2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

平家11

 壇ノ浦直前のやつを見直していたらちょっと映画らしい表現があったのでメモ。

 徳子が後白河法皇への書状を拒否→安徳天皇を守ると語る場面。座りなおしを使った典型的な高低差(上下関係)の表現だけど感情の矛先は切り返しの相手ではなく徳子自身なのがポイント。本来なら資盛に対する優越を表すショットが置き畳(権威)から立って語り(母性)に着地する形になっている。

 背が高いこともあって徳子は始終資盛に対し優越的で男性優位のような誤謬に陥っていないのも良し。

 みんな大好きイマジナリーライン越え。戦争からの逃避が仏道に着地するという流れのシーンでショットを裏返したらばっと仏の群れが待ち構えている。技巧そのものは驚くほどのものではないけれど、画が綺麗なだけあってグッと心にくるものがある。欲を言えば戦争から逃げたい一辺倒ではなく、戦を望む人間に言及しつつラインを越えれてほしかった。そうすればもっと奥行きがでたのではないか。

しがつのまとめ

 ころなだったのでそこそこの冊数をこなすことができた。いや、冗談ではなくほんとうに。四月の半ば頃に妹が発症、翌日に弟にも症状が出た。保健所からの指示で買い物は三日に一度に限り、外出も自粛。発症から十日、症状が治まってからも最低三日は外出するな、とのことだったので二週間ほど家からでなかったことになる。

 もともと自ら外出するような性格ではないのだけれど、流石に一週間以上ともなると圧迫を感じる。雨が降っているわけでも台風の最中でもないのに身体が膨らんだような気分、症状がひたすら続いた。精神的にも肉体的にもよろしくない。待機期間が終わったあと、あれほど外出できることをありがたく思ったのははじめてだ。

 そんなわけで先月は終末特集を組んだ。ひたすら核が落ちたり地球が裂けたり廃墟を巡るような物語。渚にてやポストマンといった有名どころは押さえたので、今回は北斗の拳人類は衰退しましたといった、ちょっと隅をつつくようなタイトルを選択。

 どちらもストレートな終末ものではないがジャンルを越境する楽しみがある。特に人類衰退は終わった世界から人類史を振り返る、という観点を採用していて、シマックの『都市』や『大地は永遠に』のような趣がある。最近だとジャレッドダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』だろうか。人類史を振り返りつつ、終末後の人々が過去の文化に触れたらどのような反応をするだろうか?そんな妄想の詰まった楽しい読書だった。

 他にも物体Xやゼイリブといったカーペンターの映画も鑑賞。物体Xはパンデミック下の混乱を凝縮したような作品だけに、臨場感は他では味わう事のできないものだった。誰が菌を持っているのか、一週間以内に移されるのではないか……そういった疑問が常に付きまとう。PCR検査の結果を待っている間の緊張感が作中の血液検査に通じることなどもうないだろう。

 ……振り返ってみるとけっこう楽しかったな。あまりに暇なときは復活の日をぺらぺらめくってたこともあった。(荒廃した都市を東京湾から眺める場面が好き)。精神的にも肉体的にもただ疲れるのでもう一度経験したいとは思わないけれど。

 そんな感じ。手洗いうがいはしましょう。


www.youtube.com

2022年4月の読書メーター
読んだ本の数:23冊
読んだページ数:7675ページ
ナイス数:148ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2022/4
北斗の拳 完全版 (1) (BIG COMICS SPECIAL)
199X年
世界は
核の炎に
包まれた!!
(キノコ雲)

海は
枯れ
地は
裂け

あらゆる
生命体が
絶滅したかのように
みえた
....…..............

だが...

人類は
死滅して
いなかった!!
(バイクに跨り斧を構えた筋骨隆々のモヒカン集団)

これを超える導入を未だ読んだことがない。画力、コマ割り、台詞回し、改行、すべてにおいて完璧。
読了日:04月01日 著者:武論尊
https://bookmeter.com/books/486311

北斗の拳 完全版 (2) (BIG COMICS SPECIAL)
悪人を強請って食料を調達するところまでは「モヒカン」だけど、そこで女装しているのがレイらしい。(らしい?)。北斗はこの手のフックのし込みがほんとうにうまいな。
読了日:04月01日 著者:武論尊
https://bookmeter.com/books/486312

北斗の拳 完全版 (3) (BIG COMICS SPECIAL)
「おい、おまえ!おれの名をいってみろ!!」「そうか!!おまえおれの胸の傷を見ても誰かわからねぇのか?もう一度だけチャンスをやろう!おれの名をいってみろ!!」「ほ~~~、それではおれの名をいってみろ!!」
名前を言ってみろ、ただそれだけでこのバリエーション。「今は悪魔がほほえむ時代なんだ!!」もいい。シンを扇動した、という物語上の仕掛けも重要ではあるけれど、関係性以上に演出がジャギを印象づけている。すべてが名言。
読了日:04月01日 著者:武論尊
https://bookmeter.com/books/486313

北斗の拳 完全版 (4) (BIG COMICS SPECIAL)
「あ~~~聞こえんなぁ!!」声も態度も身体もデカいウイグル獄長。ライガフウガのコンビも金剛力士像的な筋肉感がある。四巻の時点でモヒカン、レイ、ジャギの主要人物が登場したが、どれも印象的で優劣をつけることができない。「強さ」ではなく画力と台詞で魅せているのはさすがだ。ただラオウよ、勝負の前に死兆星チェックはやめろ?
読了日:04月01日 著者:武論尊
https://bookmeter.com/books/486314

