2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

日本戦争映画評(大東亜戦争)

1941

 

  

 飛行機乗りに憧れる田舎の少年が予科練の厳しい訓練をくぐり抜け、ついには真珠湾攻撃に参加するまでを描いた映画。 円谷担当の特撮が兎に角すごい。ミニチュアの精度はもちろん、枝木のフィルターを用いたスケール演出など後年には見られなかったカメラワークへのこだわりがある。戦後には同じ題材で「太平洋の嵐」を撮っているが、特撮の見せ方はこちらの方が上かも知れない。 物語は国策邦画ではお馴染み幼少年に「卓越せる技量 旺盛なる攻撃精神 崇高なる犠牲的精神」と肉体鍛錬を説くもので特に読み取るべきものはないように思う。

 

 

1942

太平洋の嵐 [東宝DVD名作セレクション]

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 飛龍乗艦の雷撃屋から見た真珠湾作戦、ミッドウェー海戦。戦前から続く航空特撮の完成形とも言うべき作品で、停泊する連合艦隊や空母の回避行動等々の存在感は群を抜いている。また、佐世保を出港する際の段取り(艦橋⇒機関室)にゆっくり時間をとっていたり、沈没時の描写に隔壁を閉じて乗員を締め出しているのが印象的。

 脚本に橋本忍が参加しているとのことだが、それを思わせる場面がない。急な招集による結婚式の中止のように橋本を思わせる場面もあるが、銃後の妻の教訓を示す以上の演出になってない。むしろ、戦場の夫、銃後の妻という構図は国策映画のそれに近い。ミッドウェイ以後は失敗をひた隠しにする軍部、負け戦の現実など真珠湾作戦までの高揚感を吹き飛ばす描写がちらほらしているので、その辺の悲壮感は橋本忍らしい。

 

 

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真珠湾で第二次出撃の必要を見抜き、ミッドウェーでは爆装への変更ミスを発見し、ラバウルでは航続距離計算のミスを指摘できるほど戦略的見地を持っていたが惜しくも特攻で命を落とした善玉海軍士官の物語。実際の真珠湾作戦を模し帽ふれに見送られる零式、ドーンとレスの急降下爆撃に換装中の格納庫をやられ爆発炎上する空母等々の記録写真の再現映像が面白かった。

1944

 

 

 硫黄島攻防戦を描いた映画、というよりは日本軍よもやま物語。海岸から掩蔽壕までの距離調査や土木作業の準備描写、壕からの掃射やおばけ臼砲等の映像は良かったが、割り振りがいまいち謎。摺鉢山は一瞬で陥落、夜襲ではわざわざ徒党を組むなどwikiレベルの史実、前作の父親たちの~の描写とも違う。また、暴虐な下士官、早い段階で自決を描いている割に本土思い出話や憲兵のちょっといい話に時間を割きすぎていて反戦映画としての体裁も保てていない。戦争の悲惨さを伝えるための作品と見ればそれまでだが、それにしても曖昧漠然すぎる。

 同じく島の攻略を描いた映画としては「沖縄決戦」がある。こちらは群像劇でかつ史実を時間通りに追うスタイルをとっており、そのため作戦映画として見やすいとはいえないが島を巡る攻防戦を描いた映画としてはこちらの方が質が高いと思われる。wikiによれば監督自身が「日本映画」と自負していたらしいけれども、悪い意味でそうなってしまった感がある。 削除

 

父親たちの星条旗 (特別版) [DVD]

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 摺鉢山に打ち立てられた星条旗の意味が最前線と米本土で如何に違ったかを描いた映画。本土攻略の資金集めに奔走する政治屋、歓声をあげる一般市民、その最中で“英雄”が苦悩するという図式が良い。図自体はスキャンダル系の延長だし、権力に踊らされる最前線の兵士という構図も敗戦国で延々と描かれてきたものだが、これを「正義の戦い」として継承してきた米国で映像化したというのが興味深い。太平洋戦線の象徴ともいえる硫黄島星条旗に疑問を呈している辺が戦勝国独特の視点で良かった。
鑑賞日:01月17日 監督:クリント・イーストウッド

 

