2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

シンゴジラ

 16年現在の災害対策映画。東日本大震災の報道映像を引用した破壊描写、が印象的だ。崩落する海底トンネル、レジャーボートを市街に吐き出しながら逆流する川、区画毎に停電する町々、闇夜の渋滞に取り残された市民たち、火災旋風に巻き上げられる車列。東日本大震災の引用自体はインデペンデンス・デイでも取り入れられていたが、生活感の演出はこの作品が一歩先んじている。倒壊するマンションの中に取り残された家族、取り残されて街を徘徊する老人たちは東京が人間の住む街であることを犠牲をもって証明した。

(意外だったのが、エヴァでは引用にとどまっていた庵野実相寺風レイアウトが状況の混乱を巧みに演出していていたことだ。反射鏡や道路標識に焦点が合わされる中でその前後を顔や背中だけを見せて走り抜ける群衆、歩道橋に足だけを見せて避難する東京都民。あえてベースラインを崩した避難映像がむき出しになった都市構造を的確に捉えている)

  作業着を演出的に着用し、混沌とした状況の中で会議場をぐるぐると回りつづけて書類仕事に振り回される(カット割りだけは勇ましい)役人たちと彼らの手となり足となり筋肉ともなる(長回し多用の特撮的)自衛隊の対比的な描写も震災当時の状況を見事に再現している。

 こういった人間の臭いのする東京が官民もろとも焼き払われたという意味では、この作品は冷戦構造に翻弄される日本の地政学的立ち位置の比喩に終止したゴジラ(84)よりも東京大空襲の再現を目指したオリジナルのゴジラ(54)に近い。いや、近いだけではなく震災を比喩し、役人視点で段階的に再軍備を描いているという点では、これまでになかったタイプの怪獣映画だとも言えるだろう。

 日本を破壊することで逆説的に日本の繁栄の程度を示し続けてきた怪獣が、東京を破壊することでこの国の異様な復元性能を示し、戦後の終わり方をも予言した。非常に刺激的で、示唆に富んだ作品だ。

 

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北欧神話と伝説 (講談社学術文庫)

 エッダとその周辺の伝説を集めたゲルマンアンソロ。神々の住処の建築費の支払いを迫る巨人と彼らから何とか逃げようとする神ヴォータン、その巨人を槌(と鉄手袋)で殴り追い落とす息子のトール、彼の力に幻覚によって勝利するロキ、彼らの世界を支えるユグドラシルの木と根元で世界の運命を見つめるノルン。最後には世界もろとも炎で燃え尽きてしまうところはナチズムの破滅願望に通じるものがある。ギリシア神話と同じくらいに汗臭いが、妙に近代っぽさも感じられる不思議な神話だ。

 注目すべきはジークフリート伝説の原型であるウォルスング家の物語だろう。多くの書物ジークフリート(シグルド)に焦点を絞っている中、本書は彼に至る流れを塩から発掘された神と巨人ユミルの間に生まれたオーディン、シグムントとシグルドの近親相姦とその結末までをひとつの流れを見渡せるようになっている。

 

北欧神話と伝説 (講談社学術文庫)

北欧神話と伝説 (講談社学術文庫)

 

 

 

図解 北欧神話 (F-Files No.010)

  物語によってキャラがぶれる北欧神話の登場人物を要領よくひとつにまとめている。キャラクター図鑑感覚で読めるので、マイティ・ソー等々の元ネタを探すにはもってこいの本。巻末にしっかりとした参考文献一覧(ただし邦訳)も掲載されており、読書案内としても使える。ただ、様々な文献の内容が人物像を構成するために一項目に収められているため、エッダやその他伝説本に当ってから目にすると混乱する。(オーディンとジグムントの関係とか)。神話自体がオリジナルを失った二次創作の集合体のようなものだから当然なのだが、そのあたり気をつけて読む必要がある。

 

図解 北欧神話 (F-Files No.010)

図解 北欧神話 (F-Files No.010)

 

 

火星の笛吹き (徳間文庫)

 40年代に向こうのSF雑誌で発表されたブラッドベリの初期作品を集めた短編集。まだ雑誌への売込み段階だったこともあってか、一発ネタ仕掛けの作品が多い。

 内容は宇宙船の外装に張り付いて地球を目指すおっさん、船内でとつぜん襲ってきたホームシックを船内生活をアメリカ様式に読替えて対抗しようとする飛行士、火星に記された(風化しない)女の足跡を巡ってけんかする二人の男、火星でこき使われていた笛吹きが音楽で星を崩壊させる話等々。