北斗の拳 完全版 (5) (BIG COMICS SPECIAL)
銀貨ではなく拳を振るうタイプの妖星ユダ。死に際までジェンダーを越えた怪しさが漂う人だけに原哲夫の画力が際立つ。特に冒頭の紅を差してから見開きで鏡を見るまでの画は強烈だ。目立つ台詞はないけど、画で人を魅了しているという意味では珍しいキャラクターだと思う。
読了日:04月03日 著者:武論尊
https://bookmeter.com/books/486315

北斗の拳 完全版 (6) (BIG COMICS SPECIAL)
「退かぬ 媚びぬ 省みぬ」天翔十字鳳前後からこれまでで最も強烈な画がひたすら続く。サウザーの勢いのある性格を推すように、陰影も二段から三段とより濃く、塗りつぶすようになっていた。死の間際にそれまでキアスクーロ状態だったサウザーの顔から影が消える演出といい、情報量のコントロールがうまい。デッサン自体もラオウが復帰したあたりから写実的になっているし、何かあったのだろうか。
読了日:04月03日 著者:武論尊
https://bookmeter.com/books/486316

北斗の拳 完全版 (7) (ビッグコミックススペシャル)
リュウガ、ジュウザ、フウガ、インターミッション。五車星の考え方は面白いけどラオウの前座にしては遠回りすぎる。
読了日:04月03日 著者:武論尊,原 哲夫
https://bookmeter.com/books/486317

北斗の拳 完全版 (8) (BIG COMICS SPECIAL)
天命と女にすがっていたラオウがユリアを手にかけることで共苦し(隣人)愛に目覚めるという皮肉。彼はどちらかといえば悪人なのだけれど、自分の身を切り裂いても勝とうとする姿勢だけは祝福すべきなのかもしれない。あと最後の最後に母殺しに着地するとは思わなかった。西洋と東洋の中道を行くような不思議な作品だ。このあと賛否両論の第二部が続く...のだけれど、しばらくは読まないかな。
読了日:04月03日 著者:武論尊
https://bookmeter.com/books/486318

■天空の劫火〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
SF、政治劇というより「ポストアポカリプス」。邦題の劫火と原題のThe Forge of Godがそのままの意味で用いられている。大統領が安全保障や研究者の助言そっちのけで黙示録を語る、という情景はいまいち現実感が欠けるように思うのだけれど、米国には黙示録3174年みたいな作品もあるわけで、終末をキリスト教の世界観で語るというのはスタンダードなのだろう。ヨハネを諳んじて邁進する大統領が兎に角強烈な作品だった。衛星を転用したり食ってしまう兵器(プラネットイーター!)も味がある
読了日:04月13日 著者:グレッグ ベア
https://bookmeter.com/books/426569

■天空の劫火〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
「海は枯れ、地は裂け、 あらゆる生命体が絶滅」する下巻。大陸が裂けるとか地球が煮えたぎるといった言葉がここまで大真面目に書かれている作品も珍しい。平行して上位存在による選民と救出が行われるから黙示録じみた雰囲気がある。(さすがに移民船を「箱舟」と表現するのはあからさまなような気もするが)残された人々が地球の事をさっさと忘れて環境に馴染むあたりもラザロの国という感じで、煩悩とか執着に馴染んだ我々とは最期まで世界観が違った。日本ではまず書かれないタイプの作品だと思う。
読了日:04月14日 著者:グレッグ ベア
https://bookmeter.com/books/426570

■星を継ぐもの (創元SF文庫) (創元推理文庫 663ー1)
しばらくこの界隈から離れていたせいか、自説を喚き散らす科学者とかパーティーで喚き散らす科学者とか、その辺のSF小説らしい大雑把な感じが引っかかって素直に楽しめなかった。良くも悪くも後期ロマン派だから、ガーンズバックあたりと平行して読めばいいのかもしれない。こあと推論を披露する前に証拠を分析して”帰納”させて欲しいんだよな。事実から事実以上のものを引き出すのは演繹ではなかろか。チャーリーとかその周辺の証拠を発掘するあたりはよかった。
読了日:04月15日 著者:ジェイムズ P.ホーガン
https://bookmeter.com/books/574954

山椒魚戦争 (岩波文庫)
ロボットの、チャペックの作品ということであまり期待をせずに読みはじめたがかなり面白かった。インスマウス風に怪奇的にはじまり、ファーストコンタクトを経て人間による使役、代理戦争、総力戦に至る。青背にはいっていないのが不思議なくらい真っ当なSFだ。中盤の労働運動の下りはプロレタリア文学っぽくもあるが、取り扱っている資材の内訳や高等教育の内容が具体的で読ませてくれる。人語を獲得するまでの過程や語彙の偏りまで網羅的に描写しており、単なる政治文学に留まらない凄みがあった。
読了日:04月18日 著者:カレル チャペック
https://bookmeter.com/books/490417

動物農場: おとぎばなし (岩波文庫)
言ってしまえば嘘をつくようには見えない人が堂々と嘘をついて他人からものを奪う、という筋なのだけれど、これを国家がやると皆がコロッと騙されてしまう。手管自体はコミュニズムだけではなくファシズム、時期によっては英米でさえもあてはまる。オーウェルが西側の人だからこの本は共産主義の分析本として読まれてはいるけれど、実際の射程はもっと広い。例の本1984よりもガジェットが少なく策略もストレートだが、その分読みやすいし、ディストピア入門に良い本だとも思う。
読了日:04月19日 著者:ジョージ オーウェル
https://bookmeter.com/books/573334

