2013/06/01-

時間の無駄だから読まないほうがいいよ。

十二月の読書やら鑑賞やら何やら

五選

螺旋回廊 (パラダイムノベルス 83)

螺旋回廊 (パラダイムノベルス 83)

 

 

 1999年のアングラサイトアングラサイトに関わってしまって、人間関係を壊されていく大学助教授を描いた作品。
 ネット掲示板の明らかに違法で現実化不可能だと思わせるような書き込みが登場人物らの日常生活をじわじわと侵食し、追い詰めていく過程が丁寧に描かれている。興味本位で巡回していたサイトに、隠し撮りされた自分の日常生活の映像や教え子の学生証が掲載される。誰かに見られている、身近な人間に危険が迫っているが伝えることができない、そんなもどかしさがキリキリと首を絞めあげてくるのが良い。特にヒロインが拉致され犯される光景を警察の情報や噂ではなく、掲示板の実況配信、犯人からのビデオレターという形で知っていくのが良い。
 また、現実では封じ込まれていた欲望が掲示板に関わるうちに自覚されていくという、犯人側の変貌も面白い。ネットの情報を元にたどり着いた公園で吊るされた少女を強姦する助教授、掲示板に依頼して強姦を実現化した男たち。彼らの生活スタイル自体は平凡で、事件を引き起こすタイプの人間には見えない。HPに掲載されたわいせつ動画を閲覧し、彼らに依頼すれば自分も同じことができると自覚し、はじめて凶行に走る。互いに無関係で、無力な人間たちが仮想空間のひとつの場所に集合し、妄想を発露して団結力を高め、集団として力を持ちはじめる、そういったナマの現実だけではありえない人間関係の形、そこに漂っているパワーを見事に描き切っていたと思う。

 

ガールズ&パンツァー 6 (最終巻) [DVD]ガールズ&パンツァー 6 (最終巻) [DVD]
 黒森峰との決勝戦。12話中、最も試合の濃度の高い二話が収録されている、と思う。第一話冒頭の砲塔視点を旋回させながら周囲を見渡す技巧を四号と五号のチェイス中に使用しているのが印象的。(劇場版でも敵車の後方に回りこむ場面でクレーンカメラのような高さ、回し方で戦車の砲塔旋回を追ったり、西住が車中から外を見回すまでを1カットで描いたりと主観視点の見せ方、技巧の詰め方が非常に面白い)  他にも砲撃時の衝撃と時間差でやってきた爆風でめくれるメモ帳、履帯にピンを打ち付ける歴女、足回りの修理のために転輪を転がすティーガー2の乗員等々、ミニタリーミニチュア的な日常感が漂っているのも良かった。 
鑑賞日:12月24日 監督:水島努

 

ガールズ&パンツァー 劇場版ガールズ&パンツァー 劇場版
女の子と戦車という互いに次元の違う存在の組み合わせ方が非常にうまい。これはTVシリーズにも言えることだけど、Bisのグリルに座って使って釣りをしたり、コンビニに駐車してグレる風紀委員、三突のハッチ上でウォーゲームに興じる歴ヲタナ等々、兵器をキャラクターの生活スタイルを通して日常生のなかに沈めるための工夫がいたるところにある。特に興味深かったのは、幼少期のヒロインが二号に乗って畑の中を行くカットで、それはまるでトトロ冒頭に登場するオート三輪に乗った草壁一家のような印象さえ与える。これまでMMのフィギュアセットの中にしかなかった兵器を通した生活感がある。

 また、試合自体はネビル・シュートが立案した観覧車やフォン・ブラウンの子どもたち、朝鮮戦争の立役者から四足の自走砲等々等といった夢にも見なかった兵器が映像化され、スクリーンを縦横無尽に動きまわる等、ミリヲタのポイントを押さえたつくりになっている。映像的にも車長ハッチを開放してから車外を眺めて人物に目線がいくまでをPOVで、それもほぼ1カットでやっていたり、その間のCGと作画の行き来にほとんど違和感がないなど驚きの連続だった。
なお、梅田ブルク7で鑑賞。事前にBOSEを使用しているという話は聞いていたのだけれど、予想していたよりも良かった。砲撃音はもちろんのこと、車体同士がすりあったり、ドリフトしている時の金属と地面が擦り合う音は聴き応え十分。衝撃音は大和郡山IMAXもなかなかだったけど、そちらよりも芯が通った、腹の底から響くような気持ちよさがある。(富士火力演習場で感じた衝撃と同じ)

