2013/06/01-

オールタイムベスト http://efnran.hateblo.jp/entry/2016/01/01/000000

2017年のまとめ

 とりあえず、去年に読んだり見たりして印象に残った作品を列挙。 

完全なるワーグナー主義者

完全なるワーグナー主義者

 

 

 一見すると神話の劇化にしか見えない楽劇のなかに秩序を探し、現実と同じ社会構造を発見していく内容は何度読んでもスリリングだ。ラインの乙女に拒絶されてルサンチマンに陥り、黄金を奪って金権でニーベルハイムを支配するアルベリヒ(資本家と労働者)、そんな下々の世界を尻目に巨人族を酷使してワルハラを建設する神々族(貴族)。ラインの黄金は神々の法をグレーゾーンから崩壊させる力、証券取引ににた役割を持ち、それ故に神々の武器であるジークフリートは法や貴族的な道徳を理解する必要はなかったという指摘は今のバイロイトでも有効だ

 

我もまたアルカディアにあり (ハヤカワ文庫JA)

我もまたアルカディアにあり (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 ユートピアディストピア化が完了した社会で暇を持て余し、果てに引きこもになってしまうあたりは「一九八四年」の、放射能の嵐の中であってもバイクに跨がろうなんて考えるところは「渚にて」の真逆をいってくれているのが嬉しい。SF小説にありがちな技術倫理を無視しているところや、すべてが自分の精神的限界を試すために身体の義体化を試すおっさんからはじまっているあたり、技術的、精神的にサイバーパンクの王道をいっている作品ではないだろうか。

 

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

 

 

 一人交換日記のあとに読むと印象が随分変わった。家族に背いて風俗に行く罪悪感を引き剥がし(同時に家族の要求に答えるために自分を形成していたことを発見し)、相手のために身だしなみを整え(同時に汚いまま同情を引いて相手と会話をしていた自分を発見)、嬢にエスコートされるまでがひとつの流れとして読める。”家”に抑圧されていた女性が風俗に生きたい、という個人的な欲望を通して精神的に自立していく様が実に爽快な一冊。

 

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 霧の中でふわっと、左右両方から閉じるように描かれる円文字、それらの微妙な筆跡の違いをパーツ化、分類して意図として再構築する言語学者(一方で中国は麻雀で虐殺文法を教えようとしていた)、時制のない言語に脳を改造され、作業中に”回想”として見えてくる未来と言語SFのエッセンスがこれでもかと詰め込まれている。マックス・リヒターの音楽やarrivalの使い方も完璧で、正直テッド・チャンの原作よりも面白かった。

 

ザ・ロード スペシャル・プライス [Blu-ray]

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 灰色の空とか地上に積もった灰、弾痕がないのに枯れ木だらけになっている山とか遠くの方から聞こえる気が倒れる音、廃墟化したオフィスで見つけた缶コーラを開けるプシュという音、日常にありふれたものを腐らせるだけで、これだけ重い終末世界を提示できると証明している作品。(半分はマッカーシーの功績なのだけれど)

 

 あと、読書メーターのシステムが自分の利用方法とあわなくなってきたので今月から月々の記録を再開する。感想を書いたり、フレンドと情報を共有する分には問題ないのだが、過去の記録を遡るのが意外と面倒。前の月とか半年前ならまだしも、三年、五年と経ってくるとスクロールで確かめるのは、けっこう労力がいる。

 以下に去年一年分を記載しておく。

 

