2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

2015年度鑑賞読書十選

 

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Interstellar

2014年宇宙の旅。基本的にはインセプションプレステージで培った映像美の披露だが、本筋はクラークの宇宙や未来への旅、キューブリックの描いた「70年代の現実的な宇宙開拓」の翻案。エウロパをガルガンチュラに置き換え、脱出方法や遭遇劇にアレンジを加えて移植している。もちろん、ただ真似するのではなく、探索の動機付けに終末SF風の危機を設定したり、エウロパでの遭遇劇、超人化に多世界解釈を導入して家族劇へと収束させるなど刺激的なアレンジが加えられていて唸らせられる。

 映像的にも遠景で描かれる細波によって無数に割られた寒色の海、それらが重力に寄って引きずられて巨大津波として船を覆う光景、重力形成のために常に回り続ける宇宙船、窓から差し込む光が宇宙船の回転にあわせ、日の出日の入りを繰り返すように明滅する光景等々、カメラの画角、色彩を活かした表現が良かった。

 

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ガールズ&パンツァー 劇場版

 戦車の日常感を究極まで追求したミリタリアニメ。M3のエンジングリルに座って釣りをしたり、B1bisをコンビニに駐車して焼き鳥食ったり、三突のハッチ上でウォーゲームに興じたり、兵器をキャラクターの生活スタイルの中に混ぜ込むことで、兵器の日用雑貨化に成功している。特に興味深かったのは、幼少期のヒロインが二号に乗って畑の中を行くカットで、まるでトトロ冒頭に登場するオート三輪に乗った草壁一家のような印象さえ与える。これまでBOBの1シーンやMMのフィギュアセットの中にしかなかった風景を見ることができる。

 カーチェイスと戦車の挙動を融合させたパンツァーチェイスも見事。乗員との打ち合わせから丘を登りながらの行進間射撃までの長回し1カット、三号や三突が走りだす度に車体を仰け反らせ、不正地に引っかかってガタガタと車体が揺れる度にキャラクターの髪が細かく揺れ、停止する度に前のめりになるといった、戦車の挙動の特徴を押さえた表現は素晴らしい。

 

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MADMAX

 キャデラックに乗り下顎骨を模した生命次装置を装着したマッチョが女奴隷を追跡する。大きな展開は存在しないが、“ただ”砂漠のど真ん中でタトラの荷台に乗ったドラマー集団が全身全霊で太鼓を叩き、火を吹くギターをかき鳴らすヒョロ男がダッジのトラックで体当たりしたり、逃走者の車にとりついた無法者たちをマックスと婆が拳と散弾銃ではらうだけの絵面がどうしようもなく強烈で面白かった。

 

 

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

 

 

終末後の世界を旅する親子の物語。  廃墟だらけの世界を表情豊かに描いているのが印象的。セロハンテープで継ぎ接ぎしたぼろっちい地図、その上にクレヨンで書かれたメモ書き、雑草と埃に覆われたガソリンスタンド、廃屋に並べられた生首のミイラ、鉄パイプ片手に防毒マスクを被ってディーゼルトラックを護衛する集団等々に、映像ではなかなか描くことのできない小説特有の質感がある。
 また、そういった風景の中に時たま現れる水を吸ってたわんだ木棚と膨らんだ本半壊した自販機とその中に眠るひんやりとしたコーラ、プルトップの感触、開けた時の泡立ちがアクセントになっていて、これもまた良い。

 作中では強姦や食人が蔓延っており、倫理や道徳というものは徹底的に破壊されている。少年の運ぶ火や最後に少年を引き取った一家等の例外はあるものの、基本的には心地よい終末を夢見た「渚にて」とは対局的な風景が延々と続く作品だ。ネビル・シュートを読んだ時とは全く違う、重みのある一冊。

 

 

 

 人間と猿の立場が逆転した世界の物語。脚本に関わった人々が赤狩り日本兵の監視下で働いていた事や石打のシーンから風刺劇として語られる事の多い作品だが、猿以外の知的生物の発見という人類のアイデンティティの揺らぎや、それに対する猿視点からのガリレオ裁判風進化論批判を描写することで政治劇にもSFにも囚われない視野を確保している。チャールトン・ヘストンの孤独と不安定感を常に意識させるカメラワーク、ジェリー・ゴールドスミスの不協和音など視覚的にも非常に魅力的な名作。

 

ロード・オブ・ウォー Blu-ray

ロード・オブ・ウォー Blu-ray

 

 