鑑賞日:12月24日 監督:水島努

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)感想
 コーマック・マッカーシーの原作本。終末後の世界を旅する親子の物語。  廃墟だらけの世界を表情豊かに描いているのが印象的。セロハンテープで継ぎ接ぎしたぼろっちい地図、その上にクレヨンで書かれたメモ書き、雑草と埃に覆われたガソリンスタンド、廃屋に並べられた生首のミイラ、鉄パイプ片手に防毒マスクを被ってディーゼルトラックを護衛する集団等々に、映像ではなかなか描くことのできない小説特有の質感がある。

 そういった風景の中に時たま現れる水を吸ってたわんだ木棚と膨らんだ本半壊した自販機とその中に眠るひんやりとしたコーラ、プルトップの感触、開けた時の泡立ちがアクセントになっていて、これもまた良い。。  作中では強姦や食人が蔓延っており、倫理や道徳というものは徹底的に破壊されている。少年の運ぶ火や最後に少年を引き取った一家等の例外はあるものの、基本的には心地よい終末を夢見た「渚にて」とは対局的な風景が延々と続く作品だ。ネビル・シュートを読んだ時とは全く違う、重みのある一冊。
読了日:12月24日 著者:コーマック・マッカーシー

 

 

キャラクター小説の作り方キャラクター小説の作り方感想
キャラクター小説、所謂ライトノベルに対して文学理論を用いて小説の読み方から書き方まで懇切丁寧に解説した新書。ラノベには(純粋な意味での)オリジナリティというものは存在しないと断言し、書き手の知識を整理、書き出す方法を説いているのが印象的。「左右の眼の色が違う」というありふれたキャラクターであっても、職業を「探偵」や「メイド」に変えたり、「猫耳」といったパーツをつけくわえるだけで、既存の左右の目の色の違うキャラクターから離脱することができる。だから、書き手に必要なのは、まず読者として小説を分析して記号を抽出すること、そしてその組み合わせをすでに存在する作品と対比して重複を避けること。オリジナルという混沌としたイメージのつきまとう言葉を、記号の組み合わせと再定義して、小説の敷居を下げているのは非常に興味深い。

面白いことに、本書は後に東によって”データベース”と再定義されることになる記号や物語の集まりを厳密に定義していない。それどころか、TRPGのような創作訓練によって”オリジナル”が生まれる可能性さえ指摘している。社会論か創作論かの違いではあるけれど、どうぽもよりも創作の可能性を信じているあたりに希望がある。一味違うオタク論としても読むことのできる良書。

78,86,87,124,131,148,185,207,224
読了日:12月24日 著者:大塚英志

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2015年12月の読書メーター
読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1359ページ
ナイス数:47ナイス

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)感想
 コーマック・マッカーシーの原作本。終末後の世界を旅する親子の物語。  廃墟だらけの世界を表情豊かに描いているのが印象的。セロハンテープで継ぎ接ぎしたぼろっちい地図、その上にクレヨンで書かれたメモ書き、雑草と埃に覆われたガソリンスタンド、廃屋に並べられた生首のミイラ、鉄パイプ片手に防毒マスクを被ってディーゼルトラックを護衛する集団等々に、映像ではなかなか描くことのできない小説特有の質感がある。