人類は衰退しました 1 (ガガガ文庫)
何か既視感があるなーと思いつつ読み終えたが、そうだこれ、シマックの都市だ。文明の後継者の視点から回想(再現)される人類史、一方文明の主人となったことで出自を忘れてしまう新人類、交代によってオーパーツ化した技術(製菓)。楽しい度で増減する妖精は立派なサイバーパンクだし、早川JAあたりにラインナップされていてもおかしくない。流し読めばライトノベル、深く掘ればきちんとSFとしても読める巧妙な作品だ。この頃のガガガはエロゲライターを呼び込んだりして尖っていたな。いい時代だった。
読了日:04月19日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/4339726

人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫)
前後二部構成で前半はスプーン叔母さんがアルジャーノンしてガンバを旅して後半は野生児がループして人格を手に入れようとする。というか実質クロスチャンネル。他者との接触なしで自我を手に入れる術はあるのか、というのはADV業界で彼が書き続けてきたテーマではあるけれど、人退に挿入するにはちょっとぼんやりしすぎている気がする。個人的にその手の話が好きだから満足はできたのだけれど。
読了日:04月20日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/4339725

人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫)
きちんと人類が衰退している。心地よい破滅に入れるにしても前巻まではあまあまな作品だったが、ここにきてきちんとポスアカらしい作風になってきた。遺棄された都市とそこで迷子になって飢えと乾きに悶える探検隊なんかは人類文化のオーパーツ化を対比的に表していて面白い。その都市が形状記憶合金の増改築を加えて出来た不良品ってのも浪漫があった。電磁パルスによる情報科学の喪失といい、終末の要因ひとつとっても癖がある。いいなぁ。
読了日:04月21日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/4532462

人類は衰退しました 4 (ガガガ文庫)
技術的特異点を越えて共食いしながら食料を生産する鶏(肉)とファーミングシミュレーター。カカオの生産失敗と代用商品として登場する飴玉、汚名をそそぐために生産した植物の大量生産の果てに連作障害を起こして滅びているのが近代文明!って感じ。これで交易ができたなら三角貿易が成立したりしたのかな。焼畑焼畑。主筋の単純さに比べて設定が凝っているのは相変わらず。ただ、説明もせずさらっと流すから頁を捲っては戻るを繰返す羽目になった。えぐいえぐい。
読了日:04月22日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/4532561

人類は衰退しました 5 (ガガガ文庫)
原始、未来、農業、ときて今度はゲーム文化。インベーダー、テトリスぷよぷよ、マリ……と挙げだせばキリがないが、そういった様々なゲームのシステムやグラフィックレベルをつかったリアリティラインギャグが楽しい。少しだけ魔界村にも入ったけど、対象年齢どうなってんだろ……趣味でやね。前半はロミオ作品ではお馴染みディスコミュニケーションカーストなやつ。勝気なBLを嗜む銀髪少女とわたしの百合。
読了日:04月23日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/4652367

人類は衰退しました 6 (ガガガ文庫)
空を飛ぶこと、同人誌を回し読むこと、デフォルトされた社会でこれら二つが再発見されたなら、我々はこれをどう解釈するのか、というお話。前者は鳥人間コンテストだし後者はコミケなのだけれど、そこには安全性やゾーニングのような枷はない。飛びたい、読みたい読ませたい、という意欲のみ。人々が欲望に忠実な姿は現代以前の(ライヒェルトがいたような)危険な社会を思い出させる。ただ自力で達成するのではなく後継人類の助けを借りて、というのはご愛嬌か。(馬力増強薬というのもギャグっぽい)それにしてもYかわいいな。
読了日:04月23日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/4652357

人類は衰退しました 7 (ガガガ文庫)
そもそもネグレクトを解決しよう、という考えが衰退した人類に似つかわしくないーだから自立自律させましょう。長年家族を書いてきた作家だけあって、諦観、割り切りがすごい。アメリカ型の終末SF(大地は永遠にとか)では親子でキャンプ張って狩りにでかけたりするけど、あれも物質面で余裕があるから成立するようなもので限界がきた世界で家族を想像しようとすれば、こうなるのだろう。後半はPKディック。情緒面を強調するあたりがいかにもラノベだが、こういう風情のあるミスリードもたまにはいいかな
読了日:04月24日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/5148989

人類は衰退しました (8) (ガガガ文庫)
拡張現実で町おこしという凡庸な主題とガジェットを主題にしつつキャラクター小説の書き方的な消費論に目配せ。興味がないこともあって拡張現実と聖地化の抱き合わせやカップリング消費はあまりのれなかったのだけれど、トリガーに胎児を持ってきたいるのは面白かった。出産は「泣く」ための道具になりがちだが、工夫次第ではメタギリギリを突くための武器にもなる。ちょっとドグラマグラっぽい。
読了日:04月24日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/6079397

人類は衰退しました (9) (ガガガ文庫)
創発の変化球として読めばいいんだろうか。エミュレーションを繰返してきた理由にはなるけど、なんか、なぁ……頭打ちになった文明を進化させる手段にしては反則っぽい。楽園の泉とか胎児の夢風の振り返りはよかった。
読了日:04月25日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/8082402