  武器商人概論。ソ連崩壊によって、より苛烈になった兵器の横流しを示すかのようにロシアでのUZ1転売にはじまり、レバノンは壁一枚隔てて少年らが虐殺されている廃墟の中で、スーダンではレーガンのポスターを穴だらけにして威力アピールしながら、リベリアではAKを振りまわし、ダイヤと引き換えに手に入れたAKで側近を撃ち殺すような将軍とアメ車を乗り回しながら「商談」している姿が、奇妙なロードムービーのようで面白い。アフガンに至るまでには、AKの引き金の音がレジのレバー音に聞こえてきたり、ウクライナのレーニン像に腰掛けながらAKの取引金額について電卓を叩く様子がソ連の崩壊とその後の秩序を象徴していて感動的だった。 

 

螺旋回廊 (パラダイムノベルス 83)

螺旋回廊 (パラダイムノベルス 83)

 

  1999年のアングラサイトアングラサイトに関わってしまって、人間関係を壊されていく大学助教授を描いた作品。
 ネット掲示板の明らかに違法で現実化不可能だと思わせるような書き込みが登場人物らの日常生活をじわじわと侵食し、追い詰めていく過程が丁寧に描かれている。興味本位で巡回していたサイトに、隠し撮りされた自分の日常生活の映像や教え子の学生証が掲載される。誰かに見られている、身近な人間に危険が迫っているが伝えることができない、そんなもどかしさがキリキリと首を絞めあげてくるのが良い。特にヒロインが拉致され犯される光景を警察の情報や噂ではなく、掲示板の実況配信、犯人からのビデオレターという形で知っていくのが良い。
 また、現実では封じ込まれていた欲望が掲示板に関わるうちに自覚されていくという、犯人側の変貌も面白い。ネットの情報を元にたどり着いた公園で吊るされた少女を強姦する助教授、掲示板に依頼して強姦を実現化した男たち。彼らの生活スタイル自体は平凡で、事件を引き起こすタイプの人間には見えない。HPに掲載されたわいせつ動画を閲覧し、彼らに依頼すれば自分も同じことができると自覚し、はじめて凶行に走る。互いに無関係で、無力な人間たちが仮想空間のひとつの場所に集合し、妄想を発露して団結力を高め、集団として力を持ちはじめる、そういったナマの現実だけではありえない人間関係の形、そこに漂っているパワーを見事に描き切っていたと思う。

 

 

紅い眼鏡 [DVD]

紅い眼鏡 [DVD]

 

 

 都々目紅一のケロベロス騒乱後あるいは胡蝶の夢。偉大なる兄弟のごとく貼り出された兵藤まこの肖像、闇市にひっそり佇む情報屋天本英世経営の立ち食いそば屋とそこでこそこそ麺をすする客たち、室戸文明のダンスと特機隊狩り、スポットライトをつかった舞台劇風の(ステージングという意味ではない)書割、それを蹴破る千葉等々のつくりもの感が“素人感とその囲い”をはっきり表していて素晴らしい。

 押井の“つくりめいたもの”をあえて画面にして居心地の悪さや不快感を演出し、それを胡蝶の夢を通してひっくり返してしまう作風がいちばんはっきりと、いちばんうまく表現されている作品だと思う。

 

 

 魔物を煮たり焼いたり食べたりするRPG料理本。宿や屋台を食べ歩くような所謂グルメ本というより魔物をつかった思考実験、作風は鼻行類に近い。魔物の筋の入り方を分析して倒し方、捌き方を研究したり解剖図で部位を示して適した調理法を模索したりとひとつひとつの説明に妙な説得力がある。ダンジョン内部の生態系を把握して生息域を把握し、自分の食べいる料理の食材に思いを馳せ(時には拒絶す)るところは特に斬新だった。SF的な発想が詰まった素晴らしい一冊。

 

 

 

 

 かっちりとしたスーツを着こなし、防弾傘で銃弾の雨を弾き、畳んでライフル化させた傘で敵を吹き飛ばす等々の秘密兵器を駆使して世界征服を目論む組織を叩き潰す、というコネリー時代のボンドロマンと電子機器を利用した環境テロリストを瞬間接着剤でひっつけたような作品。

 スマホによってスーパーリンク化した社会をSIMに仕組んだ毒電波を受話口から解き放つことによって破壊するとか、産業革命の国で起こった暴動にハートマスターが突っ込んだり、米国人が教会で銃を振り回す、”殺戮風景”がきちんと歴史を踏まえたうえで展開されているのが嬉しかった。