印象 2013/06/01-

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日本戦争映画評(戦後)

 

 

ゴジラの精神史 (フィギュール彩)

ゴジラの精神史 (フィギュール彩)

 

 ゴジラ歴史主義批評、サンフランシスコ講和条約から2年後の1954年11月3日、本格的な戦後復興を表すように現れてから田中友幸らの手で一時的に中断される95年までの間にゴジラが背負っていた歴史的映画技巧背景を分析。日本復活を象徴して”在日米軍の代わり”に出動する防衛隊、ネオンによって鮮やかに照らしだされる東京、銀座は松坂屋デパート。そういった戦後の様相と勝鬨橋を破壊するゴジラを罵倒する「ちくしょう」という言葉、負傷者で溢れる病院(東京大空襲)、オキシジェンデストロイアの投入とゴジラ死すの報(玉音放送)といった大東亜戦争のイメージを重ね合わせることで戦後の変化を表しているという指摘は非常に興味深い。 また、台本下書きに記された設定を映画と比較し、ゴジラを保護しようとする山根博士の行動を帝大時代の支那発掘調査と結びつけたり、芹沢博士の満州時代の研究と右目の傷を軍部の化学兵器研究と組み合わせるなどして戦中とのつながりを追っているのも面白かった。

p.6,60,69,76,95,105,161,165,181,190

 

モスラの精神史 (講談社現代新書)

モスラの精神史 (講談社現代新書)

 

 モスラ歴史主義批評。蛾の怪獣という東宝特撮史上でもユニークな存在を古代の養蚕業からポストコロニアルまでを押さえながら解釈。東宝専属ではなく、文壇のロマンチシズムから生まれた斑模様の怪獣、関沢の南方作戦従軍の経験から生まれたインファント島、彼ら旧帝国兵の未練と南洋諸島の弱小民族の怒りを汲んでアメリカを強襲するモスラ地位協定を連想させる外交特権を利用して小美人を誘拐する片言の日本語を話す白人。シネスコ4chサラウンド収録という作品のインパクト故に見過ごされがちな背景を同時代的な視点で丁寧に追っているのが面白
 基本的には昭和三十六年版の解説だが、比較対象として中村真一郎らによって書かれた小説版を用いているのも興味深い。国会議事堂に繭をつくり立法機関に銃口を向けさせることで安保的状況をつくった原作とモダニズムの象徴を破壊した映画、ジャーナリストの独走によって完結している映画に対して、原作では言語学者の小美人との絆とそれを守ろうとする記者の良心、アカデミズムとジャーナリストの連携がテーマとなっているという指摘は重要なものだろう。

p.48,64,74,78,105,114,184,216,243

 

 

 

 


喜八作品の中ではいちばん切実な映画だと思う。前日譚の『最後の早慶戦』が思い出の直球勝負、チャールストンが諦念のなかにあったのに対して、この映画はまだ戦中派として体験を処理しようとする意気込みが感じられる。特に最後の十数分を戦争体験の継承問題、もとい小林桂樹の管に費やしているのは恐ろしい。
鑑賞日:10月22日 監督:岡本喜八

 

社長太平記 【東宝DVDシネマファンクラブ】
 

 

昭和三十四年公開の社会派喜劇。戦記ブームに乗っかった作品で巡洋艦時代の階級が戦後の下着会社で逆転しているという設定。それぞれ軍隊経験を引きずっており、海軍キャバレーに入り浸る加藤大輔ニューギニア帰り)、社内でふと思い出したように軍隊言葉を喋くる小林桂樹支那帰り)など中々面白い。森繁演じる牧田二等兵がいまいち欠けるのだが、これは教練を拒否した戦前派の証か。

 

マタンゴ  [東宝DVD名作セレクション]

マタンゴ [東宝DVD名作セレクション]

 

 


昭和三十八年版アナハタン。基本的には丁度十年前に公開された『アナハタン』と同じ共食い闘争が主筋で、ここでも水野演じる魔性の女を巡っての争いが描かれている。(このあたり非ホジスン的)佐原や土屋の痙攣演技が中々味わい深いが、その共食い闘争にきのこという一筋の抜け道を作っているのがこの作品最大の魅力。単なる外的として描かれがちな怪物を人間と生理的な繋がりを持つ者、共同体の破壊者として描かれているのが非常に面白い(この辺り不信を題材とした物体Xとも異なる)。きのこの抽象度の高さ(非自然)もあって特撮の水準も高い。