 そういった風景の中に時たま現れる水を吸ってたわんだ木棚と膨らんだ本半壊した自販機とその中に眠るひんやりとしたコーラ、プルトップの感触、開けた時の泡立ちがアクセントになっていて、これもまた良い。。  作中では強姦や食人が蔓延っており、倫理や道徳というものは徹底的に破壊されている。少年の運ぶ火や最後に少年を引き取った一家等の例外はあるものの、基本的には心地よい終末を夢見た「渚にて」とは対局的な風景が延々と続く作品だ。ネビル・シュートを読んだ時とは全く違う、重みのある一冊。
読了日:12月24日 著者:コーマック・マッカーシー
地獄のハイウェイ (ハヤカワ文庫 SF 64)地獄のハイウェイ (ハヤカワ文庫 SF 64)感想
 核の炎に包まれた世界で最後のヘルスエンジェルス、ヘル・タナーが血清片手に装甲車に乗り込み、ペストに犯されたボストンを目指す物語。  核戦争によって終末を迎え、荒廃し砂漠化したアメリカの風景描写が印象深い。主人公は血清を抱えて街を目指すが、目の前に広がるのは丸焼けの町、砂塵舞い、砂嵐の止まない国道、汚染水のたまった巨大なクレーターと生気のないものばかりだ。たまに生き物と出会ったかと思えば、凶暴な巨大なトカゲやバイクに乗りながら銃を乱射するハーレー乗り、ボストンに病気が蔓延していると聞いて目を輝かせるマッドサイエンティスト。  主人公からして、人間味が感じられない。ボストン便を託されるまではヘルスエンジェルスの誇りを胸に、ハーレーに跨がり麻薬をキメながら略奪とレイプ、殺人を繰り返す日々を送っていたという。 この作品には『渚にて』のような心地よい破滅はない。でも、みんなどこか楽しげで、悲劇とも言い切れない。開き直りの果てにある、楽しい終末を描いた一冊。
読了日:12月24日 著者:ロジャー・ゼラズニイ
神鯨 (ハヤカワ文庫 SF 312)神鯨 (ハヤカワ文庫 SF 312)感想
終末の後、ディストピア化した社会からユートピアへの脱出劇。  環境汚染や食糧不足に追い詰められ、徹底的に合理化された社会が強烈な印象を残す。色とりどりの”ペースト”を食べ、人間的な生活を送ることのできる市民はごく一部。そんな市民も食料の供給率が下がれば、仲の良くなかった友達を指差して、過酷な労働へと送り出す。労働者は溝さらいをしながら、壁にへばりついたナメクジを食べて、カロリーを摂取して生きながらえる。死んだ労働者をペーストにして食されるというのだから、管理社会ここに来たりという感じがする。

他にも、下半身を列車に轢かれてなくした男が機械の下半身を手に入れて電気信号で性交を体験したり、カウンセリング効果を狙って遺伝的に不出来だった子どもを子を亡くした母親に一時的に預けられたりするのもシビアで良い。なお、子どももペーストにされて食される模様。

 前半はディストピア小説として面白いのだが、脱出してユートピアに行き着いて以後は脳筋によるアクションばかりで、どうも腑に落ちない。播種船と化した鯨ロークァル、彼女をめぐっての追跡劇、クレーンをつかった攻撃等々とハリウッドで映像化すれば中々見ものにはなりそうなのだが、前半の作風とのズレのこともあって、どうしてもスケールが小さく見える。  人を人とも思わない、極端に合理化された社会が魅力的な一冊。


読了日:12月24日 著者:T.J.バス
キャラクター小説の作り方キャラクター小説の作り方感想
キャラクター小説、所謂ライトノベルに対して文学理論を用いて小説の読み方から書き方まで懇切丁寧に解説した新書。ラノベには(純粋な意味での)オリジナリティというものは存在しないと断言し、書き手の知識を整理、書き出す方法を説いているのが印象的。「左右の眼の色が違う」というありふれたキャラクターであっても、職業を「探偵」や「メイド」に変えたり、「猫耳」といったパーツをつけくわえるだけで、既存の左右の目の色の違うキャラクターから離脱することができる。だから、書き手に必要なのは、まず読者として小説を分析して記号を抽出すること、そしてその組み合わせをすでに存在する作品と対比して重複を避けること。オリジナルという混沌としたイメージのつきまとう言葉を、記号の組み合わせと再定義して、小説の敷居を下げているのは非常に興味深い。

