2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

 五感では捉えがたい火星人との触れ合い、彼らの住む迷路のような都市が幻想的で美しい作品。地球人による旧都市の発見と破壊を防ごうと宇宙飛行士の身体を乗っ取り自滅させようとする先住火星人、次元差によって透過して見える身体の向こうに星空を発見するふたつの星の人々、火星への植林中に絶命し自然の中に消える男。火星人がなぜ半透明なのか、地球の文明を火星に植え付けてはならない理由とは何なのか、クラークなら教科書的に説明しそうなところは一切語らず、ただ星空や廃墟の情景描写によって根拠を示そうとしているあたりが非常にブラッドベリ的で心地よい。(文学趣味的であることは否めないが)

 特に、そういったイメージが地球壊滅をきっかけに火星人(おそらくオーバーロード、この作品はブラッドベリ幼年期の終わりでもある)との同化へと切り替わる部分が批評を臭わせつつもしっかり幻想的なのは流石だ。特に、次元の階段を昇ったあとも、なお異星でホームドラマを演じ続ける家族からは地球の土に根付いた力強さを感じた。

 いまやFalloutといったゲームで定番となっている廃墟の中で生き続ける家具たちやも、ブラッドベリの手にかかれば地球の文明が生きていた時代と結び付けられ郷愁を呼び、炎は彼らとの交代を誇示するように燃え盛る。恐ろしくも美しいという言葉の似合う素晴らしい作品だった。

memo

p.11,61,103,126,140,222,246,275,313

 

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)