 

妖星ゴラス  [東宝DVD名作セレクション]

妖星ゴラス [東宝DVD名作セレクション]

 

 


昭和三十七年のアルマゲドン。燃え盛り迫る妖星ゴラスから乗り物ごと逃げてしまおう、という大味な設定ながら物語を作戦映画としてちゃんと完成させているのがすごい。黒板に示される計算式、その理論を実現せんがために急ピッチで南極に建設されるジェット噴射基地、衝突までのカウントダウン等々がたまらない。個人的には、作戦完了後の工員らの万歳三唱が好き。画面としてこれほど統制のとれたものは少ないと思う。(色々言われているけど、当時は会社設立とか業績達成とか何かあれば万歳してたので戦争と関連付けるには流石に無理があるかと)続

 

 

日活100周年邦画クラシック GREAT20 ビルマの竪琴 HDリマスター版 [DVD]

日活100周年邦画クラシック GREAT20 ビルマの竪琴 HDリマスター版 [DVD]

 

 

三國や西村など、戦中派を顔に刻んだような俳優の演技が素晴らしい。再び、この作品が映画化されたとしても、兵隊たちが水嶋を求めて駆け回る姿や、隊列行進で祖国へ向かう姿は再現できないだろう。
鑑賞日:10月20日 監督:市川崑

 

透明人間 [東宝DVD名作セレクション]

透明人間 [東宝DVD名作セレクション]

 

 

小田基義の特撮SF映画。透明人間の存在確認と社会恐慌、それを利用するギャング集団と東宝特撮らしい社会風刺映画に仕上がっている。戦争に人生を狂わされた気弱な男を演じる河津清三郎が実に強烈。画を崩すほどに大根な河津だが、悲嘆にくれる今作の表情だけは格別で美しい。 余談 特撮映画の紹介本でこの写真を使っているものを何冊か見たことがあるけど、SFではなくSM映画にしか見えないよ。
鑑賞日:10月19日 監督:小田基義

 

海底軍艦  [東宝DVD名作セレクション]

海底軍艦 [東宝DVD名作セレクション]

 

 

本多猪四郎大東亜戦争シリーズ転向編。ラバウルで南方作戦の失敗、モスラで南洋に散った英霊たちに黙祷を捧げた彼が、今度は「世界的見地」まで視野をを広げて超古代文明と対決する。容姿性格共に『日本のいちばん長い日』の小園大佐そっくりの男が、やはりここでも大東亜戦争を引きずっている。ただし、ここでは先に戦争映画からの離脱を果たした上原謙の説得、娘の涙によって敗戦を受け入れ、その力をムー大陸との対決に注ぐことで転向を果たしている。

 いまでこそ神宮寺大佐の態度は基地外に見えるが、この作品が公開された昭和38年当時、同じく大日本帝国に従事し敗戦を知らなかった小野田少尉フィリッピンでゲリラ戦を展開していた事を考えると、むしろ頭がおかしいのは冷静そっちのけで世界平和に貢献しようとする日本側とも思えてしまう。何にせよ、大東亜戦争の遺物を戦後も利用しようとしている辺り、かなり面白い映画である。

 

地球防衛軍  [東宝DVD名作セレクション]

地球防衛軍 [東宝DVD名作セレクション]

 

 

昭和三十二年の地球移住計画に燃える宇宙人とそれを守らんと新兵器を投入する地球防衛軍の大戦争。昭和戦記ブームを目前に控える中で生まれたSF映画で、とにかく軍事描写の熱い作品。αβの空戦など直接的な戦闘、民間人に退避を呼びかけつ防衛戦を張って応戦する創設三年目の自衛隊、モゲラの進路を断つために爆破される鉄橋、アウトレンジから光線を浴びせるマーカライトファープ、段取りを予め踏んだ上で描いているのが素晴らしい。おまけに防衛軍隊長は藤田進、戦時教育世代が感激する姿は想像は難くない。(爺と父談)