面白いことに、本書は後に東によって”データベース”と再定義されることになる記号や物語の集まりを厳密に定義していない。それどころか、TRPGのような創作訓練によって”オリジナル”が生まれる可能性さえ指摘している。社会論か創作論かの違いではあるけれど、どうぽもよりも創作の可能性を信じているあたりに希望がある。一味違うオタク論としても読むことのできる良書。

78,86,87,124,131,148,185,207,224
読了日:12月24日 著者:大塚英志

読書メーター

12月の鑑賞メーター
観たビデオの数:11本
観た鑑賞時間:873分

ザ・ロード [DVD]ザ・ロード [DVD]
(09)米国終末旅行。腹は減っても食人には手を出さない、できるだけ人を殺さず善き人であろうと父の非道を止める子どもが涙ぐましい。廃屋内のゆったりとしたソファーに座った擦り切れたジャンパー姿の父、廃墟と化したガソリンスタンドにぽつんと佇む自販機、そこに眠っていたコーラとそれを口に含んで笑顔を浮かべる少年等々、マッカーシーが描いた緻密で”情緒的な”終末後の世界を的確に再現している。中でも面白かったのは、栄養を失い枯れ果てた木々が音を立てて崩れ落ちる場面。灰色の死んだ風景に音を与えているのは衝撃的だった。
鑑賞日:12月31日 監督:ジョン・ヒルコート
エベレスト3D【DVD化お知らせメール】 [Blu-ray]エベレスト3D【DVD化お知らせメール】 [Blu-ray]
 96年にエベレストで遭難した商業登山隊のドキュメント映画。  山岳映画だが、登山者の動機や心情に重点を置いているのが印象的。ツアーの隊長を務めるも顧客の登頂実績を残せず焦っている隊長、年齢的な限界を感じている者、妻に隠れてコソコソやってきて衛星電話を間借りして平謝りする者。体力的な限界が来てもなお、無理に登頂を目指そうとする顧客と客の期待に答えようとする隊長の一致が状況をひたすら悪くしていく。  雨風といった環境描写もよく出来ている。登山者を吹き飛ばそうとする吹雪、斜面を雪を巻き込みながら吹雪、斜面を雪を巻き込みながら吹き付けてくる颪。普通、3Dは被写体同士の比較によって立体感をだしているのだが、この作品は隊をとり囲むように雪と風を描くことで奥行きを確保している。筆者は大和郡山IMAXで鑑賞したが、スピーカーから発せられる叩きつけるような音の効果もあって、エフェクト類の表現は大変楽しめた。

ただし、登山そのものについての表現が非常に甘い。1カットが非常に短いため、雄大なエベレストを写した遠景が登場してもほんの数秒で終わってしまう。細部のディテールも曖昧で、酸素ボンベの数値は見えない。

 状況表現のあまさの気になる作品だったが、大スクリーンで山へ行くことのできるという点では、またとない機会だったので、それなりの価値はあったように思う。

鑑賞日:12月24日 監督:
トータル・リコール [Blu-ray]トータル・リコール [Blu-ray]
地下鉄、空港、敵あらば場所を選ばず繰り広げられる銃撃戦、胸部に数発、あるいは頭部に一発食らって、画面端で何の遺言も残さず倒れる人々、転倒したチンピラの腹に容赦なくナイフを突き立てる女、乳房3つの女やマンチキン、頭皮の皮がめくれあがった男のような異形の人々等々、ひたすら無意味に残酷で、大量に人が死んで行く様子には終末感すら漂う。  ディックを原作にした作品とは思えない見た目の作品だが、きちんと意識を失う瞬間のフェードアウトのタイミング、天井をきついローアングルで撮影して不安感を煽ったり、記憶消失以前の自分の語りを挿入することで、自我の曖昧なあり方を見事に表現している。殺戮が終わって、観客がため息をつくようなふとした瞬間に世界観を設定して意識をとりもどさせる、うまいやり方だ。  おぞましい造形、容赦無い殺戮風景がエンタメ性を確保、医師の診断やカメラワークを通して最小限の設定を伝えてることでSFとしても通用するようにつくられている。映像と世界観がバランスを取り合っている奇妙な一本。
鑑賞日:12月24日 監督:ポール・ヴァーホーヴェン
ガールズ&パンツァー 劇場版ガールズ&パンツァー 劇場版
女の子と戦車という互いに次元の違う存在の組み合わせ方が非常にうまい。これはTVシリーズにも言えることだけど、Bisのグリルに座って使って釣りをしたり、コンビニに駐車してグレる風紀委員、三突のハッチ上でウォーゲームに興じる歴ヲタナ等々、兵器をキャラクターの生活スタイルを通して日常生のなかに沈めるための工夫がいたるところにある。特に興味深かったのは、幼少期のヒロインが二号に乗って畑の中を行くカットで、それはまるでトトロ冒頭に登場するオート三輪に乗った草壁一家のような印象さえ与える。これまでMMのフィギュアセットの中にしかなかった兵器を通した生活感がある。