2017年の読書メーター
読んだ本の数:63
読んだページ数:16985
ナイス数:379


ワーグナー ニーベルングの指環〈下〉第2日『ジークフリート』・第3日『神々の黄昏』 (オペラ対訳ライブラリー)ワーグナー ニーベルングの指環〈下〉第2日『ジークフリート』・第3日『神々の黄昏』 (オペラ対訳ライブラリー)感想
ヴォータンからジークムント、ジークフリートブリュンヒルデアーサー王風の英雄譚として進んできた物語が序夜「ラインの黄金」で仕掛けられた業に沈んでいく様が圧巻。巨人族は兄弟殺しの罪を被りジークフリートに屠られ、ジークフリートは祖父ヴォータンの強盗の罪を問われギービヒ家に刺殺される。そしてすべての発端であるアルベリヒ、もといギービヒ家がラインの乙女から黄金を盗み指環をこしらえ圧政を敷いたことにより、神々が巨人族に対する契約違反からローゲの炎に焼かれ様はあらゆる権力と契約を通奏低音としてきた作品に相応しい終
読了日:12月29日 著者:高辻 知義
ワーグナー ニーベルングの指環〈上〉序夜『ラインの黄金』・第1日『ヴァルキューレ』 (オペラ対訳ライブラリー)ワーグナー ニーベルングの指環〈上〉序夜『ラインの黄金』・第1日『ヴァルキューレ』 (オペラ対訳ライブラリー)感想
ショー、シェロー以後、バイロイトでは社会派として解釈され続けているが、脚本も思想はもちろん伏線まで練り込んであって面白い。(かといって物語そっちのけで神話的な化粧を施すメトロポリタンを受け入れられるわけではないが)特にヴォータンから逃れたジークリンデが神々の天敵である巨人族の足元へと逃れる展開は、後のジークフリートでの巨人打倒と指環の獲得、指環をめぐる抗争と人間、神々の黄昏までをしっかり支えているのが良い。(これが単に森に逃げ込むといった展開だったならもっと平凡だっただろう)
読了日:12月25日 著者:リヒャルト ワーグナー
完全なるワーグナー主義者完全なるワーグナー主義者感想
一見すると神話の劇化にしか見えない楽劇のなかに秩序を探し、現実と同じ社会構造を発見していく内容は何度読んでもスリリングだ。ラインの乙女に拒絶されてルサンチマンに陥り、黄金を奪って金権でニーベルハイムを支配するアルベリヒ(資本家と労働者)、そんな下々の世界を尻目に巨人族を酷使してワルハラを建設する神々族(貴族)。ラインの黄金は神々の法をグレーゾーンから崩壊させる力、証券取引ににた役割を持ち、それ故に神々の武器であるジークフリートは法や貴族的な道徳を理解する必要はなかったという指摘は今のバイロイトでも有効だ
読了日:12月22日 著者:ジョージ・バーナード ショー
日本発狂 (手塚治虫漫画全集)日本発狂 (手塚治虫漫画全集)感想
現世での死を出兵、霊界を戦場、戦死を現世への復帰あるいは消滅と輪廻転生を社会機構のように解釈しているのは流石。SFを描いている時の手塚は死をあまり深刻に押し出さないが、これほど命が軽い作品は珍しい。水木しげるより軽いかもしれない。
読了日:12月22日 著者:手塚 治虫
出会い系サイトで妹と出会う話-333日目- (電撃コミックスNEXT)出会い系サイトで妹と出会う話-333日目- (電撃コミックスNEXT)感想
血縁や同性愛、誤解を解いたあとに残ったのはのろけ話でした。異性だろうと同性であろうとのろけが見る者の感情を掻き立てるのはいっしょ。
読了日:12月22日 著者:もちオーレ
道徳の系譜学 (光文社古典新訳文庫)道徳の系譜学 (光文社古典新訳文庫)感想
罵詈雑言の羅列なので哲学とは言い難い書物なのだが、時折、和辻の人”間”論やシモーヌ・ヴェイユが工場日記の参考にしたような一文が現れるので侮れない。論文を名乗っているが教会(しかも仮定)をマウンティングポジションから殴るというおよそ文献学出身の学者が書いたものとは思えない内容なので扱いには注意が必要だが、興味深い一冊ではある。
読了日:12月21日 著者:フリードリヒ ニーチェ
NHK「100分de名著」ブックス ニーチェ ツァラトゥストラNHK「100分de名著」ブックス ニーチェ ツァラトゥストラ感想
よく整理しているのでわかりやすいが、読みやすさが逆に引っかかる。ニーチェの著作といえば用語の説明よりも社会への反発、学会批判の分量が多いわけで、こうも教訓的ではない。ただ、キリスト教ルサンチマン永劫回帰、あとは超人とか基本的な事項を丁寧に、引用を交えながら説明しているので最初のとっかかりとしては良い。というか、この一冊だけでニーチェとは別な価値を持っていると思う。
読了日:12月17日 著者:西 研
デーミアン (古典新訳文庫)デーミアン (古典新訳文庫)感想
20世紀初頭の思想的混乱をもろに反映しているのが面白い。グノーシスゾロアスターを学び、夢のなかに系統発生を発見する胡散臭い教会のオルガン奏者(ブルックナーを彷彿とさせる)、カインを擁護しゴルゴダの丘の盗賊バラバの転向を非難し、教会からの離脱、来るべき大戦争ルサンチマンの克服を望む超人じみた学友デミアン、それら多様な思想と思春期の狂気のなかで主客の区別を失う主人公シンクレア。青年の不安をWW1の混乱と重ね合わせた巨大な物語だ。
読了日:12月15日 著者:ヘッセ
車輪の下で (光文社古典新訳文庫)車輪の下で (光文社古典新訳文庫)感想
エリートへの階段を踏み外した青年の悲劇と読むか、自分を制御できずに退学処分を受けた男の教訓話と読むかで読み方がまるで異なる作品だが、そのどちらからもとれるのが面白い。文献学を語る牧師と信仰深い靴屋、ホメロスをより深く読むために語源や修辞を教える学校の教師とそれを詩的ではない、本質的ではないと囁き学業から引き離そうとする学友。誰も彼も自分の常識の範囲内で動いているだけで一方的に抑圧しようと動いているわけではない。誰の責任でもない、というのがいっそう虚しさを際立たせる。