人類は衰退しました 平常運転 (ガガガ文庫)
妖精の本編、人間の外伝。どれもようわからん技術を見つけるなり継承した人類が果物の品種改良とか信仰の火種に転用する類のエピソードで、SFというより宗教とか社会科学の色が濃い。いや、衰退したからにはそうなるのが自然ではあるけれど、妖精譚と比べるとあまりノレなかった。外伝らしく一冊で十分な内容だと思う。
読了日:04月27日 著者:田中 ロミオ
https://bookmeter.com/books/8968852


読書メーター
https://bookmeter.com/

さんがつのまとめ

 えろげーばかり読んでいたので冊数はこなせなかった。ただ、ロ云々のことがあったのでセカンドハイドだけは読んだ。視点、価値観の複数性、均衡と構造、どれも一級で脳が洗われるような感覚に陥る。アレクシェーヴィチすごい。あとオーウェル。彼のことは何回か書いているし今更語ることもない。

 

2022年3月の読書メーター
読んだ本の数:8冊
読んだページ数:3265ページ
ナイス数:131ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2022/3
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
一人称は「ぼく」で、人は山ほど殺したけど「虐殺」ははじめてです、というのが最高にクール。ミニタリー小説にサイバーパンクを継ぎ接ぎしたような風景が続くのに読後感は罪と罰。動機云々は何もかも作中で言っているから、ここで改めて書くべきことはない。
読了日:03月22日 著者:伊藤 計劃
https://bookmeter.com/books/565343

■アフガン帰還兵の証言―封印された真実
全体主義の国だから、というのは理解しているのだけれど、実態を明らかにしようとして「名誉を汚すな」「傷口を抉るな」と返されてしまうと困惑してしまう。しかも、兵士たちの名誉のためであって、圧力をかけられたからそのような態度をとっているわけでもない。心理学的には認知的不協和とか歴史的には国家主義の犠牲者等々とラベルリングすることはできるだろうけれど、それで何かが解決するわけでもない。どう受け止めればよいのだろう。
読了日:03月22日 著者:スヴェトラーナ アレクシエーヴィッチ
https://bookmeter.com/books/306313

■セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと
ソビエト的でありロシア的でありドストエフスキー的でありチューホフ的であり……形容する言葉はいくつもあるけれど、どれもが適切とも思え、それだけではないだろう、と考えてしまう。強いていえばポリフォニーだろうか。それだけ重厚な証言集だった。読むのは二度目だけれど、統一概念としての「赤い国」はますますわからなくなった。(そもそもそんなものはあるのだろうけ)世代間の衝突をはっきり意識した姿勢はツルゲーネフ的だとは思った。
読了日:03月19日 著者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
https://bookmeter.com/books/11164423

チェルノブイリの祈り―未来の物語
こういった時勢だけあってそのような視点で読んでしまうのだけれど、主題をさし置いて飛び込んでくるものがこの本にある。タジキスタンキルギスからの難民、彼らの縋る場所としてのチェルノブイリ。土地を捨てる人間が居れば移住してくる難民もいる。その事実とアレクシェーヴィチの視野の広さにただ驚くばかりだ。
読了日:03月19日 著者:スベトラーナ・アレクシエービッチ
https://bookmeter.com/books/75513

■ペスト (新潮文庫)
(時代としてもそう受け止めることが当然なのだけれど)パンデミックというよりは実存小説。異邦人への回答という意味合いもあると思うが、理性を失った群衆の姿はムルソーに似ている。疫病の到来によって群衆は共感共苦は無効化して家に火を放ち、医者は感情を殺して治療に励む。後ろ盾をうしなった人々は淡々と不幸を受け入れて生きている。前向きな意思を失っても、なお人々が生に執着する光景は如何にも(反サルトル的で)カミュらしい。
読了日:03月19日 著者:カミュ
https://bookmeter.com/books/557289

■あなたと原爆 オーウェル評論集 (古典新訳文庫)
歴史を知ること、言葉を紡ぐことの難しさを思い知らされる。あの右翼は、あの左翼は事実を見ていない、誇大妄想を持っている、そう口にするのは簡単でオーウェルもそのような事を言ってはいる。けれど、学ぶべきはその”攻撃的な姿勢”ではない。野次を投げるなら猿でもできるし、その根拠のない野次こそ彼が恐れた事だろう。右翼が明らかにした事実の方が確かなら、不快だろうとそれを受け入れる必要がある。でないと「反ユダヤ主義者ではないがユダヤ人は嫌いだ」と自己矛盾を起こしている人々と同じではないか。
読了日:03月11日 著者:ジョージ・オーウェル
https://bookmeter.com/books/14277904

カタロニア讃歌 (ハヤカワ文庫 NF 97)

党によって捏造されていく歴史、その「事実」に従って投獄されていくかつて戦友、文脈依存で多義的に、より暴力的なニュアンスを獲得していく言葉「トロツキスト」+ファシスト、前半ののんびりとした、だが戦争らしかった戦争がスターリン主義の台頭によって内ゲバに変質していく...と相変わらずオーウェルという感じの内容。彼の思想が芽生える過程がわかるので自伝としても面白いのだが、複雑な人民戦線の内情から生成発展していくから読み難い。(ただでさえオーウェルの思考は回りくどいというのに)。
読了日:03月10日 著者:ジョージ・オーウェル
https://bookmeter.com/books/13234