 また、試合自体はネビル・シュートが立案した観覧車やフォン・ブラウンの子どもたち、朝鮮戦争の立役者から四足の自走砲等々等といった夢にも見なかった兵器が映像化され、スクリーンを縦横無尽に動きまわる等、ミリヲタのポイントを押さえたつくりになっている。映像的にも車長ハッチを開放してから車外を眺めて人物に目線がいくまでをPOVで、それもほぼ1カットでやっていたり、その間のCGと作画の行き来にほとんど違和感がないなど驚きの連続だった。
なお、梅田ブルク7で鑑賞。事前にBOSEを使用しているという話は聞いていたのだけれど、予想していたよりも良かった。砲撃音はもちろんのこと、車体同士がすりあったり、ドリフトしている時の金属と地面が擦り合う音は聴き応え十分。衝撃音は大和郡山IMAXもなかなかだったけど、そちらよりも芯が通った、腹の底から響くような気持ちよさがある。(富士火力演習場で感じた衝撃と同じ)

鑑賞日:12月24日 監督:水島努
ガールズ&パンツァー 6 (最終巻) [DVD]ガールズ&パンツァー 6 (最終巻) [DVD]
 黒森峰との決勝戦。12話中、最も試合の濃度の高い二話が収録されている、と思う。第一話冒頭の砲塔視点を旋回させながら周囲を見渡す技巧を四号と五号のチェイス中に使用しているのが印象的。(劇場版でも敵車の後方に回りこむ場面でクレーンカメラのような高さ、回し方で戦車の砲塔旋回を追ったり、西住が車中から外を見回すまでを1カットで描いたりと主観視点の見せ方、技巧の詰め方が非常に面白い)  他にも砲撃時の衝撃と時間差でやってきた爆風でめくれるメモ帳、履帯にピンを打ち付ける歴女、足回りの修理のために転輪を転がすティーガー2の乗員等々、ミニタリーミニチュア的な日常感が漂っているのも良かった。 
鑑賞日:12月24日 監督:水島努
ガールズ&パンツァー 5 [DVD]ガールズ&パンツァー 5 [DVD]
 試合場は泥沼の東部戦線を髣髴とさせる。丘を滑り落ちていくシャール、雪を巻き上げ、サスペンションをきしませながら前進する四号など、プラウダ戦は試合会場の環境と戦車の動きが見事にマッチしていて、見応え充分。また、単に東部戦線の史実的なリアリティを求めるのではなく、あくまでカーチェイスの延長で戦車同士の追いかけっこを描いているのが良い 

調子づいた大洗チームが墜落する第八話プラウダ戦。これまでの集大成であんこうチームがあんこう踊りを先導し、秋山は歴女と共に雪の進軍を歌い行進する。目的も優勝から廃校の阻止という、より切実な問題に置き換わる。黒森峰戦前夜として非常にうまく練られた一話。