 公開は西暦になおすと1957年。中東戦争開戦から既に十年が経過しようとし、現に前年の十月には第二次中東戦争が勃発。この作品でも宇宙の流浪の民ともいうべきミステリアンが地球への移住を考えているが、こちらではミステリアンは撃退され宇宙へ追い出されている。中東で彼らが独立を宣言した結果が現在のパレスチナだが、その反対は地球防衛軍ともいえる。その影響関係はさておいて、民族の本能ともいうべき血の存続と安住地の確保に失敗したミステリアンがその後どうなったのか、本筋に関係のないことながら考えてしまう。

 

 


水爆実験で生まれた怪獣が東京を襲う映画。ハリウッドで誕生した巨大な生物が都市を襲うという発想(キングコング等)に丁寧な理屈付けがされているのが印象的。誕生原因としての水爆批判(第五福竜丸事件)、疎開する都民、炎上する東京、それを知らせる無線、死傷者で溢れる病院(東京大空襲からの引用)が作品に恐るべきリアリティを与えている。素晴らしいのは前知識がなくてもそれなりに楽しめるところ。得体の知れない怪物が大戸島を襲い、東京を火の海にしていく様子は単純に恐ろしく、またそれ故に説明的な反戦映画以上の説得力を持っている

 

ゴジラの逆襲 [60周年記念版] [DVD]

ゴジラの逆襲 [60周年記念版] [DVD]

 

 


昭和三十年の大阪大空襲。前作と同様に倒壊する大阪城、浸水する大阪地下鉄など米軍の戦略爆撃からの引用が多数見受けられる。作品としては兎に角特撮部分の完成度が高い作品で、大阪大空襲の再現、炎上するコンビナートは都市の瓦礫化に留まっていた前作を大きく上回る出来。今作では佐藤勝がサントラを担当しているが、こちらも不気味で伊福部節に負けてない。後に対キングコング、対モスラ、対メカキングギドラ等で登場し、洗練化されていくことになる「怪獣と企業の構図」がはじめて登場。

 

 

 

阿曽山から現れた怪鳥を描いた映画。 狂風にひっくり返る九州の市街が圧巻。薙ぎ倒される岩手屋百貨店、ひっくり返る西鉄路面電車、瓦屋根が巻き上げられていく姿は爽快にすら感じる。後のキングギドラでも衝撃波破壊は描かれるが、木造建築や瓦屋根がふわっと風にのるような精密感溢れる特撮はこの作品にしかないように思う。 まだまだ石炭業が盛んな時節、昭和三十一年に作られただけあって登場する炭鉱夫の顔も中々いかつい。冒頭人食いヤゴが登場するというのも面白かったが、舞台を薄暗い炭鉱にしたことで何倍も泥々した絵面に仕上がって

 

モスラ  [東宝DVD名作セレクション]

モスラ [東宝DVD名作セレクション]

 

 


南の島から誘拐された小美人を蛾の幼虫が救い出す映画。前作ラドンと同じ空ものだが、原住民からの略奪と虐殺(さらばラバウルからの引用であり、後のピジン化したファロ島)、放射能に汚染された島(ゴジラ)が登場し、やや社会派よりの物語になっている。小美人誘拐と虐殺の末、追い詰められた島民の祈りがモスラの誕生へと接続されていく場面は本多的南洋の傑作。また、ビル群より背の低い幼虫がメインなだけあって、ビル群、ダムの破壊場面に迫力満点(ラドンの瓦嵐よりやや精密さに欠ける

 

 

 


昭和三十七年のキングコング。覆面化したキンゴジの造形絡みはさておいて、モスラに引き続いて登場する原住民が興味深い。場所はソロモン諸島のファロ島、本多史でいえば池部良が散った場所。南方作戦の名残として、住民たちはピジン化している。訪れた高島忠夫は日本人の通訳に日英接触言語の翻訳を頼み、トランジスタの開発によって小型化したラジオで説得を成功させる。この地で聞いた伊福部の子守唄が最終的に都内で暴れまわるコングを大人しくさせる最終兵器となるラストは必見。
鑑賞日:02月13日 監督:本多猪四郎