死の家の記録 (新潮文庫)
初期社会学的な分析を挟みつつ論旨をぐらつかせるようなエピソードを無遠慮に重ねて行く作風が如何にもドストエフスキーらしい。自由への渇望、その欲求不満を解消するための口喧嘩、看守に見咎められないための抑制、こういった如何にも刑務所的な力学の中で塀を越えて酒を売り買いする酒屋や質屋を営むユダヤ人が構造の枠組みを破壊するように蠢く。学はあるが父殺しの貴族、無学だが聖書から文字と学問を手に入れる聖人のような男、チェルケス人のアレイこの真っ向から対立するような人物が喧嘩もせず仲違いもせず、”別々に生きている”光景も魅
読了日:03月03日 著者:ドストエフスキー
https://bookmeter.com/books/573634


読書メーター
https://bookmeter.com/

 

 ちなみにやったえろげーは君が望む永遠。うじうじしている。兎に角うじうじうじうじしている。三角関係、不倫の物語だけど、あの人に狙いを定めてーといった寝取られの定番ではなく、配慮に配慮を重ねて泥沼に足を取られる類の作品だ。あの人にも迷惑だし、この人にも迷惑だし、これをすれば、あれをすれば誰彼に迷惑がかかる、どうしよう。厳しい状況のなかで他人の優しさにがんじがらめにされる、ということは現実にもあることだけれど、これほど文字で表した作品は他にはないだろう。昼ドラっぽいもの、ドロドロとした恋愛情事というのは、実はプロットレベルのは簡単なのだけれど、うじうじをうじうじではなく、きちんとそれぞれの個性として描くのは難しい。夏目の「こころ」が簡単に要約できない物語であるように、男女の情念とはステロタイプに落とし込めない領域がある。君のぞはそれを描ききった作品だった。

 そんなこんなで君のぞで二月が終わった。来月はマブラヴ。こちらも理解を深めるためにクラークの遥かなる地球の唄やホーガンの星を継ぐものを読んでおかないから長くなりそう。

 

f:id:efnran:20220401180801j:plain

f:id:efnran:20220401180813j:plain

f:id:efnran:20220401180832j:plain

f:id:efnran:20220401180849j:plain


www.youtube.com

おーうぇるよんだ

 とりあえずカタロニア賛歌とあなたと原爆まで読んだ。新庄訳の一九八四も読み直すつもりではあるけれど、その前にあなたとーまで読んだ段階で思うところがあったので書いておく。

 一九八四に長年親しんでいるディストピアファン(?)は知っているように、旧訳は言い回しが堅い。その硬度をとやかく言いたいわけではないので具体的な例は挙げないでおくが、とにかく読みにくいことで有名だ。そのことについて、以前に僕は以下のように書いた。

 

 新訳に比べて新庄哲夫の文章が硬い、というのは同感なのだが、そういった文体だからこそオセアニアの官僚制の恐ろしさ、リアリティの高さが実感できるのではないかと思う。新語法をニュースピーク、偉大な兄弟をビッグブラザーと言い換えたところで、そこでおこなわれるのは(オーウェル自身も嫌っていた)言葉のイコン化であり、それは同時に”1984年のような”という揶揄を可能にしてしまう。新語法の恐ろしさは改ざんという不誠実な態度ではなく、それが敷かれることによって人間の意識が狭められてしまうことにある。

 新庄の訳は確かに硬いが、それ故に人を慎重にさせ、この作品を”例の本”たらしめている。また、ソビエトを見ればわかるように、考えることすら許されない社会というのは歴史的に見れば恐ろしい。が、一方で現在との比較対象としての歴史を改ざんし、私を他者との比較ではなく、全体の中の細胞として規定してしまう世界というのは、劣等感や孤独とは無縁でもある。ウィストンの微笑みに共感できるか、それとも哀れと見るかは人それぞれだが、彼の絶望、諦観とその先にある幸せを肯定できる人も多いのではないか。

 あなたとーにも言えることなのだが、彼は言葉の精度、それが及ぼす影響に敏感だ。何かあればファシストトロツキストユダヤ人、こういった言葉を指示する以外の名目で使われている事態に頭を悩ませている。

 流石にファシストトロツキストといった言葉が罵倒する際に使われることはない。ままに読むには彼のエッセイの内容は古いといえる。が、しかし、彼の取るべきでない態度を我々はとっていないだろうか?

 今回、あなたと原爆の雑感で僕は以下のように書いた。

 歴史を知ること、言葉を紡ぐことの難しさを思い知らされる。あの右翼は、あの左翼は事実を見ていない、誇大妄想を持っている、そう口にするのは簡単でオーウェルもそのような事を言ってはいる。けれど、学ぶべきはその”攻撃的な姿勢”ではない。野次を投げるなら猿でもできるし、その根拠のない野次こそ彼が恐れた事だろう。右翼が明らかにした事実の方が確かなら、不快だろうとそれを受け入れる必要がある。でないと「反ユダヤ主義者ではないがユダヤ人は嫌いだ」と自己矛盾を起こしている人々と同じではないか。
 オーウェルは左翼で共産主義のようなところもある。しかし、だからといってコミンフォルムの陰謀を喧伝するような人物ではない。本書を読んだ人間はそんな間違いは起こさないだろう。しかし、そのような態度を無意識にとってしまうのも人間だ。事実誤認をしている人間をその間違いそのものではなく態度から拒絶していないだろうか?(まさしくファシストを罵倒するようにトロツキストという言葉を吐いていた共産主義者たちのように)邪悪と同じ意味でネトウヨ/リベラルという言葉を使っていないだろうか?