地獄の戦場 [DVD] FRT-299

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 1951年制作の(たぶん)硫黄島攻防戦を描いた映画。中隊に大損害を与えた日本軍の噴進砲の発射位置を特定すべく派遣された隊の物語で、おそらく米軍側からロケット砲の驚異を描いた唯一の作品。噴進砲によって釘付けにされる兵はもちろん、塹壕からの機銃掃射や木のくぼみから狙撃してくる卑怯な日本兵描写があるのが印象的。初っ端から海兵隊賛歌が流れるものの隊の損害は洒落にならないレベル、遺書の類も日本軍の犠牲を乗り越えて云々な方向で昨今のバンザイアタック系よりも戦闘の複雑さ、悲惨さを示しているのは興味深い。
 

太平洋の奇跡 ?フォックスと呼ばれた男? スタンダードエディション [DVD]

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 サイパン玉砕から大場隊降伏までを描いた映画。冒頭の総攻撃、終盤の歩兵の本領は勢いがあってそれなりに良かったが、それ以後は状況描写が筋に追いつけてない。特に軍民の玉砕後とは思えない贅沢かつ綺麗な生活、知日派の余裕ある振る舞いは主筋である投降の持つ意味さえも引き裂いており粗筋をwikiで読んでいるような気分になってきた。竹野内豊演じる大場栄なんかはテキパキといい演技をしていたし、作品全体のディテールは中々のものだったが肝心なところが抜けている。演出のしようによってはかなり盛り上がる史実なだけに残念。

 

シン・レッド・ライン [DVD]

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 米軍側から観たソロモン諸島ガダルカナルの戦い。自然に隠れて死を迫ってくる「客体としての日本軍」と戦いながら、延々と思索し続ける「主体としての米兵」というかなり奇妙な構図の映画だが、これが妙な塩梅で成功している。塹壕や林から狙撃してくる「卑怯な日本軍」の歯をペンチで抜いたり、激情に任せて捕虜を撃ち殺す「鬼畜米兵」。自然と一体化した“客体”なら屠殺も許されるという自然哲学的な論理を展開することで、倫理的なバランスをとっているところなんか凄すぎる。

【通常版】 THE PACIFIC / ザ・パシフィック コンプリート・ボックス [DVD]

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 太平洋戦線を舞台にしたBOBの亜種。ジャングルの過酷な環境、艦砲射撃で砂丘と化した戦場等々の情景再現はされているが、肝心のドラマが「祖国のためにジャップを残虐な方法で屠殺する米兵」の路線で終わっている。ガダルカナルもペリリューも硫黄島もバンザイアタックでバタバタと死んでいく日本兵と彼らへの虐待がでてくるばかりで地下陣地やジャングル戦の恐怖感といったものがまるでない。シンレッドラインやナム戦映画で鬼畜米兵やゲリラの恐怖を描いてきた米国とは思えない愚作。
鑑賞日:01月13日 監督:

 

 

 アリューシャン列島キスカ島からの守備隊撤退作戦。阿武隈はじめ第五艦隊が霧のキスカを進んでいく光景は東宝戦争映画の中でも抜群の美しさを誇っていると思われる。この映画を何度観たか覚えてないが、やはり霧の中でうろうろする艦隊にははらはらさせられ、大発に乗り込む場面で涙腺が潤んだ。派手に火薬をつかわなかったからこそ出来上がった名画。

 

1945

 

 

 1971年に公開された八月十五日シリーズ第五弾。牛島中将、長、谷原参謀等の将官クラスの視点から沖縄戦の顛末を映像化。特攻、自決を悲劇として演出せず勇壮果敢に描いてるのは評価の分かれる所だが、事実存在し戦果を挙げた義烈空挺隊、雲流るる果て収録の詩、鉄血勤皇隊や一般将兵の奮闘を正面から描いているのはこの映画のみ。左右両方の政治主義的な浪漫主義を抜いて沖縄戦を描いたという意味ではかなり貴重な映画だといえる。

 ただし、この映画には歴史映画にはあるまじき致命的な欠陥がある。その最たるものが牛島中将はじめ参謀らの描写の足りなさ。欧州の解放などの映画を見ればわかるように、作戦司令部レベルの視点で戦を描く場合は地図による地形、部隊配置等の解説が全体の状況説明へとつながるわけだが、これが明らかに欠如している。そのた事前情報抜きに見ると勇壮(人によっては蛮勇)と悲劇に情報を分類する他に鑑賞態度をとることができない。(混沌とした戦場云々感想の原因)

