2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

2024年9月の読書メーター

さすらいの麻婆豆腐の感想
 題名通りに料理修行をしながら中国を旅し日本で落ち着くまでの話。四川料理で有名な方なので戦時中に難民としてやってきたのか、と思っていたがさにあらず。東から西へと横断し台湾を経由して日本に達している。しかも四川料理専門というわけではなく香港では魚介を捌いて広東料理を身につけており、相当な勉強家でもあったようだ。

 「わたしのもっているもの全部教えます。教えたらわたしの頭無になるでしょ。そしたらまた新しい料理考えて頭に入れます。だからわたしの頭いつも新しい。これ、わたしの丈夫な原因よ、本当よ。」という言葉はどうやら本当のようで、だからこそ「私の中華料理少しウソある。でもそれいいウソ。美味しいウソ」と言えたのだろう。ウソはウソでも騙すためのウソではなく、美味しい料理をつくるための”ウソ”。

 そして有名な”ウソ”の言葉にも前があって、「四川料理で有名な雲白肉。これ、冷たい料理で真ん中にキュウリやセロリのうす切りを入れるのは嘘です。でもわたし考えました。野菜の青いのや赤いの食べると人間の体にとてもいいです。だからこれ、いい嘘だと思います。」と具体的な改良点が示されている。真偽の問題と観れば観念的だが要は作る側と食べる側のコミュニケーションが如何に重要なのか、ということ。料理とは食べる人間がいてはじめて成立するということを思い知らされた。

 しかし、生まれが1919年ということもあり中国近代史の真っ只中を生きており書かれていないことが相当あることも想像に難くない。冒頭の行程地図にも重慶(1945)、武漢(1946)、南京(1947)、上海(1947)と見知った地名が載っている。重慶云々から七年、南京云々から十年、それに日中戦争国共内戦が加わり、出国後には文化大革命がはじまる。実際、故郷に残した家族は苦労したそうだ。
 なお調理場の昇進は日本と似ていて皿洗い→野菜→点心→餃子→仕込み→乾物戻し→包丁→鍋の順らしい。点心と乾物戻しの工程は日本と違うような記憶があるが実際はどうなのだろう。

読了日:08月27日 著者:陳 建民


父の仕事を継ぐ 自分の味をつくる (岩波ジュニア新書 541)父の仕事を継ぐ 自分の味をつくる (岩波ジュニア新書 541)の感想
 ”中華料理”の産みの親であり四川飯店の創業者である父陳健民を子陳健一が乗り越えるまでのドキュメント。父に対する複雑な思い、自我の確立、仕事の向き合い方など思春期らしい題材で珍しく岩波”ジュニア”らしい内容だった。調理場での役割分担(階級)を無視していきなり前菜を担当させられたり、”陳健民”の味じゃないと皮肉られたりとそれなりの苦労があったそうな。

 恵まれた悩みではあるが、確かにあの閉鎖された空間の濃厚な人間関係の中で過度に優遇すればいじめに発展するだろうし、気を使わせる側も胃が痛くなる思いだったろう。自分も下ごしらえで息をきらせている間に後輩がいきなり前菜や鍋を担当したらいらつくと思う。
 ただ、そこは空気が読める人で自分から洗い場に飛び込み、七年かけて鍋を振れる地位にまでつめたらしい。本書でも何度も基礎の重要性を説いたり調理工程(豆腐の湯で加減とか)を事細かに説明していて料理と人に対しては常に誠実であろうとしている。(この辺りの料理への情熱や人との関わりを重視する姿勢は人たらしで研究熱心だった親父さんと似ているね。)

 そして自我の確立させたのは料理の鉄人。父のきょうの料理が麻婆豆腐を広めたとすれば、鉄人は料理を娯楽化したと言っていいだろう。この番組に出たことで食材を工夫しオリジナルの料理を生み出す技術を身につけ、また自信もついたのだという。言葉よりも技術と向き合い、自分の職業に自信を持とうとするのが実に料理人らしく興味深い。

 しかし、よく食べる。第一章冒頭から「おっ、なんだ! 姉貴なに作ってるんだ?」「酸辣湯でも作ろうかと思って。食べるでしょ?」「へいへーい!」と滅茶苦茶に飛ばす(本書は初版2006年なので酸辣湯は普及していないはず)。そのあとも豆板醤胡を効かせた野菜炒め、麻入り炒飯、きょうの料理を見てつくったイカの塩辛炒め(失敗)、マカロニグラタン、そして麻婆豆腐等々が愛情を込めて語られている。親子揃って食で身体を壊した節があるが、それでも満足していたのではないだろうか。

読了日:08月27日 著者:陳 建一


道教の世界:宇宙の仕組みと不老不死 (「知の再発見」双書)道教の世界:宇宙の仕組みと不老不死 (「知の再発見」双書)の感想
 八卦太極図で陰陽の在り方を示してから修真図(人体図)諸々で天体と人体の関連を説明してるあたりに図版の強さを感じる。陰陽五行説くらいは学校で習うけど、天と人の関わりを位置情報を含めて知るかどうかで全然違う。気功の気を身体に流すという発想もこれを見ておくと理解が進む。 養生のための水芝(植物図鑑)や武当山もよかった。
読了日:09月11日 著者:ヴァンサン・ゴーセール,カロリーヌ・ジス


シリーズ道教の世界3 老子神化道教の哲学 道教の哲学シリーズ道教の世界3 老子神化道教の哲学 道教の哲学の感想
 老子道教に取り入れられ神格化された過程を前漢から魏晋南北朝時代までの文献を探りながら解明した本。司馬遷史記までそれほどでもなかった老子への敬意が後漢老子銘で一点し不老長寿で天を操る(惑星の軌道を操る)存在になってしまう。実は神仙思想との合流でしかないのだが、これが老子の是以聖人、後其身而身先、外其身而身存への注釈から生まれたというのだから面白い。”無為自然”で生きればよい、と言っているのに、そのように生きれば超人的能力が得られるという教えに転化してしまっている。

 老子に親しんだ身としては唖然とする他ないが、このアクロバティックな解釈が後の太平道五斗米道にも及んだと思うと面白くもある。三国志演義諸葛亮も読んだんだろうなぁ……。他にも中国を脱した老子が釈迦の師匠になったと書いた老子化胡経(敦煌で発掘!)などの引用が面白い。

読了日:09月11日 著者:菊地 章太