読了日:12月09日 著者:ヘッセ
聖書物語 新約編(新装版) (講談社青い鳥文庫)聖書物語 新約編(新装版) (講談社青い鳥文庫)感想
内容はヨセフの斬首、イエスの誕生と羊飼い、東方三博士の警告、盲治療、イエスの衣やパンの欠片等々の諸奇跡、裏切りのユダ、とかそのあたり。狂人から悪霊を追い出して豚に憑かせるレギオンが挿入されているのがうれしい。ヨハネの黙示録についてギリシャ文化の影響があると断りをいれているのも良い。 同じ著者の旧約と同じように人物の行為に焦点を絞って説教をがっつり削っているのだが、その結果として説教臭さが失せている。面白かった。
読了日:11月30日 著者:香山 彬子,藤田 香
第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)第三の嘘 (ハヤカワepi文庫)感想
ふたりの証拠に対する反論、リュカの体験、あるいは妄想として語られた物語が次々と上書きされていく。国境を越えそこなった父は単に亡命を希望した男となり、父は浮気の果に銃殺され、現場にいたリュカは負傷して施設へと送られてびっこを引く。が、その一方で父とともに空爆で吹っ飛び共同墓地に埋葬されたとも語られる。その上で「そうです。作り話です。事実ではないけれど、事実であり得るような話です」と日記の真偽を否定しながらも、その存在を肯定している。
読了日:11月30日 著者:アゴタ・クリストフ
ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)感想
ハンガリーの戦時中と戦後を一本の線で結ぶことで大戦前後の時代転換を無効化した奇妙な一冊。物語の歴史や政治性は後退、スターリンどころかAVOさえも姿を見せない。(ハンガリー動乱が大きな街の方で起こってはいるが、それが物語に影響を与えているわけではない)代わりに登場するのは父に犯されて子を生んだ娘、両親を喪い父親に依存し、歪な愛の果てに首を吊る子、秘密警察に夫を木に吊るされた女、本を書くために姉の世話になるも、女の抑圧的な態度に苦しみ首を絞めて殺してしまう男。戦争の影が去っても彼らはなぜか怯え、苦しんでいる。
読了日:11月27日 著者:アゴタ クリストフ
悪童日記 (ハヤカワepi文庫)悪童日記 (ハヤカワepi文庫)感想
激動の1940年代東欧を生き抜く双子の物語、なのだが作品にはファシズムからコミュニズムへの転換という絶望の連鎖を体験したハンガリー人の特殊な経験が息づいている。占領地の食料を略奪し腹を満たし、現地の少年にベルトで殴らせて興奮するペドフィリアのどうしようもないドイツ軍将校。そんな典型的な戦争犯罪者がいる一方で、被害者であるはずの市民たちは老婆を蔑み、盲目の母を持つ(寂しさを獣姦で紛らわす)少女を殴り、移送されるユダヤ人に食べ物を分け与える”ふり”をする。
読了日:11月26日 著者:アゴタ クリストフ
ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)感想
文字通りホロコーストの全貌を追った概説書で、ゲットーからアウシュヴィッツまでの歴史的な流れ、それに対する意図、機能派それぞれの解釈を整理している。ポーランド総督府を中心に迫害ははじまり、強制居住区ゲットーへの収容、強制収容所での労働、労働不能な囚人の射殺、その効率化の果てにガス室が設置されるまでをひとつの流れとして読むことができる。著者が武装SSを批判する本を書いていたこともあってか、東欧での行動部隊、武装親衛隊国防軍が互いにどう連携していたかについても触れており、目配りのきいた内容になっている。
読了日:11月25日 著者:芝 健介
出会い系サイトで妹と出会う話 (電撃コミックスNEXT)出会い系サイトで妹と出会う話 (電撃コミックスNEXT)感想
ツンデレ
読了日:11月25日 著者:もちオーレ
私はガス室の「特殊任務」をしていた私はガス室の「特殊任務」をしていた感想
夜と霧の裏、ガス室から遺体を運び出して火葬場まで運んでいたゾンダーコマンドの体験談。これから何が起こるのかを予感しつつもドイツ人を恐れてガス室へと足を運ぶ囚人たち、そこに時折混ざる引き出すことも叶わず死にゆく親戚、あるいは死体となってから再開する親兄弟、それらを荷車で運んで炎渦巻く墓穴へと投じる特殊任務部隊。壮絶なエピソードが綴られているのだが壮絶な環境だったことが逆に抑制として働いており、収容所の裏を冷静に見ることのできる一冊になっている。
読了日:11月22日 著者:シュロモ ヴェネツィア
増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)増補新訂版 アンネの日記 (文春文庫)感想
ホロコーストに関する日記、なのに悲惨な状況はほとんどと描写されていないのだが、純粋無垢な様が逆に異様な雰囲気を醸し出している。周囲の善意から手に入った肉をつかってのソーセージ作りやジャム作り、口やかましい母との相克、恋愛に理解のない父との対立、屋根裏部屋での恋人との接吻。状況が状況だけに、空襲の模様も描かれてはいるが、それは爆撃の音に怯え震え、ひさすら階段を昇り降りしたり、躓いてコケる瞬間に現実からの逃避を見つけるといった、批評的な態度のうえにある。