 

モスラ対ゴジラ  【60周年記念版】 [DVD]
 

 


昭和三十九年の愛知大空襲。再建五年目の名古屋城天守閣、 海軍燃料廠に変わって建設された石油化学コンビナートが蹂躙されている。本筋はモスラの発展型ともいうべきもので、卵を奪われたインファント島民が守銭奴見世物小屋の興行主と対決するというもの。一見モスラのシナリオそのものに見えるが、モスラや幼虫が引き起こした被害がゴジラ退治のどさくさで帳消し(キンゴジと同じ)になっており、怪獣の来日自体を悲劇として描いたそれとは異なる。
鑑賞日:02月11日 監督:本多猪四郎

 

 


昭和39年の怪獣格闘激。 格闘劇へ路線を変更したことで観点も大きく変化。ゴジラの足元から犠牲者は消え、代わりに金星の被災者がキングギドラの危険性を叫んでいる。これにより人類の防衛力は怪獣に対する自衛隊から宇宙怪獣に対する地球怪獣へと枠組みが大きく移動した。地球外から来襲したキングギドラに対して怪獣達が共闘線を張っているのが印象的。ゴジラの熱線、ラドンの狂風、モスラの糸がごちゃっとまざった決戦は中々迫力がある。
鑑賞日:02月17日 監督:本多猪四郎

 

宇宙大怪獣ドゴラ  [東宝DVD名作セレクション]
 

 


昭和三十九年に007から影響を受けて制作された、と言われている作品(まだDr.NOしか公開されてない年なので暗黒街からの影響のが大きい印象):夏木陽介とダン・ユマの掛け合いはさておいて、空中への巻き上げ特撮が凄まじい。撓みながら中に浮き上がる若戸大橋筑豊炭田から巻き上げられる石炭は必見。 公開当時はオリンピック景気真っ盛りの時節、この映画でも博士が特急さくらに乗車する傍らで、何気なく筑豊炭田の廃坑が示唆されている。高度成長期を前にして失われていく風景を俯瞰的に切り取っているという意味でも貴重な映画。

 

怪獣大戦争 【60周年記念版】 [DVD]

怪獣大戦争 【60周年記念版】 [DVD]

 

 


昭和40年のX星侵略。物語の質を落としかねない怪獣同士の格闘を侵略SFにはめ込んだ構成が素晴らしい。後にマーズアタックで引用される殺人音波、平成ゴジラで引用される電磁波操作のアイデア、地下からにょきと生えてくるX星エスカレーター、シンセを奏でながら宙を舞うアダムスキー型、妨害電波を放つ光戦車の妙な近未来感が気持いい。また単に未来的であるだけではなく、殺人音波を流す際にわざわざニュースで「御自宅のラジオを~」と協力を求める流れが当時を思わせ面白い。文字どおり人類総力でX星人を殺しにかかるラストは必見。

 

 

 


昭和四十年のフランケンシュタインの怪物、巨大化を止められない人造人間の悲劇。この路線の作品はシェリー以来延々と作られてきたが、これほど原作を意識して発展させた作品は珍しい。独に生まれ遣独潜水艦作戦によって日本へ運び出され、米軍の原爆投下によって洗礼を受け戦後自由主義の中でふんぞり返るジャーナリズムのせいで山に追いやられる……という戦前戦後の野蛮を盛り込んだ設定は、創造主の野蛮も描いた原作のスタイルを見事に引き継いでいる。さらばラバウルゴジラ以来ずっと大東亜戦争を回想し続けてきた東宝特撮の集大成だ

印象的だったのは怪物が山に篭って自衛隊をやり過ごそうとする場面。普段は勇ましく聞こえる自衛隊マーチが、この映画では冤罪で追われる身となった怪物の悲愴を見事に演出している。ひねくれてはいるが伊福部節ともいわれる楽曲を逆説的に用いている所が非常に素晴らしい。

 


昭和四十二年のキングコング。マクロにもミクロにも手を入れた東宝特撮黄金期最後の作品。兎に角東京タワーを登りながらのコングとメカコングの死闘が凄まじい。オリジナルコングも摩天楼から落下して終わるが、その登る過程をここまで精密につくったコング映画はこれだけだろう。世界平和にまで手を広げたシナリオの出来はともかくとして、東宝特撮のひとつの到達点、実質的には最後の円谷特技監督作品として素晴らしい映画。
鑑賞日:02月14日 監督:本多猪四郎