 火星年代記や黒いカーニバルのように形容詞の洪水マジックは使われていないため、いつものブラッドベリを期待すると落胆するかもしれない。ただし、華氏451の元祖である焚書官に本を暗記して対抗する司書の話や苛烈する軍拡競争を兵器の玩具化で軟化してしまう作品など、後々の作品に明らかに影響を与えているものも収録されている。若き日の彼を追うつもりなら手にとるべきだと思う。

p.19,39,40,81,209,229,239,262,266,290

 

火星の笛吹き (徳間文庫)

火星の笛吹き (徳間文庫)

 

 

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

 五感では捉えがたい火星人との触れ合い、彼らの住む迷路のような都市が幻想的で美しい作品。地球人による旧都市の発見と破壊を防ごうと宇宙飛行士の身体を乗っ取り自滅させようとする先住火星人、次元差によって透過して見える身体の向こうに星空を発見するふたつの星の人々、火星への植林中に絶命し自然の中に消える男。火星人がなぜ半透明なのか、地球の文明を火星に植え付けてはならない理由とは何なのか、クラークなら教科書的に説明しそうなところは一切語らず、ただ星空や廃墟の情景描写によって根拠を示そうとしているあたりが非常にブラッドベリ的で心地よい。(文学趣味的であることは否めないが)

 特に、そういったイメージが地球壊滅をきっかけに火星人(おそらくオーバーロード、この作品はブラッドベリ幼年期の終わりでもある)との同化へと切り替わる部分が批評を臭わせつつもしっかり幻想的なのは流石だ。特に、次元の階段を昇ったあとも、なお異星でホームドラマを演じ続ける家族からは地球の土に根付いた力強さを感じた。

 いまやFalloutといったゲームで定番となっている廃墟の中で生き続ける家具たちやも、ブラッドベリの手にかかれば地球の文明が生きていた時代と結び付けられ郷愁を呼び、炎は彼らとの交代を誇示するように燃え盛る。恐ろしくも美しいという言葉の似合う素晴らしい作品だった。

memo

p.11,61,103,126,140,222,246,275,313

 

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

 

 

少女終末旅行 2 (BUNCH COMICS)

 

少女終末旅行 2 (BUNCH COMICS)

少女終末旅行 2 (BUNCH COMICS)

 

  漫画にしては珍しくアクション一切のアクションの存在しない心地よい破滅もの。空き缶に水を貯める時のぽつぽつという音に自然の歓声を聞き、またその反動で廃墟に漂う静寂に気づき、廃墟の中で衣食住に困らない幸福な家庭を想像(ただし自分たちの現状に絶望はしない)する等々、相変わらず終末と日常系のミックス具合が絶妙ですばらしい。「もっと絶望と仲良くなろうよ」は死ぬに死ねず、かといって幸せにもなれない「心地よい破滅」の状況を的確に表現した名言。

インデペンデンス・デイ リサージェンス

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 宇宙からの独立を宣言した米軍に復讐を誓ったエイリアンと近未来化した米軍の戦い。

 エメリッヒらしいスケール感に溢れた作品だ。前作、円盤の影に覆い隠された月は月面をごっそりと円盤の胴体によって削られ、地球は大陸ごとごっそり包まれる。ワシントンやロサンゼルスの上空にただ浮いていた時とは比べ物にならないほどに遠近感が狂っている。エッフェル塔がただの外灯にし見えてしまうほどに巨大で、大気で地上からは円盤の全体像を把握できない光景がただただ恐ろしい。

 重力異常による吸い上げも面白い。都市が宙へと引き寄せられ、鉄の津波となって地上へと次々と押し寄せる。ビルは瓦解して鉄の水となり、浮力を持った航空機はその上を風船のように滑り降りる。前作のD.Cを包み込む炎ほどのインパクトはないが、それでも近代化によって生まれた様々なものが平凡な物理現象によって一瞬で灰燼と化すが印象的だ。

 我らが米軍はレーザー兵器を常備するほどに近代化しているという話を聞いて不安だったが、前作でF-18をつかって蟻の行進を演出してみせたエメリッヒの前では無用の心配。戦闘機は垂直離陸して各自勝手に動物のように離陸し動きまわり、ムカデのように円盤の内部へと列をなして入り込む。

 全体的に粗雑で現実からは程遠い光景が連続する作品だが、自然界の群れのパターンや離合集散の快楽といったものを容赦なくぶちまける様子にはただただ圧倒された。映画館の膨大な情報を投射可能なスクリーン、広大な音場を表現可能なスピーカーを最大限に利用した素晴らしい作品だ。