読了日:11月22日 著者:アンネ フランク
萌える名作文学 ヒロインコレクション萌える名作文学 ヒロインコレクション感想
武器や思想が擬人化されている例は数多あるが、これほど業の深い一冊は珍しい。うつろな目で弟子を罵倒するサディスティック幼女春琴抄、咽び泣く姫草ユリ子、LO表紙風なのが逆に怪しい女生徒、虫になった兄のために食事を用意するグレーテ・ザムザ、百合姫風のカーミラ。文学全集を擬人化するのではなく、最初からアニメやエロゲに出てきそうなヒロインをセレクトしているから違和感がない。
読了日:11月18日 著者:萌える名作文学製作委員会
夜と霧 新版夜と霧 新版感想
体験記というよりは社会心理学の立場から囚人の行動原理を説明しようとした報告書。暴力と怒声に支配された収容所、その中で釈放の目処も立たない状態で内へ内へと引きこもり、ついには現実のディテールを見失って虚無に落ちる囚人、逆に破壊された自尊心をより下の収容者を支配下に置き、恫喝したり暴力を振るうことで満たそうとする中間管理職カポー、心身ともに壊れて、釈放後も開放感や満腹感といったものを”思い出せない”ユダヤ人たち。
読了日:11月18日 著者:ヴィクトール・E・フランクル
聖書物語 旧約編(新装版) (講談社青い鳥文庫)聖書物語 旧約編(新装版) (講談社青い鳥文庫)感想
熊や象やキリンが表紙を飾っているが、しっかりエジプト人はヘブライ人を酷使するし子どもをナイル川に流すし、モーセヨシュアは神の力で追手を撃退するし、ソロモン王は女を寝取って夫を戦地送りにするし、エレミアは同胞に虐待される。もちろん、アダムとイヴはリンゴを食べて羞恥、もといエロを知る。さすがにソドムとゴモラとかキツめのエピソードはカットされているが、少年誌程度のエログロ娯楽要素は残されいるから愉しみながら読めた。また、イスラエル興亡期としてもよめるようにカットもされていて読みやすい。良
読了日:11月16日 著者:香山 彬子,藤田 香
人形の家 (岩波文庫)人形の家 (岩波文庫)感想
ジェンダー初期の作品なので妻が夫にブチ切れるくらいの作品かと思ったら、環境の問題まで視野に入れていて驚いた。妻には夫の言葉にただ相槌を打つことを求められる。だから(夫が何も考えていなくても)病気を治すために努力することも、そのために金を貸し借りすることも、子どもを教育することも”できない”。妻が起こした借金の問題も解決してしまえば、子どもの悪戯のように無視される。
読了日:11月15日 著者:イプセン
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポさびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ感想
一人交換日記のあとに読むと印象が随分変わった。家族に背いて風俗に行く罪悪感を引き剥がし(同時に家族の要求に答えるために自分を形成していたことを発見し)、相手のために身だしなみを整え(同時に汚いまま同情を引いて相手と会話をしていた自分を発見)、嬢にエスコートされるまでがひとつの流れとして読める。”家”に抑圧されていた女性が風俗に生きたい、という個人的な欲望を通して精神的に自立していく様が実に爽快な一冊。
読了日:11月14日 著者:永田カビ
一人交換日記 (ビッグコミックススペシャル)一人交換日記 (ビッグコミックススペシャル)感想
二十代後半の女性に21時の門限を押し付けたり、求職活動から一人暮らしにいたるまでダメだダメだと因縁をつけて自立を妨害したり、明らかに適切な医療処置が必要とされている類の家庭のルポ。なのだが、そういった客観視点の欠如が逆に絵に描いたようなパターナリズムの洞察にもつながっていて圧倒される。特に人肌に飢えて銭湯に行って”一時的に”満足して、直後に落ち込んだり、レズ風俗に行ったはいいが、抱擁しすぎて頭が混乱する(情報と言い換えているのが良い)あたりは心理学の理論にはない生活感、時間間隔がある。
読了日:11月13日 著者:永田 カビ
惑星9の休日惑星9の休日感想
ガジェットはブラウンとかレムとか既存のSFからの引用だが、いい意味で小道具のディテールや抱えている時代背景に悩まされない。重力装置にはボタンや緻密な配線は描かれていないし、惑星にも岩石やクレーターといった衛星写真に必ず写っているようなものはない。とにかく、情報というか線が少ない(その意味で物語展開でゴリ押しする星新一とは異なる)のだが、筋立てのうまさとコマ割り(特に空白)を丁寧に構成することで、それらがガジェット(科学)が人々の生活のなかで機能していることがわかるようにできている。良い。
読了日:11月12日 著者:町田 洋
帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)感想
PTSD,TBIに悩まされ続けるイラク帰還兵についてのルポ。戦争と精神疾患について書かれた本は他にもあるが、介護する家族まで視野に入れたものは珍しいのではないか(その意味で、原題のThank you for your serviceをこのように訳すことは無神経だと思う。)悪夢に追われて妻を暴行しては情けなくなってショットガンを口に加えて咽ぶ夫、そんな”帰還兵”の行いを世間に知らしめるためにありもしない
読了日:11月10日 著者:デイヴィッド・フィンケル
上野さんは不器用 3 (ヤングアニマルコミックス)上野さんは不器用 3 (ヤングアニマルコミックス)感想
まるで失禁かと見紛うほどのこの発汗量!!
