印象 2013/06/01-

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スカイフォール-007は二度死ぬー

 

 

 Mの愛情に飢えた元MI6と手負いのジャームズボンドのおいかけっこ、あるいは上司の死とMQマネーペニーが揃うまでの物語。
 マッドサイエンティストの開発するボンドカーもタバコ型爆弾も頼りにしない。酒に詳しいが決して泥酔せず、無闇矢鱈に女を漁ることもなく、無表情で任務をこなす、そんな鉄面の男がカジノ・ロワイヤル慰めの報酬の007だった。Qの提供してきたファンタジックな装備が登場しない、Mの部屋の前にマネーペニーが登場しない等々のお約束破りはもちろんだが、ボンドを演じるクレイグという役者自体が従来の像からかけ離れていた。金髪碧眼で無表情、機械的に敵をなぎ倒していく姿は、ロシアより愛をこめてロバート・ショウを思い出させることはあっても、歴代のボンドを思いださせることはない。それでも、イアン・フレミングの原点に立ち返る意味ではじまったこの企画は、クレイグの冷徹な演技やヴェスパーとの悲恋と復讐劇、ポーカーゲームを通した諜報戦等々のハードボイルドタッチの作風で見事に成功した。

 スカイフォールは、そういった生真面目なスパイ像を崩し、ゴールドフィンガー以降の風刺的で、豪快で、お約束を守るボンド"と再統合した。だから、今作の彼は置いた自分の肉体やMとの関係に悩みつつも、女を口説く時は笑顔、格闘中も隙を見つければ笑顔、逆に取り押さえられた時も笑顔だ。

 前作慰めの報酬と同じカーチェイスも登場するが、ランドローバーで追っている車はアウディ。ショベルカーに乗り換え、キャタピラでペシャンコにしている車はアウディと同じドイツのビートル。”お約束”を守って、前世紀の敵をまだ追っている。わざわざ台詞に社名を混ぜ込んでいるのが面白い。行き過ぎたファンサービスともとれるが、アストンマーチンDB5を逃走手段として使用しているも良い。ゴールドフィンガーでお馴染みの車がイギリスの荒野をロングショットで駆け抜ける。シフトレバーに仕組まれた赤いボタンを親指でなぞる様の優雅なこと。
 彼を取り巻く環境も様変わりしている。指紋認証拳銃を「壊さずに返してください」と忠告しつつ手渡すQ、Mの部屋を守るマネーペニー、九龍城と軍艦島を足して二で割ったような島に設置された巨大サーバー、いかにも成金が集まりそうな中国”風”の龍をモチーフにしたパーティー会場、太ったボディーガードとの太鼓橋上の決闘、下で蠢く大蜥蜴。ゴールドフィンガーや二度死ぬで培われたユニークな要素が、これでもかとつめ込まれている。
 前二作品で人格面の成長を描いて、従来のボンド像から一旦離れて「死んだ」シリーズが、フレミングを経由して帰ってきた。それも、カジノ・ロワイヤルの悲恋や慰めの報酬の復讐心を背負ったままで。あらゆる007の面白さが詰まった一本。