 

怪獣総進撃 [60周年記念版] [DVD]

怪獣総進撃 [60周年記念版] [DVD]

 

 


昭和四十八年、昭和ゴジラ最後の総力戦。幕締めを予定してつくられただけあって歴代の怪獣がほぼ全て登場、ニューヨークからモスクワにまで又をかけ暴れまわる壮大なつくりになっている。 物語は怪獣大戦争の亜種ともいうべきもので、国連科学委員会とキラーク星人の組織的な対立をメインに据えている。以後の昭和ゴジラが個人同士の人間ドラマに重点を置き、ロングショットによる作戦場面を削っていくことを考えると中々味わい深い。
鑑賞日:03月11日 監督:本多猪四郎

 

ゴジラ対メカゴジラ [60周年記念版] [DVD]
 

 


昭和四九年の沖縄決戦。置物争奪戦はさておいて、兎に角メカゴジラの動きや移動砲台的な攻撃が印象的な作品。虹色のスペースビーム、無数のフィンガーミサイル、そしてそれらの爆炎と煙霧で画面が見えなくなる光景には痺れた。本編には平田昭彦小泉博、佐原県時など懐かしい面子が出演しているが、特撮とのかみ合わせが悪く活用できていないのが辛い。

 

メカゴジラの逆襲 [60周年記念版] [DVD]
 

 


昭和五十年のブラックホール第3惑星人。本多猪四郎が監督した最後の映画でもありゴジラ映画でもある。はじめて中野昭慶とタッグを組んだ作品だが緻密で計算された都市破壊(爆破)、避難シーンの合成が映画の雰囲気と自然に溶け合っていて実に見事。また、群衆避難場面をはじめ伊福部節なども復活、(福田監督作品にはなかった)災害としての怪獣像が重々しい雰囲気を漂わせている。浮き沈みの激しかった昭和ゴジラ映画だったが、最後にしては中々おもしろい作品として仕上がっていた。
鑑賞日:03月02日 監督:本多猪四郎

 

 

 

ゴジラ(1984年度作品) [60周年記念版] [DVD]
 

  84年の東西冷戦怪獣映画。三十年前、戦後のどん底に現れ東京を火の海にした怪獣が、高度成長期を経て繁栄を謳歌する日本に再上陸。
 東京大空襲の比喩的表現だった初代を引き継ぎ、今作は米ソ間で揺れ動く日本を風刺。日本近海でのソ連原潜の沈没、怪獣出現を保安上の問題と捉え、新宿への核ミサイルの発射を要請するアメリカとソ連、それを非核三原則で退ける小林桂樹首相のやりとりは84年の日本の地政学的立ち位置を見事に表している。
 特撮もバブル期の情景を反映している。停電により一斉に明かりが消えてゴーストタウンと化す首都、コンクリを撒き散らしながら横転する高層ビル、鷲掴みにされ乗客を振り落とす新幹線、熱線によって焼き潰される銀色の自衛隊超兵器。奇跡の復興を遂げた日本の100万ドルの夜景が一夜で焦土と化す光景のなんとおぞましいことか。
 米ソ冷戦が産んだ奇跡の怪獣映画。

 

ゴジラvsビオランテ [60周年記念版] [DVD]

ゴジラvsビオランテ [60周年記念版] [DVD]

 

