2014年度読書鑑賞ベスト10
正月三日に去年のおさらい読書会を開催するためのまとめです。
(1)
スマプリは兎に角、内面表現がうまい。夏休みの宿題をすべきか、せっかくの夏休みを学校生活の延長として過ごしても良いのか、そもそも宿題の意味とは何か、等々を脚本と映像を見事にリンクさせながら描き出している。中でも生徒会長となった青木れいかの悩みを描いた「笑顔のひみつ!みゆきと本当のウルトラハッピー!!」は象徴、展開部のテンポの良さは目を見張るものがある。暗闇に閉ざされたサーカス小屋、そこへ頼りなくふわふわと舞い上がっていく風船と未練を象徴するように友達を映し出すテレビ、揺れる空中ブランコは8時代に放送していたとは思えないほど不気味。不穏表現の一部だったスポットライトを用いた敵探し、盾を利用した剣術、悩みを映し出し、強化する存在だった鏡を打ち砕いてのラストの爽快感。キャラクターへの思い入れもあるかもしれないが、映像としてもすばらしいものだと思う。鑑賞日:10月28日 監督:大塚隆史
(2)
ゆゆ式は宗教体験として語られることが多いけど、よく見れば二重定義とか語音転換とか音韻とか修辞技法満載なのでまじめに解析してみるとかなり面白い。 宗教的に見えるのは作者および女子高生が技法を無意識に、奇跡的、神秘的に使いこなしているからなんだろう。いやそれもまた奇跡であり神秘なんだから信仰に値するものなんだけど。やっぱりゆゆ式は真実だよ。
読了日:6月28日 著者:三上小又
(3)
エロと日常の間を渡るための絶妙のバランス感覚
鑑賞日:11月25日 監督:藤原佳幸
(4)
1920年の精神病院物語。ふにゃふにゃに描かれた村や落書きだらけの斜めに歪んだ建築物、そこに唯一現実感を残すように佇むカリガリ博士の見世物小屋。パリ講和に打ちのめされ胡蝶の夢に逃げ込んだドイツ人の頭の中を覗いてるみたいだった。 権威や厭世観からの逃避行物語と印象主義風のセットを入れ子構造の世界観で噛み合わせてあるのが良い、興奮する。物語的にセットの意味を説明できてる稀有な作品なのに、表現主義やら歴史的な文脈で紹介するばかりなのはちょっと勿体無いと思う。
淀川長治解説版のサントラが批判されてるが、自分は不安を誘い、さっぽろももこを思わせるあのピアノの旋律はあの作品の本質を突いていると思う。ヴォイツェックやルルだって恐怖を恐怖として、不信を不信として表現せず混乱を誘うことに狂気を見出したのだから。
先駆的であり、ドイツ表現主義というあの不安に満ちた時代にしか通用しなかったであろう表現方法を完璧に世界観に反映している素晴らしい作品だった。
(5)
海外SFをベースに練りに練って詰めに詰め込んだ設定、意図的な場面転換のわかりにくさとか通じてないようでちゃんと成立している会話とか妙なところで昔の早川青背を思い出させる作品だった。 辺獄は精神的な快/不快を基準に構築されたあの世、三文未来は人格やら性別が遺伝子レベルで操作可能になった世界を日常生活の中に描ききっている所、パンサラッサはカンブリア紀を舞台に彼の画風で旧約聖書をやろうって試みが面白い。SF畑にいてマンガ畑にはあまりいないタイプなので今後どういうものを書いていくのか非常に気になる。
読了日:6月6日 著者:庄司創
(6)
2010" ループゲーだと聞いて開いてみればジキルとハイドだった。視点を次々と変えることで明らかになる事実やそれに関係して解釈が変わっていく心理描写は見事という他ない。また、ベルジュラック等々の文学からの引用の他、会話の中に時折現れるニーチェやクザーヌスがいいスパイスになっていた。傑作。
クリア日:09月07日
(7)
昭和四十年のフランケンシュタインの怪物、巨大化を止められない人造人間の悲劇。この路線の作品はシェリー以来延々と作られてきたが、これほど原作を意識して発展させた作品は珍しい。独に生まれ遣独潜水艦作戦によって日本へ運び出され、米軍の原爆投下によって洗礼を受け戦後自由主義の中でふんぞり返るジャーナリズムのせいで山に追いやられる……という戦前戦後の野蛮を盛り込んだ設定は、創造主の野蛮も描いた原作のスタイルを見事に引き継いでいる。さらばラバウル、ゴジラ以来ずっと大東亜戦争を回想し続けてきた東宝特撮の集大成だ
印象的だったのは怪物が山に篭って自衛隊をやり過ごそうとする場面。普段は勇ましく聞こえる自衛隊マーチが、この映画では冤罪で追われる身となった怪物の悲愴を見事に演出している。ひねくれてはいるが伊福部節ともいわれる楽曲を逆説的に用いている所が非常に素晴らしい。
(8)
戦場にかける橋 HDデジタル・リマスター版 ブルーレイ・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
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クワイ側橋建設物語。収容所から脱走し橋の爆破へと舞い戻るガチガチの米国人シアーズことホールデン、本国で植えつけられた階級主義(将校の労働拒否と自主的な橋の建設)とナショナリズム(シアーズ率いる工作隊への協力)の間で揺れ動くアレック・ギネス演じるニコルソン大佐。ジョンブル社会を戯画化したような脚本をこのキャスティングで映画化できたなんて奇跡としか言い様がない。タイの自然美を最大限に生かしたカメラやアクションも素晴らしかった。デヴィッドリーンのひねくれた性格が生んだ傑作
鑑賞日:06月20日 監督:デビッド・リーン
The Bridge on the River Kwai Soundtrack - YouTube
(9)
自分にはどこか維新以後の風景に安心しているところがあって、ここにきて楠木正成と総力戦をはじめるとは思わず驚いた。物語が盛り上がる最中にあっても、ちゃんとコマさんを(精神世界へ逃がさず)死に場所を与えた辺はすごくうまい。乱裁道宗を舐めきっている巫女委員はもはや癒し。
読了日:6月2日 著者:宇河弘樹
(10)
僵屍を味方につけた明道士の登場で作品の立ち位置が大きく変わった作品。リチャード・ン演じる明道士と大寶、小寶の兄弟愛が涙を誘う。 他にもラム・チェインやビリー・ラウが主役格になったことで人物の動きも張りのあるものになっている。僵屍の性質が大きく変化したため評価がわかれている作品だが、自分は僵屍シリーズ中でいちばん好きな作品だ。