 人間の判断能力が予め分類された知識の上で機能している以上、こういった間違いを犯さざる得ない。自分自身も常にカテゴリーミステイクに怯えている。しかし、だからといって事実誤認や「歴史が正しく書かれうるのだ」という希望を捨てるのは如何なものか。何事も具体的に、己の不確かさえ開示しながら歩みを進めるオーウェルに叱られているような気分になった

 ファシストネトウヨトロツキストをリベラル、このように置き換えれば左右両方を包括しつつ、双方の欺瞞を明らかにすることができる。もちろん、本来的にネットで誤謬を犯しがちな人のことを指して、分析している文章もあるだろう(目にすることは滅多にないが)。ただし、こういった言葉は概して自分と正反対の立場を指して使われる。軍備増強を望む者、歴史を塗り替えようとする者、そういった人たちを指すために。しかし、それは建設的といえるだろうか。軍備増強については安全保障という観点から政治学的に、地政学的な議論ができるだろう。歴史修正主義も国体論という前例があるわけで、思想史から解釈は可能だ。何より、崇拝する共同体のために現実を、歴史を改ざんしようとしている人間に対して曖昧な言葉をもって議論をゆがめては何も得られるものはないではないか。それでは自分都合で事実をゆがめようとする相手と同じだといえるだろう。

 人は容易に事実を歪めてしまう。それも意図せずに。カテゴリーミステイク、論点先取り、議論が”白熱”すれば大学初等で習うようなことをやってしまう。(そもそも議論が白熱する必要なんてあるのだろうか?)戦争報道が過熱していることもあるし、今後もこのような間違いは起こるだろう。しかたがない。しかし、そこで踏ん張る努力は必要だと思う。自分だけは間違えない、そんなことはありえないのだから。

 そういうわけであなたと原爆おすすめ。最低限の知的作法を学ぶことができる。あと美味しい紅茶の淹れ方とかも書いてある。(僕はポットで淹れないから参考にできないのだけれど)

にがつのまとめ

 引越しでバタバタしていたこともあってあまり冊数は読んでいない。

 読む本読む本あまりピンとこなかったから頭にも残ってない。特に期待していたNSAがよくなかった。ディストピアものとして読んだのが悪かったようだけれど、NSAとナチの組み合わせで売り出すなら、もうちょっとナチの特殊性を炙り出すような方にいってほしかった。あれではナチを面白がるか現代をナチ的だと揶揄するくらいに読みようがない。まぁ、いい。そんなわけで二月後半はNSAにはじまりファーザーランド(これは傑作)、ホロコースト関係の本を何冊か読んだ。

 前半は森見特集。彼の作品に最初に触れたのは失恋した二回か三回の頃だったと思う。「クリスマスファシズム」という言葉が魅力的かつ実戦的(実践ではない)で、クリスマスが来る度バレンタインがくる度友達が二人で海水浴に行く度文化祭に行く度に影響されていろんなアジを飛ばしたものだ。(ああ恥ずかしい)

 話が逸れた。読み直したのは単に京都から引っ越すことにしたからであって、自分に春がきたからではない。(詳細は先月に書き散らしたブログの記事を読んでもらえばわかる)。そういうわけで夜は短しから四畳半神話体系、有頂天家族へと読み進めた。四畳半神話体系は何度も読んだこともあって、さすがに読み進めるのが辛かった。三十路にはいって共感できる部分が少ないというのも大きい。(幸せ家族を憎むくらいの力はあるのだけれど)。むしろ、というかどういうわけか有頂天家族の血縁の強さに惹かれた。心理学的には社会性あっての人間なので、無意識的に間柄に憧れるのは当然なんだろうけれど、信念と剥離したような感動が沸き起こって不安半分、不思議半分な読後感を覚えた。よくわからんがそんな感じで楽しかった。森見作品は面白いから読め、と他人に薦めにくいのだけれど、今回も同じだったな。


www.youtube.com

 最初に前後にわけて書いていたから忘れていたけれど、ついに魔術師スカンクを読み終えた。期待を裏切らない、いや期待以上でかつこれからの人生が歪みそうな作品だった。江波光則の作品はストレンジボイスから好きで、ストイックな作風に引きつつも魅了されていた。面白いけれど実際に目の当たりにしたくない、体験どうこう以前にこういう心理状態にすらなりたくない、彼の作品にはそんなえぐみがある。スカンクの内容はストレンジボイスを二倍、三倍濃縮したような作品で、読み終えたときには引きつりを通り越して笑ってしまった。まだネットの方にも残っているようなので興味がある人は是非読んでほしい。

ストーンコールド | 最前線 - フィクション・コミック・Webエンターテイメント

 総合的には江波光則、森見登美彦、ファーザーランドの順に面白かった。

 そんな感じ。

 

2022年2月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:4532ページ
ナイス数:142ナイス

https://bookmeter.com/users/159174/summary/monthly/2022/2
■夜と霧 新版
時間を経て読み直してみるとヴェイユと交差していたりショーペンハウアーのアレンジみたいなことも書いてあって、思っていたよりも西欧思想寄りの哲学書だった。著者自身は心理学者でそれなりの考察もある。前半の殴られ追い立てられ、衣食住すべてを奪われ食欲だけに縋りついて「生ける屍」になる、そして鉄条網越しの自由が無価値なものに見えはじめる、といったあたりは如何にも認知的不協和だ。ただ、生き残るための戦術については状況分析よりも内面に重点を置いているため全体としては心理学というよりは哲学寄りの分析になっている。
読了日:02月26日 著者:ヴィクトール・E・フランクル
https://bookmeter.com/books/253543

