楽しい。

 雨月、宇治拾遺ときたので次は稲生物怪録遠野物語を読む予定。そのあとは朝霧の巫女かなぁ。記紀の大筋が頭の中に残っているうち読んでおきたい。

 そんな感じ。

2022年6月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:3879ページ
ナイス数:91ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2022/6
吉村昭平家物語 (講談社文庫)
読了日:06月01日 著者:吉村 昭
https://bookmeter.com/books/397709

平家物語を読む: 古典文学の世界 (岩波ジュニア新書)
登場人物十人を通して平家物語を概観する、というありがちな本だが構成が秀逸でその辺の縮訳やキャラクターブックよりも理解が進む。特に忠盛の殿上闇討からはじめて壇ノ浦の知盛で終える構成が利いていて、この大著の見通しを良くしている。本来なら清盛や重盛からはじめるべきなのだろうが、中途で退場してしまう人間に焦点を当てすぎれば一の谷以後はどうしても尻すぼみになってしまうし、この二人を全体のまとめやくにしているのは優れた判断だろう。
読了日:06月01日 著者:永積 安明
https://bookmeter.com/books/447472

平家物語―「語り」のテクスト (ちくま新書)
相手が平家物語なのでもちろん文献学がアプローチの基本だけど、発信者の欲望/受信者の反応といったメディア論的なところまで突っ込んでいて刺激的だった。滅んでいく平家を題材にとっているのだから源平交替史観に依ったイデオロギー的な偏りは避けられない。これはもう現代語訳でもわかるようなことなのだが、著者は編纂課程で編みこまれた様々な声が源平交替史観を超える価値を作品に与えていると語る。例えば棟梁でありながら最期まで家族の安否を気遣う父親として語られる宗盛、維盛、東大寺を焼きながら穢れを流すような役割を引き受ける重衡
読了日:06月02日 著者:兵藤 裕己
https://bookmeter.com/books/373229

■保元・平治物語 (古典文学全集)
平家物語の前日譚なのにまったく世に出回っていない保元・平治物語の現代語訳。児童書だと見縊るなかれ、語り口の軽さに応じて物語の筋も勢力もこれ以上ないくらいにわかりやすい。何より平家物語の時系列、人間関係を物語を通して膨らませることができる。(歴史の教科書を読めばわかることではあるけれど)。良書。
読了日:06月04日 著者:
https://bookmeter.com/books/60667

義経記 (古典文学全集)
義経、弁慶の落ちぶれ振りといい静御前への仕打ちといい、ここまで陰鬱だと平家物語に匹敵する悲劇だと思う。
読了日:06月08日 著者:
https://bookmeter.com/books/415827

■古典文学全集 (12)
太平記大日本帝国及び皇国史観の起源ここにあり、という風格がある。後醍醐天皇七生報国切腹、令和からすれば”違和感”であり、真に受けるのは恥ずかしいとされる記述がてんこ盛りなのだけれど、そういう隔世感も今となっては貴重だろう。本書は児童向けに書かれていて原本とは異なるが、その語り口が皮肉にも尋常小学校の教科書ようなスタイルを伴う結果になっている。楠木正成らの武勇がかつてどのように読まれていたか、半世紀前にタイムスリップしたかのような読書感を与えてくれる一冊。
読了日:06月11日 著者:
https://bookmeter.com/books/310557

■古典文学全集 (3) 竹取・落窪物語
中世恋物語集。もう定番中の定番とされている二編だから今更レビューなど書きようがない、というわけではなく今読んでも面白い。竹取物語は竹や月のSFであるまえに女に付きまとい手紙攻めをする男の物語であるし、落窪物語にはかぼちゃの馬車の代わりに結婚による出世と継母への報復が登場する。いつの時代もしつこく女に迫る男の気持ちの悪さやいじめへの恨みつらみというものは変わらない。欧州の古典、特にグリム童話などは因果応報で片付けてしまうからこのような物語のつくりは珍しい。本書は児童向けだが、むしろカンタベリー物語に近いので
読了日:06月17日 著者:
https://bookmeter.com/books/415825