鑑賞日:12月24日 監督:水島努
ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です! [Blu-ray]ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です! [Blu-ray]
謎のローアングルからアンチョビ校の面々とP40を比較したり、P40を重戦車と連呼したり、ひたすら飯くって寝たりとやんわりエスニックジョークを混ぜたり戦史好きをニヤリとさせるシーンが散りばめられている。TV版が戦車戦を通して友情を深め、腕を磨いていくストレートなスポーツものだったのに対して、OVAは各人物が立ち位置を自覚し、それを武器にボケたり突っ込んだりするなど、ある程度自分のキャラクターを自覚しつつ動いている。つまりはプラウダ、黒森峰との一戦をすでに観た人に向けてつくられてはいるのだがカエサルがアンチョビ校の旧友と本名で語り合い、装填練習に励むなどTVシリーズとは違う要素が積み込まれて楽しい。(プラウダ戦の前置きのみならず、ラストのセモベンテとの決闘につながっていくのが面白い) 
 特に印象的なのは西住がかばさんチームとP40の対抗策を練っているシーンで、あれほど戦車について語ることを拒んでいた彼女がビットマンの名を口にしている。これは第七話で黒森峰時代のトラウマを克服したことの証明であり、プラウダ戦の立てこもりにもつながっている。  戦車戦もOVAらしい工夫が凝らされている。囮として逃げまわり、時には丸太をつかったロンメル戦法やマウスの置き石と化していた八九式が、追いかける側にまわって豆戦車を撃ちぬく。 、

鑑賞日:12月24日 監督:水島努
ガールズ&パンツァー 4 [DVD]ガールズ&パンツァー 4 [DVD]
本来ならサンダース戦とプラウダ戦の間で語られるはずだった、OVAのアンチョビ戦を七話のあとにはさみながら鑑賞。  サンダース校との試合のあとである第7話「次はアンツィオです!」は校名を冠しながら戦車戦は登場しない。プラウダ戦への準備話ともいうべき一話で、秋山が西住の黒森峰時代のトラウマを治したり、沙織が妄想恋愛アドバイスで一年生と信頼関係を結んだり秋山が歴女と趣味人の輪をつくったりと縦の人間関係が強化されていく様子が描かれている。(この一話がプラウダ戦での雪の進軍合唱へと接続される)。年齢差ではなく、技術の伝達をとおして形成されていく縦の関係に癒やされる。  物干し竿と化した長砲身のジョークも面白かった。。、
鑑賞日:12月24日 監督:水島努
ガールズ&パンツァー 3 [DVD]ガールズ&パンツァー 3 [DVD]
 シャーマンシリーズで固められたサンダース校との一戦。数押し包囲のオーバーロードのような作戦、通信傍受を利用した諜報戦といったシナリオ部分の巧みさに加え、映像的にも機銃の跳弾表現や戦車内の狭さ、暗さ(影)を利用したアリサの表情変化等見応えがある

試合がメインとはいえ、他の乗員が戦い慣れた西住に追いつこうと乗車の訓練をしているシーンも登場。スポーツ漫画の延長という基本コンセプトの硬さが感じられる巻。(この乗車時の動きが乗員全員ぴったりあっている。第一話の戦車道プロパガンダに登場した三号戦車への乗車シーンといい、見ていて気持ちが良い)

鑑賞日:12月24日 監督:水島努
ガールズ & パンツァー 2 [DVD]ガールズ & パンツァー 2 [DVD]
練習試合と聖グロリアーナとの練習試合。歴女チームの面々が各々好きな記号や色をぶち込んでつくった三突や女の子らしくピンク一色に塗ってしまったM3、それを見てなく軍ヲタ代表の秋山の嗚咽は強烈。こういった個性的な戦車の塗装や学校生活の出来事をメインに据えることで、(秋山や歴女の台詞のような)戦車の変質的な側面とバランスをとっている。
鑑賞日:12月24日 監督:水島努
ガールズ&パンツァー 1 [DVD]ガールズ&パンツァー 1 [DVD]
 女子校生が戦車道に打ち込む物語。転校してきた秀才戦車兵、彼女のトラウマを癒やし戦車道に引き込む戦友たちと基本的にはスポーツマンガの定番をなぞっている。歴史の薀蓄を喋くる歴ヲタといった従来のヲタクが自己投影し易いキャラクターからバレー部で鍛えた筋肉で砲塔に砲弾を打ち込む元選手まで、観客に自己投影し易いようなキャラクター配置がなされている。また、戦車一両を1チーム、砲撃をバレーのトスに見立て、その解説に歴史好きを置くことで違和感を最小限に抑えているのも印象的 