  89年のG細胞兵器。84年の襲撃時に採取されたゴジラの細胞とバラ、人間を組み合わせ生まれたビオランテゴジラ芦ノ湖で激突。
 襲撃を受けるのは関西最大の都市、大阪。1945年の大空襲、55年のゴジラアンギラス上陸によって火の海と化した都市が再び瓦礫の山にされてゆく。東京のようにコンクリートがなぎ倒されていくわけではないが、家々が”軽く”足で蹴散らされていく様子は怪獣がまさに災害であることを思い知らせる。
 東西冷戦を描いた前作から作風は一転、大国の板挟み状態から抜け出して繁栄の絶頂にあった日本を風刺。経済的繁栄によって崩壊した生命倫理と相次ぐゴジラ襲撃によって高まる国防意識が絡み合い、ビオランテという生物兵器、G細胞の兵器運用として完成する様子が如何にもバブル期で面白い。ゴジラの細胞をバラに組み込むところなどは、その象徴だろう。
 日本に対抗する国は武力を持って制圧しようとしていた共産圏から経済、諜報によって国益を犯そうとする中東へと変化。大阪に拠点を置くダミー会社からAK片手に研究成果を奪い取ろうとする光景もアフガン戦争の世界情勢を繁栄しているようで印象深かった。

 

  91年の怪獣災害映画。太平洋戦争、核実験競争の中を生き抜いたゴジラと未来からの刺客キングギドラが北海道、東京で激突する。
 前作同様、主題は繁栄を極めた日本への警告。23世紀に米ソを追い越し巨大国家となった日本を過去に遡って破壊しようと未来人がキングギドラを差し向ける、という今では考えられない、何とも贅沢な脚本になっている。豪邸に住む雑誌記者、一度死んだゴジラを原潜で蘇らそうとする財界人など、登場人物も綺羅びやか。いまの日本にはない明るい未来が煌々と輝いている。
 興味深いのは、そのキングギドラと戦うゴジラが、太平洋戦争の南方作戦中に旧帝国陸軍の財界人を(結果的にではあるが)助け、米軍を追い払っていることだろうだろう。54年の初上陸以来、沖縄から北海道までの都市を何度も焦土にしてきて日本を苦しめてきた怪獣が、日本の経済的発展を支えてきた財界人の恩人であった皮肉、そしてその皮肉な存在に未来から日本を焼き尽くそうとやってきた勢力が打倒され、再度ゴジラと日本の打倒し打倒される関係に戻るという循環に戻ってしまうのが面白い。
 戦後日本を破壊することで経済的発展の度合いを表現し続けてきたゴジラ、未来の肥大化した日本から来た刺客キングギドラ、この両極端な二体が高度経済成長の象徴ともいえる都庁を薙ぎ倒しながら繰り広げられるラストバトルは必見。

 

ゴジラVSモスラ [60周年記念版] [DVD]

ゴジラVSモスラ [60周年記念版] [DVD]

 

  92年のインファント島再訪。環境破壊、飼主の誘拐によって目覚めた怪獣モスラが日本に上陸しゴジラと対決する。VSキングギドラの怪獣大戦争のリメイクに続いて、モスラゴジラの仕立直した作品。
 興行のために現地民を誘拐した「モスラ」、テーマパーク建設のためにモスラの卵を奪い取る企業を描くことで、戦後社会の暴走を描いていた「モスラゴジラ」。それら旧作のテイストを引き継ぎ、高度成長期の余韻がまだ残っていた頃の企業社会の闇を風刺している。
 東南アジアを経済的に支配して半植民地化を果たし、再開発と称して森林を伐採し環境を破壊、目ぼしい遺産があれば墓だろうが人間だろうが本国へとさらっていく日本企業。戦後復興のために正当化されてきた企業の態度が、一億総中流の実現と共に海外へと矛先を変え、なおも拡大しつづけている。その悪行が怪獣を招き、みなとみらいが廃墟と化していく様子は、高度成長期の終わり、バブルの崩壊を風刺しているようで虚しい。(VSキングギドラと同じく、東南アジアを間接侵略するという設定は日本の現状から考えてありえないだろう)
 怪獣の動きも優雅で美しい。東宝プールの波をかき分けながら進む幼虫、国会議事堂に張った眉からゆっくりと翼を広げ、ふわふわと遊覧船のように東京上空を進む成虫モスラはそれまでの怪獣映画にはなかった詩的な雰囲気がある。旧作に習って羽田(仮)から聖なる泉をBGMに飛び立ち、エンドロールに入るラストは東宝怪獣映画随一の美しさを誇っている。

 

ゴジラVSメカゴジラ [60周年記念版] [DVD]
 