■古典文学全集 (20) 雨月・春雨物語
「怪談」といえば江戸の小泉八雲だが、大阪には上田秋成がいる。というわけで雨月物語孟子易姓革命に則り源平への恨みつらみを語るあの世の崇徳天皇にはじまり、出張中から帰った夫を幽霊屋敷で出迎える女の幽霊、愛する稚児を亡くし、その苦しみから食人の道に入った坊主、蛇に見初められ変化した女の姿でどこまでも追いかけられる伊達男……といった様々な幽霊が語られる。19世紀の怪談を待つまでもなく近代幽霊のモチーフ、物語構成はここで出来上がっているとい言っていい。
読了日:06月17日 著者:
https://bookmeter.com/books/463640

■今昔物語 (昭和41年) (古典文学全集〈8〉)
姉妹編宇治拾遺との差別化のためか、よりオカルトじみた逸話を多く収録している。巨大なむかでと戦う大蛇に地すべりを預言者の婆、迷い込んだ山林で馬に変えられてしまう男たち、例えるなら特撮の連続活劇みたいなもので古典なのにほっこりしてしまった。同じ時期に書かれたデカメロンカンタベリーも猥褻と幻想によって成り立っていたわけで、人の想像力は洋の東西を超えるのだなぁ、と感心した。
読了日:06月20日 著者:武部 本一郎
https://bookmeter.com/books/981874

宇治拾遺物語 (古典文学全集)
仏教説話集だが逸話の中核ははオカルトなのでモチーフのすごさは今昔とあまり変わらない。猟師に不殺生戒を説くために”鹿”に姿を変えて討たれようとする坊主に女が唱えた念仏の恩恵を受けた蛇が恩を返そうと家に忍び寄る”蛇”。今の価値観で読めば説教臭いし古臭いのだが、幻想的な逸話の数々は押し付けがましい価値観を超えてエンターテイメントを提供してくれる。私は仏絵師良秀が好きだった。自分の家が燃える様子を観察し、慌てふためく群集を尻目に次の絵の参考にする、と言い切る様はまるで怪奇大
読了日:06月20日 著者:
https://bookmeter.com/books/310532

■桜 ――文豪怪談ライバルズ! (ちくま文庫)
梶尾、坂口、この二人には桜とくれば両者がいなくてははじまらない、という風格すらある。赤江も同じ幻想文学路線の作品で味わいがあった。石川淳とか中川健次にはそうきたか、という驚きはあるのだけれど自分としてはあまり好みではなかったかな。酸いも甘いもあって全体でバランスをとっているフルコースのようなアンソロ。
読了日:06月23日 著者:
https://bookmeter.com/books/19109662

■刀 ――文豪怪談ライバルズ! (ちくま文庫)
妖刀という言葉がすでにあることもあって、今回は特にモチーフとの相性が良い。女が憑いた女切り、刀鍛冶が憑いたにっかり、同じく鍛冶の因縁でも騒ぐ刀はキャラクターチックで同じ憑き物でも作家による作風の違いを楽しむ事ができる。(個人的にはにっかりの方が好き)。妖刀記も鍛冶が主題だが、こちらは昭和が舞台で物語もサイコサスペンス風に書かれている。刀というモチーフが作家に与えてきた想像力、その幅の広さが印象に残る作品集だった。あと今回の泉鏡花はかなり歯ごたえがある。
読了日:06月26日 著者:
https://bookmeter.com/books/18268174

■鬼 ――文豪怪談ライバルズ! (ちくま文庫)
円地による今昔物語現代語訳と京極の鬼情を並置したおかげで青頭巾に対して妙な角度で理解が深まってしまった。他にも今昔物語をベースにした短編が数作収録されていて、読替として一本筋が通っている。こういう作為のある構成ができるのはアンソロならではだろう。鬼の末裔は中世日本に迷い込んだスペイン人を鬼に見立てた作品で、幻想文学の中にひとつだけ歴史物が迷い込んだようでおかしかった。
読了日:06月26日 著者:
https://bookmeter.com/books/18598611


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