■私はガス室の「特殊任務」をしていた
チクロンB投入の補助(石蓋を引き上げる役)や射殺作業の際に囚人を押さえつけた(もちろん命令)等々の記述があり、アイシュヴィッツIとの役割の違いに唖然とさせられる。囚人というより殺人の手伝いをさせられているような印象だった。そもそも作業以前にガス室の光景が異常でフィクションをじみたお遊びが一切ない。肌は赤や青に変色、中には眼窩が飛び出して血まみれになっているようなものもあったらしい。何から何まで強烈な、教養として読んでおくべき一冊。
読了日:02月26日 著者:シュロモ ヴェネツィア
https://bookmeter.com/books/94507

■ビルケナウからの生還―ナチス強制収容所の証言
飢餓と暴力が支配する収容所の記録、思いきやビルケナウだけではなくアウシュヴィッツ、フランスのピティヴィエ等々収容所を歩き回ったつわものだった。働いていた職場も様々で、整地作業から石切り、炭鉱、看護室、そしてカナダや特殊任務班まで回っている。(さすがにゾンダーコマンドにはなっていない)。基礎体力はもちろん、各々の職場への適応力、コミュニケーションもかなり高い。
読了日:02月23日 著者:モシェ ガルバーズ,エリ ガルバーズ
https://bookmeter.com/books/636685

ホロコーストナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)
網羅的で記述も均一、他の領域との連関もしっかりしてる。ホロコーストを「学ぶ」には量が足りないけど、入門や知識の整理には適切の本だと思う。名著。
読了日:02月21日 著者:芝 健介
https://bookmeter.com/books/479033

■ファーザーランド (文春文庫)
アメリカ外交を軸に独ソ両国の全体主義を相対化しようとしてみたけど……だめだったというのがいいよね。ソビエトも相当あくどい国ではあったけれど、ドイツの計画性とこしらえて数字、ひとつの民族に対する執着は他に類を見ない。そもそも国家の体制とは何ら関わりのない事柄であれほどの執着を見せたことが異常なんだけど、そういった全体主義の外部を見せてくれる。批評性のある良質な作品だった。
読了日:02月20日 著者:ロバート ハリス
https://bookmeter.com/books/547826

NSA 下 (ハヤカワ文庫SF)
統計処理にはじまったナチスの物語が新兵器新技術の海に着地するとなれば、それだけでビジュアルとしては完成したと言える。原爆、顔認証システム、外科手術による思想等背...ハイテクでグロテスクなところが実に良い。ただ、いささか思慮に欠ける。ナチスで「この画をやりたい」以上のものがない。最後の最後で二重思考を唱えるくらいの知性が欲しかったがそれもない。(大げさな手術をしておいて直情的な反応するならロボトミーと大差ないじゃん)。ただ、前巻よりもノリと勢いはあるので、相対的には面白かった。チャラいSFだなぁ
読了日:02月18日 著者:アンドレアス・エシュバッハ
https://bookmeter.com/books/19034430

NSA 上 (ハヤカワ文庫SF)
ユダヤ人迫害とネットを通した民族差別(ネトウヨに例える人とかいそう)のあわせ技とか個人情報を盗んでの恐喝とか色々と現代的な要素を盛り込んではいるけれど、それが濃くなれななるほどナチ的ではなくなる、というジレンマ。むしろ特定の国家を架空の設定を根拠に「ナチ的」だと思わせる分、悪質かもしれない。1984のように架空の国を舞台にした方がSFとしてもIFとしても筋の通った話になったのではないか
読了日:02月17日 著者:アンドレアス・エシュバッハ
https://bookmeter.com/books/19034429

■スーサイドクラッチ 魔術師スカンクシリーズ 3 (星海社FICTIONS)
ストーンコールドが損得勘定の先に殺意を視るサイコでスピットファイアが勘定があっていても気が乗らなければ人を殺さないサイコで、これは計算もしないし気だるいから何もしないけど、やるとなったら細胞の一片まで使って殺して殺して殺しまくるモンスター。今作ではついに人間をやめてしまった。ジャンルとしては全ての作品が着地点を間違えてるんだけど、それを面白い、そういう手もあったかと思わせてしまう凄みがある。人によっては迷作と言う人もいるだろうけど、俺は傑作だと思う。三部作全て。
読了日:02月06日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6883934

スピットファイア 魔術師スカンクシリーズ 2 (星海社FICTIONS)
社会のクズに鉄槌を下すとか金がほしいとかならまだわかるけどバラしたい、相手の臓器を見たいってのが本音だからたまらない。作風は俺たちに明日はない、もといアメリカンニューシネマのようで、前作のカイジと同じくパロディになっている。といってもヒロインとのつながりは殺意とそれに対応した承認欲求だし、正義云々も社会派映画を飛び越えて腸カッ捌きたい!!とひたすら宣うサイコサスペンスに着地しているのだけれど。ジャンル越境上等の作風は相変わらずだった。
読了日:02月06日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6721149