  93年の対ゴジラ防衛出動映画。23世紀の技術で建造されたメカゴジラと子どもを誘拐され怒り狂うゴジラが千葉で激突。
 佐原健二中尾彬の監視のもと、溶接の火花が飛び散る中で建造され、壮大な伊福部節に見送られ出撃し、七色の大光線でゴジラを圧倒するメカゴジラの勇壮な事。それぞれの体当たりで細々としたコンクリート片を撒き散らしながら倒壊するビル、雪のように舞う窓ガラス片の光景がゾットするほど美しい。(細々とした瓦礫表現は本多猪四郎ラドン以来)
 ただし、メカゴジラは派手に活躍はするが、いつもの自衛隊のごとくゴジラの引き立て役以上の活躍はない。主題はあくまでゴジラの息子を通した人間と怪獣の和解であり、VSモスラまでの風刺的要素は影を潜めている。Gフォース隊員や京大研究室の面々には社会人としての立ち振舞はみられず、ゴジラ自身も記号化か進んでいる。シリーズが長引けば登場人物のキャラクターは避けられない、とはわかっていても、昭和の終わりから戦後史を背負ってきた映画がこうも希薄な存在になってしまうのは残念に思う。
 なお、音声は日本初の5.1サラウンドを採用(これ以前は2003年に作りなおされた音で、実質3ch構成)。影崩れの取り囲んで人を握りつぶすような音や雷鳴をサイドスピーカーを使って、SWを震わせて放射熱線の強さを表現するな相当こだわりをもってつくられており、聴き応えがある。
 ストーリー面に難はあるものの、特撮、音響共に非常によく出来た作品だった。

 

  94年の対怪獣防衛出動映画。宇宙から九州に降り立ったスペースゴジラゴジラと共同戦線を張ったGフォースが対決する。
 ジュニアゴジラと戯れる女の子、ゴジラとジュニアの関係をヒトの親子に例えるなど、福田版ゴジラ、特にゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘の影響が強い。それ故、それまで”災害”と描かれてきたゴジラが、今作では記号化し、ついに人類の”友達”として登場している。バース島ではヒーロー演じる橋爪淳小高恵美と一緒に映るシーンでバストショットが登場するなど、扱いは殆ど人間と同格。鹿児島上陸から福岡でのスペースゴジラとの対決までのシーンではロングショットで街を蹂躙しながら歩いてはいるが、次の瞬間には小高の友達に戻っており統一感がない。
 キングギドラと同じ”飛ぶ怪獣”が敵ということで、飛翔時に映る鹿児島や九州の風景、逃げ惑う人々の姿が記録されているという点では価値がある。オフィス街や遊園地の風景は九十年代の(映画興行的にも日本の経済的にも)賑やかさをカメラに収めた貴重な映像だ。
 また、吉田穣によってリメイクされたMOGRRAの曲線を多用したデザインとドリル、合体時の各部の動きがスマートでありながらも機械的でかっこいい。
 シナリオ、特撮共に荒が目立つが、アメリカ版の製作騒動に挟まれながら急造を迫られ、子ども向けへの方針の転換という現実を反映しながらも中々検討した作品だと思う。

 

  95年、最後のゴジラ災害。
 環境の大変化をうけて見直される科学観とそれを象徴するかのように1954年以来、はじめて研究される大量破壊兵器オキシジェンデストロイヤー、地下より目覚めた芹沢博士の怨霊もといデストロイア。高度成長期の果てである環境破壊、それを通じて再び浮上してきた初代ゴジラの亡霊と環境に適応できずに自壊しながらも必死に戦うゴジラがの姿が涙を誘う。
 ゴジラの時限核爆弾と化し、そのタイムリミットを刻むかのようにオレンジ色に明滅する内臓、体中から湧き上がる蒸気、充血した目。背負っている歴史や物語、造形にいたるまでシリーズ中最も濃厚で味わいがある。
 なお、本作は東宝黄金時代を築き上げ、初代の基本設定を考えた田中友幸、初代から本多猪四郎版のほとんどの劇伴を担当していた伊福部昭、芹沢博士の婚約者だった河内桃子が関わった最後の作品となっている。
 風刺的にも、歴史的にも、劇伴的にも、これ以上に望むべきもののない最後のゴジラ映画だった。