 なぜこうも主軸のない映画になってしまったのか、というのもわからなくはない。この映画が公開されたのはあさま山荘事件の前年1971年、わだつみ像が引き倒された二年後のことで新左翼絶頂期の頃。わだつみのこえさえ破壊の対象となっていた頃に司令部の奮闘を描いた映画を公開すれば学生運動の的になることは避けられなかっただろう。

 悪くいえば槍玉にあげられることを避けた駄作、良くいえば回避行動をとったことで政治主義を脱した主筋なき映画。どちらともいえるが、最初にいったように事実、勇敢に戦った日本軍将兵を描いた作品としてサンプル的な価値はあると思われる。 削除

 

太平洋の翼 [東宝DVD名作セレクション]

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 源田の剣と呼ばれた343航空隊の始末記。元が隊に新選組と名前をつけるような航空隊なので仁義ものになるのは仕方がないのだが、天一号作戦への参加、大和上空での名乗り、特攻組との確執等々は想像力が豊かすぎはしないかと見ていて心配になる。面白いが間違いなく空モノではないし、かといって海軍ものでもないし、咀嚼するのが難しい。紫電改のずんぐりとしたラインは目の保養にはなったが。
鑑賞日:09月08日 監督:松林宗恵

 

さらばラバウル [DVD]

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 敗戦直前に米兵相手に戦った飛行兵らの葛藤と転向。未熟を極める飛行兵にひたすら技量向上による勝利を唱え、裏で劣勢を一兵隊として割り切ろうと必死になる若林大尉の姿が哀しい。実際に大東亜戦争に三年を費やした池部良の一挙一動が演技以上のリアリティを与えている。 敗戦から九年経った昭和二九年公開の映画だが、描かれているのは雷撃隊出撃で描かれた悲劇に近い。
鑑賞日:09月23日 監督:本多猪四郎

 

 

 和平交渉を担った外交官をマライのペナンまで運ぶ潜水艦の話。潜水艦という特殊環境の中で繰り広げられるドタバタコメディが面白く、特にブロンド娘を巡って狼狽える古参兵たちの表情がいい。その古参兵の狼狽と軍人精神が融合するラストも実に見事。 階級により態度に格差があったり仕事が分業化されていたりと雰囲気が潜水艦より戦艦に近いのが気になったが、これは松林流のコメディを再現するための手段だったのかしら。

 

英霊たちの応援歌 最後の早慶戦 [DVD]

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 出陣学徒壮行早慶戦に見せかけた早稲田卒の特攻隊始末記。特攻隊を描いた映画としてはやたら現実味のある作品で、特に体育会系の汗や文化系の感傷が戦場にまで持ち込まれる様子には感心させられる。海軍入隊後の鉄拳制裁も野球部の根性焼と重なる部分もあって、妙に生々しい。学生生活と戦場をここまでリンクさせた作品はこれの他にない。

鑑賞日:10月21日 監督:岡本喜八

 

火垂(ほた)るの墓 [DVD]

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 兎に角、節子がだんだんと衰弱していく様子が圧巻な映画。朦朧とおはじきを口に含む姿、儚い笑みはその画面だけでも強烈な力を持っている。物語は田舎の自治会(隣組)に溶け込めなかった海軍士官の息子幼女が自給自足に失敗するという話で戦争云々というよりはサバイバル映画、火垂るというよりは蝿の王墓。戦時を舞台にしている割りに憲兵に探りを入れられるというようなエピソードはなし、むしろ畑泥棒を見逃してもらっている辺り何で反戦映画として読まれるのかよくわからない。

 

 

 岡本、橋本が終結の詔書が放送されるまでの歴史的経緯を鈴木内閣、宮城事件、厚木航空隊事件等々の終戦直後のごたごたを寄せ集めて映像化。それまで有無を言わせなかった挙国一致状態が瓦解していく中で、各々が抱える信念や社会的立ち位置が方向付けを失ってぐつぐつと煮えたぎっていく様子は圧巻。特に笠智衆演じる鈴木貫太郎と三船演じる阿南惟幾、場外で踏ん張る黒沢演じる畑中の温度差は興味深かい。「最後の日本主義」「上層の三文芝居」など左右で評価の変わる作品だが、それ位に多面的な映画に仕上がっているといえる。