ストーンコールド 魔術師スカンクシリーズ 1 (星海社FICTIONS)
守銭奴から見た学校社会、スクルージが損得勘定の外で動く人間を軽蔑するという内容でクリスマスキャロルの序盤をひたす引き伸ばしたような作品だった。そのせいで主人公は目を潰されるまでいじめられるわけだけど、この銭ゲバ的態度と同調圧力が拮抗すり様がとにかく辛い。世間の論理とはいえ、その武器で殴り合うのはルール違反だろう、と思えてしまう。ただ見方を変えれば愚痴をグダグダ並べているだけだから、作品単体では評価が難しい。「この学校をコロンバイン高校にしてやろう」は宣言通りに実行したから、本命はこれからなんだろうな。
読了日:02月04日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/6275909

■ストレンジボイス (ガガガ文庫)
読了日:02月02日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/309484

有頂天家族 二代目の帰朝
森見で続き物というのがいまいち想定できなかったけどこれはいい。呉一郎はあの人で二代目は癇癪玉で破門された理由は弁天で……と一作目から情報量がほとんど変わっていない。それでも読めてしまうのは巧妙な物語展開と彼の文体のおかげだろう。よくできた作品の続編は一作目より落ち目というのはよくあることだが、これは読んでよかった。素晴らしい。
読了日:02月02日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/9395743


読書メーター
https://bookmeter.com/

2008

 東欧がキナ臭い。戦争から七十年も経てば戦争体験者も数を減らし、生の体験は失われる。そろそろ世界大戦か、という根拠のない予感がここ五年ほどあったが、それが現実になった。

 というのは正に根拠のない妄想で世界はそんな杓子ではかったようには出来ていない。身近に感じたから”今起こっている”と錯覚するだけで世界にはいつだって戦争が蔓延っている。少なくとも東欧にとってソ連崩壊は三十年前の出来事で、あの国を体験した人々はまだまだ現役だ。崩壊したあとも東欧ならユーゴスラヴィアアフガニスタン、イラン、イラク第三世界、いつだって戦争があった。

 とはいえ、それをすべて自覚するのは難しい。というか不可能だ。俺も忘れていた。そんなわけで、この演奏を思い出した。


www.youtube.com

 2008年の南オセチア紛争の時に慰問に訪れたゲルギエフ指揮、マリインスキー劇場管弦楽団の演奏。鎮魂の演奏と思いきや演目がそうではない。プログラムはチャイコフスキー交響曲第五番の抜粋にはじまり、戦争交響曲とも言われるショスタコーヴィチ交響曲第七番の第一楽章”だけ”、チャイコフスキー交響曲第六番の第三、四楽章”だけ”で終わる。

 こんな景気のいいプログラムはファミリーコンサート、いやニューイヤーコンサートでも見たことがない。これが同じショスタコーヴィチの八番やチャイコフスキーの六番全曲(他で演奏してはいる)ならまだ逆説とも読めるが、ここまでイデオロギーがあからさまでは弁護はできない。東欧での一件以来、彼をフルトヴェングラーと比較する向きがある。しかし、彼のこの演奏会、当時のメディアへの露出と発言を省みれば同一視するのは難しいだろう。(比較するならカラヤンだろうか。ヤンソンスと比較するのは論外だろうし)

 私はここで何かを批判するつもりはない。むしろ、2008年当時のことを忘れていた自分に唖然とする。戦争はとっくにはじまっていたし、その自覚がなかっただけなのだ。これは東欧での出来事だけには限らない。もう私は去年カブールで起こったことも忘れている。タリバン政権の動向は?シャリーア法の施行は?あれからまだ半年も経っていないではないか。人間は万能ではない。これから全てを知ることはできないし、全てを覚えているわけではない。しかし、何か忘れていないか、取りこぼしていないか、それを自覚し、注意しながら意識を巡らせることくらいはできるのではないか。少なくとも”西側にいるから安全だった”くらいのことは常に感じているべきではなかったか。

 かの指揮者の境遇とそれに対する反応を見てそんなことを思った。

誕生日だったので

 ザッハーのトルテを食べた。といっても輸入するのも困難な時勢なのでデメルで手に入れたのだけれど。

 ホテルザッハーと同じ桐箱入り。(デザインは異なる)

f:id:efnran:20220211003753j:plain

f:id:efnran:20220211004151j:plain

f:id:efnran:20220211004156j:plain

f:id:efnran:20220211004201j:plain

 そして公式どおりにホイップクリームを添える。飾りの意味合いもあるのだろうけれど、そもそものザッハトルテのチョコレートの濃度、アプリコットジャムの風味がかなり濃いのでクリームで調整する役割もある。ケーキがほんの少しボソッとしていて、油脂のこってり感とも調和している。今回は四号を六人で分けたが、それでも胸いっぱいになった。

 ちなみに合わせた紅茶はロンネフェルトのルイボスティー。普段はカモミールだけれど、これだけ濃いお菓子となると味も香りも負けてしまうので、あえて癖の強いものを選んでみた。結果は大正解で、互いの渋みが相殺し合ってくれた。

 歴史を知るために買ったようなものなのでもう来ないだろう、と思いつつトリュフの詰め合わせを買ったのだけれど、それもまた美味。思わぬ収穫だった。お気に入りだったヴィタメールのそれよりも舌に合っているかもしれない。いろいろと試したいケーキもあったので、継続的に通おうと思う。

 それはそれとして三十路かぁ……多くは語らないけれど。

f:id:efnran:20220211005237j:plain