読了日:11月09日 著者:tugeneko
明るい記憶喪失 2 (MFC キューンシリーズ)明るい記憶喪失 2 (MFC キューンシリーズ)感想
マリさん 服!服!! 服忘れてるっ!! 今日あついし着たくなくて……百合なのかレズなのか境界が曖昧になってきた。
読了日:11月09日 著者:奥たまむし
明るい記憶喪失 1 (MFC キューンシリーズ)明るい記憶喪失 1 (MFC キューンシリーズ)感想
レズにも寸止めあり。
読了日:11月09日 著者:奥たまむし
虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)感想
ドミノ・ピザバドワイザーをこよなく愛する青年の罪と罰と要約することは可能だけど、切り抜いたところで面白い部分がごっそり抜け落ちてしまう。やはり、ポストコロニアルとかチョムスキーとか道徳判断とか、ガジェット類の味わいがこの作品を支えているのだと思う。というか、読んだの何度目だろう。
読了日:11月08日 著者:伊藤 計劃
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)感想
どれも恐ろしい問題なのだが、時系列順に並べるとSF小説、disaster filmのような読後感が残る不思議な本。老朽化して手がつけられなくなる河川管理施設、道路橋(崩壊時に建設から半世紀が経過しているというのがよい)、輸血用血液が枯渇し癌患者への輸血も手術もままならくなる病院、死んでも火葬場は他の遺体で溢れかえり受け入れてもらえない、かといって燃やすまで保管する親族もいない、というか葬式すら執り行われない。若者よりも老人、生者よりも死者が世を支配する世界が間近に迫っているというのは中々絶望的
読了日:11月06日 著者:河合 雅司
ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)感想
ディックの作風や趣味が凝縮された一冊。月から地球へ引き返した途端に刻印が変わって使えなくなるコイン、いつの間にか型式が古くなったレコード、旧型に更新されるエレベーター、1939年の西部戦線の戦況が掲載された新聞などの過去が生活感のある小物によって”捏造”されていく過程、それを生者の世界から見守り、これまた愛らしいマッチの広告を通して生き残る方法を伝えてくる老人。高い城の男(最後から二番目の真実でもいいが)やトータルリコールの視点逆転トリックといったエッセンスを豪快に盛り込んだ物語のつくりが実に楽しい。
読了日:11月05日 著者:フィリップ・K・ディック
のんのんびより 11 (コミックアライブ)のんのんびより 11 (コミックアライブ)感想
いいかーお前も学校という社会にはいったんだ 目上にはちゃんと敬意をもって接するんだぞ わかるか? <<知らね!!>>
読了日:11月02日 著者:あっと
少女地獄 (角川文庫)少女地獄 (角川文庫)感想
基本的にはサイコホラーというか心中物で、女性の方から首を切りにくる、という展開は同角川文庫の瓶詰の地獄と似ている。どれも違った人物描写、動機が魅力的で面白いのだが、表題の少女地獄だけは作風も異なり、またいっそう面白い。(ありもしない)田舎から先生に奈良漬が届いた、以前は先生も知っている(会ったこともない)お医者様の下で働いていた、その先生の仕草、言動は……と嘘に嘘を重ねて自己愛とどツボにハマっていく様子は哀しいのだが、
読了日:10月30日 著者:夢野 久作
アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))感想
続編公開を前に読み直して見たが、細部を検討すればするほどわからなくなる。特殊者と人造人間の感情移入の共通点の説明とイジドアがアンドロイドに脚を切られた蜘蛛を見て嘆き悲しむ場面の矛盾(下位の人間と共通点があると示す意味とは)、マーサー教を信じる人間と生命の神聖さを説いたアンドロイドの違いとは。カテゴリーの無効化を目的としているのだから、比較する基準を追い求めても意味がない、デッカードの転向物語として読めば割り切れるとはわかっているが、どうも腑に落ちない、妙に凝った設定が引っかかる。
読了日:10月26日 著者:フィリップ・K・ディック
瓶詰の地獄 (角川文庫)瓶詰の地獄 (角川文庫)感想
視点転換を利用した推理ものが多いが、どれもサイコホラー色が強い。(表題も内容はそれに近い)。星や道端のゴミクズ、石に人の顔や浮気現場を見つける少女を描いた「人の顔」、ロマノフの末裔が白軍の兵隊に宝石を撃ち込んで、その死体でプロポーズを図る「死後の恋」、心中文化に惹かれるサイコパスな元白人彼氏に殺されかけ、既の所で逃げ延びるもそのスリルが忘れられず人を襲う「支那米の袋」。一見すると狂った作品ばかりだが、不思議と艶めかしい印象がのこる本だ。
読了日:10月26日 著者:夢野 久作
トータル・リコール (ディック短篇傑作選)トータル・リコール (ディック短篇傑作選)感想
バーホーヴェンによって映画化されたトータル~をはじめとした映像、長編の原作を集めた短編集。目玉のトータルとマイノリティはもちろん面白いが、脇を固める終末もの二作品がなかなか面白い手強い、再び地上に出て戦争をする”ふり”をしていた彼らと再開する「地球防衛軍」(最後から二番目の真実として長編化)、放射能の嵐の中で喘ぐ人間が進化、適応したミュータントに席を譲る「訪問者」(怒りの神)。どちらもディックらしい発想の転換アウトサイダーへの優しい視線が注がれている。