第一巻はキャラクター紹介と戦車道の説明と教習。まるで普通の部活紹介のように戦車道の目的が語られ、その一環として三号戦車が火を吹き、バットの振り方を教わる生徒のようにヒロインらがエンジンのかけ方やクラッチのつなぎ方を学ぶ様子がエグみなく描かれている。  戦車表現も精密かつ大胆。四号や三突が走りだす度に車体を仰け反らせ、不正地に引っかかってガタガタと車体が揺れる度にキャラクターの髪が細かく揺れ、停止する度に前のめりになるのが楽しい。 。

鑑賞日:12月24日 監督:水島努

螺旋回廊 (パラダイムノベルス 83)

螺旋回廊 (パラダイムノベルス 83)

 

 

 1999年のアングラサイトアングラサイトに関わってしまって、人間関係を壊されていく大学助教授を描いた作品。
 ネット掲示板の明らかに違法で現実化不可能だと思わせるような書き込みが登場人物らの日常生活をじわじわと侵食し、追い詰めていく過程が丁寧に描かれている。興味本位で巡回していたサイトに、隠し撮りされた自分の日常生活の映像や教え子の学生証が掲載される。誰かに見られている、身近な人間に危険が迫っているが伝えることができない、そんなもどかしさがキリキリと首を絞めあげてくるのが良い。特にヒロインが拉致され犯される光景を警察の情報や噂ではなく、掲示板の実況配信、犯人からのビデオレターという形で知っていくのが良い。
 また、現実では封じ込まれていた欲望が掲示板に関わるうちに自覚されていくという、犯人側の変貌も面白い。ネットの情報を元にたどり着いた公園で吊るされた少女を強姦する助教授、掲示板に依頼して強姦を実現化した男たち。彼らの生活スタイル自体は平凡で、事件を引き起こすタイプの人間には見えない。HPに掲載されたわいせつ動画を閲覧し、彼らに依頼すれば自分も同じことができると自覚し、はじめて凶行に走る。互いに無関係で、無力な人間たちが仮想空間のひとつの場所に集合し、妄想を発露して団結力を高め、集団として力を持ちはじめる、そういったナマの現実だけではありえない人間関係の形、そこに漂っているパワーを見事に描き切っていたと思う。

DENの別の物語。主人公が恋人や同僚が陵辱される様子を実況配信で見て絶望する、という前作のおおまかな流れを引き継ぎ、イベントシーンを増量。謎だったEDENの構成員が明かされるなど、無印を補う要素が散見される。

 

螺旋回廊2 (Paradigm novels (145))

螺旋回廊2 (Paradigm novels (145))

 

 

 このシリーズはNTR感を大切にしている作品だ。掲示板にアップロードされた陵辱され、暴行を加えられ、廃人と化していく彼女の姿。目で見ることはできるが、決して手を触れることはできない場所で行われる数々の忌まわしい行為が嫌悪感を膨らませる。

 前作と大きく違うのは、そんな掲示板で繰り広げられる凄惨な光景に加えて、ネットの向こう側から帰ってきた彼女らと再開できることだろう。来訪した主人公の目の前で交じり合うヒロイン、披露される主人公が頼み込んでもしてくれなかったテクニック、動物のように檻で飼われる妹、トランクで搬送されるメガネっ娘。主人公も例外ではない。EDENと現実で遭遇した彼らはヒロインを動物のように扱うことで精神を破壊し、四肢をも切断してしまう。

 ただ、物語としてまとまりがないのが残念。レズ娘の嫉妬、独占欲によって動き出すEDENという仕組みや感情の渦は面白いが、具体的にどう絡んだのかが一切説明されていない。前作は犯人が自分で計画を練りあげてEDENに依頼することで各ルートをひとつにまとめることに成功したことを考慮すると、不足しているような印象。また、女装趣味という紫苑に似た性癖を持つ彼も、先生と結ばれることで大縁談を迎えた紫苑√のことを思うと衝撃的なイベントを展開するために置かれたコマに見えてしまう。

 性癖サーカスとしては面白い作品だった。