2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

日本戦争映画評(支那事変)

 歳のせいか自分が何を見てきたのかわからなくなってきたので、今まで書いてきた戦争映画の評を戦線別にわけて整理してみた。レビュー間の整合性をつける予定はない。

 

風立ちぬ [DVD]

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(13)サナトリウム文学上空の日の丸の翼、貧困も戦争もない軽井沢で出会った男女が戦闘機開発に振り回されつも結ばれる。風をはらんで宙を舞うカプローニ、風をつかまえて旋回する九試等々、風に関する絵画的で多様な表現が美しい。別荘でワイン片手に会議は踊るの唯一度だけを歌いつ支那事変に思いを馳せ、同僚の九六陸攻開発を賞賛する裏で渡洋爆源の現実を無視するといった露骨なブルジョア根性を描きこみ、イデオロギーのねじれを最初から最後まで通すことで戦争映画としてもクリアな立場を築いている。
鑑賞日:06月02日 監督:宮崎駿

 

ラストエンペラー ディレクターズ・カット  [DVD]

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 清朝最後の皇帝愛親覚羅溥儀の生涯を描いた映画。紫禁城に生まれ育った青年期から清朝復活に燃え挫折した晩年までを三時間ちょっとで駆け抜ける。太和殿前でおこなわれる様々な儀式、母を追って城門へかける様子など、紫禁城の広大な敷地と城壁を最大限に活用した映像が実に美しい。何気ない場面に過剰なまでにライトアップと象徴化がなされているのに見ごたえのある映像に仕上がっているのは流石ベルトリッチというべきか。

 

太陽の帝国 特別版 [DVD]

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 上海事変の混乱の中で親とはぐれ強制収容所に囚われたバラードの少年時代をスピルバーグオリエンタリズム風に再構築してJ.ウィリアムズの音楽にのせてクリスチャンベールとマルコヴィッチを踊らせた映画。同じ白人もやっかむ程のブルジョア生活に明け暮れていた少年が泥にまみれて草を食みやとっていた中国人にビンタを喰らって最後には国民党支援の米人にも見捨てられる辺りは連合VS枢軸の図式から外れていてよかったと思う。白人の典型的な黄禍観とか自意識とかその辺を知るには程よい作品。

 

上海陸戦隊 [東宝DVD名作セレクション]

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 大山中尉殺害にはじまった第二次上海事変を描いた映画。陸軍到着まで延々三ヶ月の間に上海を守り通した陸戦隊とそれを支えた上海租界の日本人が軸に支那事変の大変さ、銃後の母の大切さが描かれる。軍に協力する市民像など宣伝映画にお馴染みの役割がちらほらしているが、それ以外は殆どプロパガンダには見えない描写の連続。大川内を彷彿とさせる中隊長は絶命するし何班かは壊滅するし中華共和国はやたらと勇敢で宣伝映画につきものの臭さがほとんどない。サウンドも殆ど音楽を排し、銃撃音に限定していて生々しい。歴史映画としてかなり完成度の高

 

<あの頃映画> 拝啓天皇陛下様 [DVD]

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 棟田博原作の戦争映画。昭和大飢饉児童虐待の洗礼を受け、俗世をしらぬまま軍隊教育を受け戦地へ送り出された平民山田正助の生涯。赤貧に生き、軍隊を楽園ととらえたまま死ぬ主人公が哀れで印象的だが、軍隊生活の描写が控えめすぎる感がある。実際の軍隊では事あらばビンタと軍靴による私的制裁を食らっていたわけで、山田正助はそれを乗り越えてもなお軍隊生活を望んだ。喜劇風なので仕方がないことなのかもしれないが、拝啓天皇陛下「様」と重複表現を用いるなら、その辺りしっかりしてもよかったかもしれない。

 

 

北支戦線を舞台にした風刺映画。上官との「約束」のために軍旗を奪取し、自由人として雁字搦めの久保明に大陸で生き抜く知恵を与え、時には己の欲望に忠実に生きていく。同じ北支を舞台にした『血と砂』と違い、観客をテンポで流してしまいそうな作品だが、台詞の端々には「愚連隊」の無念のようなものが息づいている。テンポに身を任せるもよし、台詞を注視するもよし、様々な観点から見ることのできる映画。 

 

どぶ鼠作戦 【東宝DVDシネマファンクラブ】
 

 

昭和三十七年公開の北支愚連隊シリーズ第三弾、八路軍に囚われた大尉を救出するために奮闘するならず者部隊の物語。 日本アパッチ族だった前作に比べてキャラを深めに掘り下げ、キャストにも工夫を凝らしている。特にブラックジョークを飛ばす佐藤充に笑顔で絡む藤田進はいかつい外見からは想像もできない演技をしていて面白かった。 中丸忠雄も小心な悪役から佐藤に真正面からぶつかっていく立派な馬賊として活躍。脚本と役者の個性がぴったりとあった傑作。

 

血と砂 [DVD]

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 北支に出征した少年軍楽兵たちが(下らなすぎて笑うしかない)戦争を前に全滅していく噺。喜八が士官学校で培った苦痛を笑い飛ばす技術、江分利満氏制作で得た戦中派独特の戦争観が昇華され戦争映画としては異色の作品として仕上がっている。 三年後に制作される『肉弾』で魚雷に乗り込む戦中派がここでは憲兵を笑い飛ばし、最後には迫撃砲の餌食となっているが、これは彼自信のIFということでもあろう。

 

加藤隼戦闘隊 [東宝DVD名作セレクション]

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 昭和十九年に公開された軍神加藤建夫の伝記映画。部下思いで隼を操る腕は一級、部下の健康には常に気をつけ自らは悠久の大義のために戦地へと赴く絵に書いたような帝国軍人の姿が頼もしい。大戦末期の映画ながら果物好きで珈琲も楽しみ、暇な時間はローライで写真を撮りまくるユニークな一面も描いており、国策邦画とは思えない雰囲気が漂っている。 予科練絡みの映画のように戦闘精神を只管に訴えることなく、護衛任務における深追いの厳禁のように戦略目的の重要性を訴えているのも興味深かい。 国策邦画以上の価値のある伝記

 

燃ゆる大空 [東宝DVD名作セレクション]

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 紀元二六〇〇年記念映画。華麗に風のように舞い蜂のようにI-15(九五戦)を墜とす九七戦、肩を並べて一斉に離陸する九七軽爆と重爆は目を見張るものがある。国策なので当然、それなりの台詞が存在するが、南海の花束などに見られる長々とした演説風の説教がないので押し付け腐さがない。むしろ和やかな陸軍飛行学校から支那事変の激戦、同期との死別と死生一如など独特で一貫した国家主義の合理化は興味深いくらいだ。国策邦画は戦友や上官の死と超克を国家主義に結びつける傾向があるがこの映画はその完成形といってもいい。

 

決戦の大空へ [東宝DVD名作セレクション]

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 土浦の予科練習部の日常を海軍に憧れる少年の視線で追った宣伝映画。 軍隊言葉や海軍体操といった軍隊の基本から機上作業練習機や水上練習機をつかった操縦技術の習得など一連のカリキュラムを意識の高い練習生たちの感想を交えながら描いている。「攻撃精神」「体当たり」といった思想や体力作りの必要性を訴えてるなど、当時の宣伝映画が何を目指していたかが垣間見ることができて興味深い。悲劇的な要素を排しているため物語としての体裁をなしていると言い難い作品だが、宣伝映画の典型例として非常に分析しがいのある作品だと思う。