読了日:10月24日 著者:フィリップ・K・ディック
地球最後の男 (ハヤカワ文庫 NV 151 モダンホラー・セレクション)地球最後の男 (ハヤカワ文庫 NV 151 モダンホラー・セレクション)感想
ウィル・スミスが表紙になるまでの男の中に十字架が埋まっているバージョン、”死者”が十字架の立っている棺を囲むバージョンの絵がとても良い。
読了日:10月22日 著者:リチャード・マシスン
完全なるワーグナー主義者完全なるワーグナー主義者感想
 バーナード・ショーによる指環解説本。20世紀前半の教条的なリベラリストらしい解読が特徴。ワーグナーと同じく革命にある程度理解があるおかげで、ラインの黄金からジークフリートまでの流れを貴族社会の崩壊と市民社会の誕生の戯画として筋を通して解説してくれている。ドイツ民族の神話としても参照される作品がリベラリストによって解体されるというのは皮肉なことだが、
読了日:10月22日 著者:ジョージ・バーナード ショー
ニーベルングの指環 その演出と解釈ニーベルングの指環 その演出と解釈感想
 1976年のバイロイト百周年を記念して「<指環>はいま」と題して開催されたシンポジウムの記録。参加者は指揮者から歴史家まで様々だが、本書は特に演出家に重点を置いている。興味深いのは、ジークフリートプルードンバクーニンといった社会主義陣営と捉えてバーナード・ショー的な読み方をする舞台美術家がいる一方でパトリス・シェローがまっとうな解釈を提示していることか。
読了日:10月22日 著者: 
少女終末旅行 公式アンソロジーコミック (MFC)少女終末旅行 公式アンソロジーコミック (MFC)感想
終末ものの世界観を共有しているだけなんだろう、くらいの気持ちで読みはじめたが、割と”虚無”を共有していて面白かった。デジカメの合成機能で遊んだり、ふたりの落書きのなかに物語を見出したり、フィットネスクラブの彫像に宗教を見つけあるあたりは間違いなく原作の血を継いでいる。まぁ、そうでなくても(普段が鉄帽に軍服という身なりだけに)ふたりのセーラー服姿は福眼であった。
読了日:10月21日 著者: 
はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42) (ハヤカワ文庫SF)はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42) (ハヤカワ文庫SF)感想
経済が安定し富犯罪が根絶されたはずの惑星で起こった殺人事件の物語。人口増大に悩まされつ、それを支えるロボットにフランケンシュタインコップレックスを抱いていて歩みを止めた地球人の「鋼鉄都市」と対になる作品で、こちらは宇宙人によるロボットの大量生産によってあらゆる家事、仕事は自動化された結果、人口の増大を嫌われ、少人数の優れた者による統治を好むようになっている。人々はカメラを通してのみ他者と通じ、医者もよほどのことがない限りカメラで患者を診察するのだが、
読了日:10月21日 著者:アイザック・アシモフ
鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)感想
RURの自由意志を持ったロボットに三原則で制約をかけて労働者側に権威を引き渡し、人口論で盛ってミステリーで割った感じのSFというかミステリー。血と土への執着なんて放って、ロボット共に宇宙へ飛び出せば何もかも解決するよ、とスパッと割り切ってしまえるあたりが50年代らしい。われは~と比べると切れ味はよくないが、主人公2人のキャラ立ちが良い。特にロボットに偏見を持った刑事ベイリがロボットにでれていく過程と彼を相棒と呼ぶロボダニールのコンビがかわいい。
読了日:10月20日 著者:アイザック・アシモフ
伊藤計劃記録 II (ハヤカワ文庫JA)伊藤計劃記録 II (ハヤカワ文庫JA)感想
06から09に死去するまでのはてな、小説二作品のインタビューをまとめたもの。転移がわかってからの記事なので死の恐怖に怯える、という記述がちらほらしてはいるのだが、フィクションを通して現実を見るスタンスが変わっていない。「死にたくない」症候群に対しては「脳の各機能がそういう感情をジェネレートしやすい方向に傾斜しているのだな」と受け流そうとし、腫瘍をとりのぞくために入れる器具がガンマ線ナイフだと知ると、そのSF的語感にわくわくする。その姿は悲痛だが、SF読みとしてはちょっとうらやましくもある。
読了日:10月18日 著者:伊藤 計劃
伊藤計劃記録 I (ハヤカワ文庫JA)伊藤計劃記録 I (ハヤカワ文庫JA)感想
伊藤計劃というか、映画好きボンクラの闘病記。基本的に映画理論を齧った美大生ののほほん映画評なのだが、体調が悪化するに従って切り口が鋭くなっている。癌を患えば当然そうなる、というのは理屈だが、伊藤の場合は悪化しておボンクラであること辞めずに、その上で鋭敏になっていくのがすごい。(安部公房も似たような事をしてましたが)
読了日:10月14日 著者:伊藤 計劃
ロボットの時代 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)ロボットの時代 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)感想
(前書きでアシモフ自信がラブコールを送っていることからも明らかなように)よほどスーザン・キャンヴェルが気に入っていたのか、彼女のエピソードが半分を占めている。事故で混乱している危険な現場にロボットを派遣する義理はない、科学者を遅れと啖呵を切る「危険」、挙動を真似て人を弾き飛ばしたロボットを(明らかに一条違反にもかかわらず)”学習能力がある”と賞賛する「レニィ」など、彼女のマッドサイエンティストな振る舞いが光っている。
読了日:10月11日 著者:アイザック・アシモフ
われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)感想
元祖ロボット三原則用例。といっても身を挺して人間を助けるのはロビィくらいのもので、ほとんどは開発者の意図しない行動とそれを裏打ちする三原則の解釈からなっている。人間に対する機械の優越を確信して”保護”のために宇宙ステーションの管理権を奪うロボ、星間旅行船の設計中に移動中の”一時死”を発見して答えを出せない陽電子ロボと幼い自我を持つが故に我慢し、回答を出すロボ。規則の価値をただ訴えるのではなく、三つの原則から様々な禁じ手を発見しているのが素晴らしい。
読了日:10月07日 著者:アイザック・アシモフ
藍より青し (1) (Jets comics (735))藍より青し (1) (Jets comics (735))感想
葵の表情とか着物の線とか寝相とか肉付きとかシチュエーションとか、たぶん全17巻中もっとも官能。青年誌連載なのが悔やまれる。
読了日:10月04日 著者:文月 晃
クラシック音楽の歴史 (角川ソフィア文庫)クラシック音楽の歴史 (角川ソフィア文庫)感想
クラシックの歴史を音楽用語、演奏記号を一切使わずにクラシックの歴史を説明した本。神への捧げ物として教会が独占していた音楽がじょじょに貴族の所有物(屋敷、バッハ、ハイドン)、庶民の娯楽(コンサートホール、楽譜、ベートーヴェン)、国民の武器(国民楽派チャイコフスキー)と聴衆と媒体が転じていく様子がダイナミックにまとめられている。楽譜がないと何も語った事にはならないジャンルなので、これほど気軽に読める本というのは貴重かもしれない
読了日:09月27日 著者:中川 右介
レコード芸術 2017年4月号レコード芸術 2017年4月号感想
レコ芸にしては珍しく、聴き方を問うような特集で面白い。病を押して指揮に臨んだバーンスタインにセル、スヴェトラーノフ、それに朝比奈。ピアニストを辞めて、いよいよこれから指揮者になろうとした時に亡くなったグールド、引退直前のギリギリのところでステレオ録音を残すことのできたトスカニーニと残せなかったフルヴェン。指揮者の最後の輝きや無念が吹き込まれた録音があるかと思えば、ヨッフムのようにブルックナーと、あるいはバルビローリのように大好きなエルガーと共に逝った者もいて、出来不出来を超えた価値を感じさせてくれる
読了日:09月26日 著者: 
人間がいっぱい (ハヤカワ文庫SF)人間がいっぱい (ハヤカワ文庫SF)感想
水に食料、それに住居が不足した世界で殺人犯を追う刑事の物語。水食料の配給に並ぶ女たち、漏水を聞きつけて詰めかける群衆、断水で暴動を起こす農民、配給停止で暴れだす民衆には考えさせられるものがある。ただし、欠乏をテーマにしている割に空腹感や喉の乾きのディテールは不足気味で、これならオーウェルの放浪記やディケンズ、最近ならマッカーシーザ・ロードなんかを読んだほうが得るものは多いのではないかとか思ってしまう。
読了日:08月31日 著者:ハリイ ハリスン
レベル・セブン―第七地下壕 (1960年)レベル・セブン―第七地下壕 (1960年)感想
核戦争後の報復のために設置されたシェルターが戦争を乗り切るまでの物語。ボタンを淡々と押していく描写だけで終パッと終わってしまう戦闘描写、逆にじわじわと放射能を浴びて、上層から死滅していくシェルターと核戦争を真正面から捉えている。核戦争直後を舞台にした作品といえば「渚にて」があるが、この作品はそれよりも当事者に近いし、また切実でもある。「博士の異常な愛情」や「Fallout」の副読本としてもおすすめの一冊。
読了日:08月23日 著者:モルデカイ・ロシュワルト
最終兵器の夢――「平和のための戦争」とアメリカSFの想像力最終兵器の夢――「平和のための戦争」とアメリカSFの想像力感想
合衆国の兵器開発史をSF作品を参照しながら解説した批評本。冷戦期に重点が置かれているため終末モノも登場はするのだが、定番といっていいMADMAXはもちろん、地獄のハイウェイにも触れないのが興味深い。代わりにムーアの「ロト」(日本では短編集「破滅の日」に収録されている)を例にして、こういった作品はロビンソン・クルーソーや西部劇にある開拓魂の再現であって、核戦争には関係がないということが語られている。日本で北斗の拳といった作品が流行っている状況を省みると色々と考えさせられるものがある。
読了日:08月20日 著者:H.ブルース・フランクリン
自動車爆弾の歴史自動車爆弾の歴史感想
自動車爆弾の運用例。匿名性を持ちながら安価で、事後には必ず社会的影響力を約束するという、何でもありな凶器を個人、組織犯罪の区別なく紹介しているのが面白い。ウォールストリート爆破の記述があるかと思えば、バス学校爆破事件について語られたりと歴史を縦横無尽に駆け巡る様子は一種のフェチズムを感じさせるほど。政治、思想的な背景や社会問題で視点を統一しようとする作品ではないので、読み切るのにやや体力が必要だった。
読了日:08月03日 著者:マイク デイヴィス
巨眼 (1963年) (ハヤカワ・SF・シリーズ)巨眼 (1963年) (ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
冷戦の影響を受けた(半分)ポストアポリプスもの。世界各地で発生している地震の原因を互いになすりつけあって、核戦争の準備をはじめる米ソ、ソ連放射性物質を海に撒いたとデマを聞いて、光っている人間やネガにそれらしいものがないか探そうとする米市民、地政学的に、精神的に一点に収縮するラストの展開と巨視的なのが面白い。いまなら米国への不信や第三世界のいざこざで何ページも使いそうなところを米ソの信頼関係に絞っているあたりに時代を感じる。
読了日:08月03日 著者:マックス・エールリッヒ
ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))感想
南極の奥深くに眠る巨石群と底に住むペンギンたち、隕石から漏れた”色”に植物や動物が汚染、紫外線の影響で別の世界が見えてしまう男とウルトラQトワイライトゾーンを思わせる作品が多い。インスマウスにあった磯臭さや田舎の闇は消えているし、小説としてどうかと考えると微妙なところ。映像化してこそ映えるのではなかろか。
読了日:07月26日 著者:H・P・ラヴクラフト
屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)感想
技術的な解説なしに、ただ廃棄されたコロニーで中二病患者がチキンレースを競うという話をガガガ文庫ではなく早川JAでやるのは何か違うような気もするが、自分も中二病の端くれなので楽しく読むことができた。
読了日:07月26日 著者:江波光則
我もまたアルカディアにあり (ハヤカワ文庫JA)我もまたアルカディアにあり (ハヤカワ文庫JA)感想
ユートピアディストピア化が完了した社会で暇を持て余し、果てに引きこもになってしまうあたりは「一九八四年」の、放射能の嵐の中であってもバイクに跨がろうなんて考えるところは「渚にて」の真逆をいってくれているのが嬉しい。SF小説にありがちな技術倫理を無視しているところや、すべてが自分の精神的限界を試すために身体の義体化を試すおっさんからはじまっているあたり、技術的、精神的にサイバーパンクの王道をいっている作品ではないだろうか。
読了日:07月26日 著者:江波光則
方舟さくら丸 (新潮文庫)方舟さくら丸 (新潮文庫)感想
核戦争後の荒廃した世界を生き抜くために忘れ去られた鉱山を乗っ取り、便器を中心にキッチン、娯楽を設置してぐるぐる循環するように生活して、しまいには片足を突っ込んで死にかけてしまう主人公が核シェルターの戯画のようで面白い。終末モノとして読みはじめたが、中身は砂の女とユープケッチャを足したような作品だった。
読了日:07月26日 著者:安部 公房
交響曲読本 (ONTOMO MOOK クラシック読本)交響曲読本 (ONTOMO MOOK クラシック読本)感想
2Bに慣れてきた頃に、このまま交響曲ばかりを聞いていたら、指揮者選び以外に新曲を愉しむ術がなくなるのではないか、とか思っていけど、この本を手に入れフルヴェンやバーンスタインまでも交響曲を書いていると知り、(ヴォーン・ウィリアムズも知らない人間の)浅はかな考えだと思い知らされた。
読了日:04月29日 著者: 
オントモ・ムック/指揮者のすべて (Ontomo mook)オントモ・ムック/指揮者のすべて (Ontomo mook)感想
フルヴェン、カラヤンといった大指揮者からクレンペラークナッパーツブッシュといった異端者まで同じページ数(フルヴェンとノイマンが同じ文字数で紹介されている)、価値判断を廃したデータ(順位付けなしの演奏解釈の特徴、名盤、経歴のみ)で紹介した本で、正直何かを貶さないと気が済まない吉田や宇野の本よりも参考になる。
読了日:04月29日 著者: 
聴きたい曲が見つかる!  クラシック入門 ~毎日が満たされるシーン別名曲 (大人の自由時間mini)聴きたい曲が見つかる! クラシック入門 ~毎日が満たされるシーン別名曲 (大人の自由時間mini)感想
春の祭典を世界征服を狙う悪のテーマ、芥川の交響管弦楽のための音楽を戦闘モード等々、テーマを設定するセンスは抜群で視野を広げるにはもってこいの本(私もシベリウス沼にはまってしまった)、なのだけれど、「ド定番」にシェーンベルクの「清められた夜」の名があったり、甘い雰囲気をつくるためにラフマニノフ交響曲第二番がおすすめされていたりと容赦がないので使い方がちょっと難しい本ではある。
読了日:04月29日 著者:曽我 大介
クラシック音楽のすすめ (講談社現代新書 51)クラシック音楽のすすめ (講談社現代新書 51)感想
コンサート会場で演奏の邪魔をしている生活音も雰囲気の一部とか、ライヴはアンサンブルが乱れるところがいいとか、レコードを聞く時はできるだけ人を集めて静粛かつわいわい聞こうとか、おすすめの愉しみ方がいちいち無垢で、(スタジオ音源比較で汚れきった)心が張り裂ける思いで読んだ。
読了日:04月29日 著者:大町 陽一郎
ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))感想
蠢いている何かや何かの偉大さは示すのに、具体的な姿形を形容詞の渦で混乱させつつ恐怖させるあたりは砂の女の村民や砂漠の思想に通じるものがあるし(そもインスマウスが漁村のような何かだし)、宇宙的恐怖の根底を成すものは実は実存的不安なのではないかとか思った。
読了日:04月29日 著者:H・P・ラヴクラフト

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